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第61話 わたしの王子様は、わたしだけを見てくれる人が良いの!

 わたしにはまだちゃんとした視聴者……というかファンの人がついていない。

 だから、戦闘をするための土台が整っていないんだ。


 それでもモンスターと戦うなら、十分に安全マージンを取って、仮にスキルが使用できなくてボコボコにやられても死なずに逃げられるくらいのレベル帯を狙うべき。


 つまり今回のようなレイドボス戦に乱入するのは――。


「やっぱり厳しいかな……」


 ここでクエストを断念するしかないってことかあ。

 悔しい……。


「まあ、待て。話はわからんが、話はわかった」


 ≪アサダ≫さん……まだいたんですか?


【≪アルミちゃん≫の目がこう言っています。「≪アサダ≫さん……まだいたんですか?」と】


 ちょー! 心の声を代わりに言うのは反則ぅ!


「まったく……失礼なヤツだな。その『配信者ストリーマー』特有の戦闘システムについてはさっぱりわからん。理解するのは放棄した。しかしだな、俺にもわかることはある」


「危ないからやめろって言うんでしょ……」


 そんなのわかっていますよ……。


「違う」


 ん、じゃあなんですか?


「サブマスとして見過ごせないから護衛として同行してやると言っている」


「……は?」


「えっ?」


 ≪アサダ≫さんがついてくるんですか?

 えー。

 頼りない……。


「なんだその目は! ここは『サブマスが一緒にいれば安心ですね。ありがとうございます。よろしくお願いします』と、涙を流しながら喜ぶ場面だろ?」


 えー。

 だって≪アサダ≫さんって頼りないし……。


「サブマスって言っても、非戦闘職じゃないですかー。JOBも『錬金術師アルケミスト』でしょ」


 正直、戦闘には役に立たないんじゃ……。

 非戦闘職の2人で行っても、正直共倒れになりますって。


「お前な……勉強不足過ぎるぞ……」


 ≪アサダ≫さんが大きなため息を吐いた。


「『錬金術師アルケミスト』は2次職なんだよ。1次職は『騎士ナイト』なの。俺はもともと斧使いだから、戦闘もバリバリこなせるんだよ。サブマスを舐めるなよ?」


「えー、知らなかったぁ。AOでは『錬金術師アルケミスト』とか不遇過ぎて、サブキャラで育てる人がいたら珍獣扱いされていましたし、ぜんぜん知識がないんですよね。そうなんだー。『騎士ナイト』の転職先の1つなんですね! 勉強になりましたー」


 物理職のほうは知識が薄いから……。それに2次職の『錬金術師アルケミスト』なんてほとんど見たことなかったからなぁ。自作の火炎瓶を投げて攻撃するから、お金ばっかりかかっていて、万年貧乏職のイメージしか……。


「『錬金術師アルケミスト』への転職を勧めてくれたのは姫なんだよ。俺の力が必要になる時が来ると言ってくださってな」


「期待されているんですね。よっ、サブマス!」


 ポーション系の作成では、一般生産スキルと比べると格段に質の良いものになるし、1家に1台『錬金術師アルケミスト』がほしいのは事実かもしれない。作成するための素材集めから考えると、コスパは超絶悪いけどね。


 でもサブマスにするほどかなー。≪アサダ≫さんは顔が良いからそばに置いておきたい気持ちはわかる。……でも結婚しているしなー。


「お前、なんかまた失礼なことを考えているだろう……?」


「いいえ? ぜんぜん? サブマスがついてきてくれるなら助かるなーって思ってました! ありがとうございます! よろしくお願いします!」


「……まあいい。時間がないんだろ。すぐに行くぞ」


「えっ、あ、はい! でも家族でお食事中だったんじゃ?」


 席はどこです?

 せめてご挨拶とお詫びだけでも……。


「俺は『猫の眼』ギルドのサブマスターだ。リアルな家族も大事だが、ギルドメンバーも同じくらい大切な家族なんだよ。新人の≪アルミちゃん≫が困っているのに、飯なんて食っている場合じゃないだろう?」


 ちょっと……かっこつけるのはやめてくださいます?

 感動しちゃうじゃないですか。


【NTRいきますか?】


 だからいかないって言ってんでしょ!

 わたしの王子様は、わたしだけを見てくれる人が良いの! 他人のしあわせを壊してまで手に入れるしあわせなんて必要ないの!


【そう言い続けて早30年……】


 まだ29歳だから!

 って、ここでは15歳設定だからね⁉


「ポーション系は任せておけ。準備はなしだ。すぐに走るぞ」


「あ、はい!……あ、店員のお姉さん! わたし、帰ります! お金は……もう事前に払っていますけど、お昼寝の場所代……追加料金はなしで? はい、ありがとうございます! バタバタしてすみません。おいしかったです。また来ます!」


 お昼寝用のスペースはホントに無料なんだ……。

 このお店、赤字になって潰れなきゃ良いけど……。味は良かったし、また来たい。


「おい、何やってるんだ! 置いていくぞ!」


「あー、はいはい、すぐに行きまーす!」


 ≪アサダ≫さん、めっちゃ本気だ。

 これならホントに間に合うかも⁉


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