【≪アルミちゃん≫そろそろ起きてください。すっかり暗くなってしまいました】
……んぁ?
【夕方を通り過ぎて夜です】
……えっ⁉
「うわっ、ホントだ! さっきまであんなに良い天気だったのに、もう外が真っ暗!」
もしかして、わたしたち昼寝し過ぎちゃった⁉
【すっかり寝てしまいましたね。なんとギルドハウスの夕食時間も過ぎてしまいました】
いや、もうそれって昼寝ってレベルじゃないから! ガチ寝じゃん! なんでもっと早く起こしてくれなかったの⁉
「えっ、今何時よ⁉」
【今は……19時30分を過ぎたところですね。そろそろギルドハウスに戻らないといけませんね】
「ちょっと待ってよ! そんなこと言っている場合じゃなくない⁉」
【……たしかにそうですね。ここで夕飯も食べていきましょうか。すみませ~ん、席に案内をお願いしま~す】
「ぜんぜんちがーう!」
店員さんを呼ぼうとするなっ!
夜用のグランドメニューを見るんじゃない!
どこまで食い意地の張ったネコなの⁉
「クエスト中でしょ! 残り時間は⁉」
昼間だったのが夜になっているってことは……。
【残り……1時間15分ですね】
「マジか……」
昼寝する前は7時間あったはずなのに……。貯金を完全に使い果たしちゃった……。
「≪サポちゃん≫、急ぐよ!」
【まだ夕飯をいただいてませんよ】
だから首にナプキンを巻くんじゃない!
「そんな場合じゃないでしょ! 急いで≪クロッシーダイク≫さんを探さないと! まだ3人目の依頼なんだよ⁉」
【でももう遅いですし……。今日は終わりにして明日再開しませんか?】
「えっ、時限式のクエストってそんなことできるの⁉」
AOの時限式クエストだと、たとえログアウトしても時間のカウントは進んでいって、自動失敗になってたよね⁉
【姫に頼んでもう一度クエストを発注してもらえば良いじゃないですか】
なんて適当な……。
まさかサポートAIがクエスト失敗を勧めてくるなんて……。
「でもまだ1時間以上残り時間はあるし、そういうのは最後までやってみて、ホントにダメだったらにしよう! わたしのがんばりに期待して視聴してくれている何万人もの人に悪いと思うのよ!」
まだ終わってない!
まだがんばれる!
【現在の同時接続数は1100です】
「あれー⁉ 昼寝前にはもうちょっとで10万とか……あれー⁉」
寝顔配信で10万行くんじゃなかったっけ!?
【どうやら≪アルミちゃん≫の寝顔に集客力はなかったようで、一気に右肩下がりになってしまいました。天使のような寝顔だったのにおかしいですね……】
「そんなことだろうと思ったよ!≪サポちゃん≫を信じたわたしがバカだった!」
昼寝なんてしないでちゃんと≪クロッシーダイク≫さんを探しに行っていれば良かったんだよ……。失敗したー!
【店員さんと一緒に≪アルミちゃん≫の顔にラクガキをしたのがよくなかったのでしょうか……】
「鍵がかかる個室の意味ー! なんで店員さんを連れ込んでそんなひどい真似するの⁉」
えっ、何。もしかして今、わたしの顔ってひどいことになっているの⁉
鏡プリーズ!
カメラで映さないで!
【ちゃんと証拠隠滅しましたよ。肌荒れしないように万能薬でお手入れもしておきました】
ちゃんと消したのはえらいけれど……万能薬ってそういうのにも使えるんだっけ……?
【万能ですから】
万能薬の万能ってそういう意味じゃなくない?
【万能薬を水で溶いて拭いたら、マジックの跡はきれいに消えましたから問題ないです】
マジックのインクってまさかの毒物扱い……?
いやいや、今はそんなことを気にしている場合じゃない! とにかく1秒でも早く≪クロッシーダイク≫さんを見つけないと!
「すぐにギルドハウスに戻るよ!」
【まだ諦めないつもりなんですね?】
「もちろん!≪クロッシーダイク≫さんはサブマスだし、ギルドハウスに戻れば誰かが居場所を知っているでしょ! 夜だし、案外もう自室に帰っていたりして」
それなら楽勝なんだけどなー。
【≪クロッシーダイク≫さんはギルドハウスに住んでいないですよ。街の東側にある居住地区にご家族と一緒に住まわれています】
「あ、そうなんだ。先にそっちに行ってからギルドハウスに向かうほうが良いかな」
距離的には居住地区のほうが近いし。
【いいえ、無駄足なので止めておきましょう】
「なんでよ? さすがに執務の時間は終わりでしょ。もう自宅にいるほうが確率高いんじゃない?」
【いいえ、そうではないのです】
そうではないって?
【現在、≪クロッシーダイク≫さんはご自宅にも、ギルドハウスにもいらっしゃらないのです】
どういうこと? 何か知ってるの?
【≪クロッシーダイク≫さん以下、ランクAの冒険者たちは、3日前にギルドを出発し、ほかのギルドと合同でレイドボスに挑んでいるため、現在不在です】
「マジで……」
完全に終わったー!
はい、このクエスト詰んだー!