「それでわたし、≪ニャンニャン姫≫の特別クエスト中なんですけどー、4人目の依頼書をみなさんに見てほしくて!」
依頼書を広げて、≪ライノット≫さん、≪リルちゃん≫、≪サリー≫さんの3人に見せる。
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種族 :人族
性別 :女
年齢 :16
職業 :
所属 :猫の眼ギルド
特徴 :無口。
ヒント:戦闘マシーンのように見えるが、打ち解けるとかわいらしいのじゃ。
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「こんな感じの人なんですけどー」
みなさんならわかります、よね?
「なるほど……」
「なるほど~♡」
「なるほどデス」
これはどういう反応⁉
≪ライノット≫さんは≪クロッシーダイク≫さんと≪アサダ≫さんと似たような渋い顔を、≪リルちゃん≫はなんだかとっても楽しそうな顔を、≪サリー≫さんは……無表情?
「この特別クエストの時にヒントを出すことが禁止されているのはサブマスまでですよね? みなさんは平気なはず! この依頼書の方がどんな方なのか教えてもらっても?」
って、ものすっごく微妙な空気なんですけど……大丈夫ですか? もしかして、ギルドの中でかなりのトラブルメーカーの人とか……?
「≪サリー≫ちゃんよろしく~♡」
≪リルちゃん≫は相変わらず楽しそうに笑っている。
「そうデスね。責任を取ってワタシがお話しマス」
……責任?
「彼女の名前は≪セリー≫。ワタシの子デス」
……子? 子ども⁉
「えっ、うっそ!≪サリー≫さんっておいくつですか⁉ 16歳の子がいるって……うっそ⁉」
どう見ても10代なのに⁉
よくて姉妹では⁉
「ワタシは2000歳を超えていマス。正確な年齢は忘れてしまいまシタ。ワタシは人ではなく、エルフなのデス」
そう言いながら、≪サリー≫さんは結んでいた髪をほどく。
髪の毛の下から現れたのは――。
「あ、耳が! すごいー、ホントにエルフだ!」
長い耳を髪の毛の下に隠していたらしい。
2000歳を超えているなら16歳の子がいたってまったく不思議じゃないよね。
エルフ族最大の特徴である耳を見て、わたしは素直に納得してしまった。
「≪サリー≫ちゃん♡ それだけじゃ、ないよね♡」
相変わらず楽しそうに、≪リルちゃん≫がほっぺたをつつく。
「それも……見せたほうが良いデスか?」
「もちろん♡ せっかく≪アルミちゃん≫が配信しているんだもん!≪サリー≫ちゃんのかわいい顔をみんなに見てもらうチャンス♪」
かわいい顔?
どういうことだろ。
「配信に載せるのはちょっと困るのデス……。影響範囲がわからないのデス……」
素顔?
今のちょっと地味なお顔は素顔じゃないってこと? そっか、エルフは美男美女だって言うよね。もしかして……なんらかの事情で素顔を隠しているの?
【一時的に配信の映像をイメージ映像に切り替え、音声のみに変更しました】
ナイス≪サポちゃん≫!
これで素顔を晒しても平気だね!
「配信に載らないのであれば一瞬だけお見せしマス。一瞬だけにしないとどんな問題が起きるかわかりマセン」
≪サリー≫さんはうつむき、何か小声でつぶやく。
聞き取れない言語……精霊魔法か神言魔法か。
呪文を唱え終わると、≪サリー≫さんの顔に光の粒のようなものが集まってくる。集まった光が一瞬フラッシュのように強く発光。その後、ゆっくりと光は霧散していった。
「いかがデスか?」
そう言ってわたしを見つめてくるのは――。
「えっ、と……≪サリー≫さん、ですよね……?」
首から下はさっきまでのダイナマイトボディのまま……。こんなすっごい人そうそういるわけないし。
「はいデス」
首から上は……誰……?
「どこかの美術館で見たような壁画の人じゃん……。えっと女神様……?」
あまりにも美しすぎて……美しさを通り越して、人の脳では理解できないナニカだった。
きれい……。
だれ……
ほしい
なに
すき
ほしい
かゆい
うま
はっ、いけない!
これ以上直視していたら――。
「限界デス。戻しマス」
≪サリー≫さんは再びうつむいて呪文を唱えた。
元の地味めな顔に戻る。
「なんか頭がぼうっとします……」
見てはいけないものを見てしまった。
そんな感覚だけが残っている。
【配信を通常映像に戻します】
「≪サリー≫ちゃんのお顔は特別なの~♡ 人が10秒以上直視したら狂うから注意してね♡」
笑顔でなんて恐ろしいことを……。
「あのー、そういう大事なことは、先に言ってもらっても良いですか……? わたし、数秒眺めちゃって、ちょっと……だいぶ危なかったんですけど?」
「でもかわいかったでしょ♡ 私の≪サリー≫ちゃんだからね〜♡ あげないよ~♡」
たぶんちょっと記憶を持っていかれてしまったので、あんまり覚えていないデス……。
って、また≪リルちゃん≫の顔が、≪サリー≫さんの胸の谷間に挟まって……。
「話を戻しマス。その依頼書に書かれた人物の名前は≪セリー≫。ワタシの子なのデス」
胸の谷間に挟まっている≪リルちゃん≫を無視して話が進む。
絵がシュール!