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第79話 人の性的嗜好はそれぞれですから

「話を戻しマス。その依頼書に書かれた人物の名前は≪セリー≫。ワタシの子なのデス」


 胸の谷間に挟まっている≪リルちゃん≫を無視して話が進む。


 シュール!


 でもまあいっか。

 ≪サリー≫さんの反応からしてこれは日常茶飯事なワンシーンのはず。いちいち気にしてはいけないってことなんだろうね。


 というわけで改めて依頼書を確認してみましょう。


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 種族 :人族

 性別 :女

 年齢 :16

 職業 :高位神官ハイプリースト/Lv.92

 所属 :猫の眼ギルド

 特徴 :無口。

 ヒント:戦闘マシーンのように見えるが、打ち解けるとかわいらしいのじゃ。

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 ≪サリー≫さんが3次職の『大司教アークビショップ』で、娘の≪セリー≫さんが2次職の『高位神官ハイプリースト』かあ。どっちも神官系なのは血筋かな?


 ってちょっと待って?


「種族が『人族』になっていますけど? エルフ族じゃなくて?」


 こんな大事なところを間違っていますよ?


「≪セリー≫は……人との間に生まれた子なのデス。正確に言えば『ハーフエルフ』ということになりますが、身体的な特徴が『人族』のほうに寄っているため、そちらで通してもらっていマス」


「なるほどー。じゃあ耳は小さいってことですか?」


「そうデス」


 まあそれなら『人族』って言っちゃったほうが面倒事が少ないのかも?


「でもでも~、≪セリー≫ちゃんはとっても美人さんよね~♡ 肌も雪のように白くてきれいだし、さすが≪サリー≫ちゃんの子どもだよ~♡」


 ≪リルちゃん≫が、今度はほっぺたにキスの嵐を浴びせている。

 それでも無反応な≪サリー≫さん。


 いや……ホント2人はどういう関係なの?


「≪セリー≫はあまり群れないし、我が道を行くタイプだね。『高位神官ハイプリースト』として……うん、一生懸命がんばっているとは思うよ」


 と、≪ライノット≫さん。

 ひさしぶりにしゃべったと思ったら……声が渋い!

 でもなんか言葉に含みがあるような?


「ここのヒントに書いてある『戦闘マシーンのように見えるが、打ち解けるとかわいらしいのじゃ』って何ですか……?」


「そうだね……人と触れ合うのは得意ではないのかな? 作戦行動中もほとんどしゃべらないね。≪セリー≫とは基本的に身振り手振りで会話をすることになる」


「マジですか……」


 身振り手振りだけでコミュニケーションを取るって相当重度だよ……。


「え~、でも私とはたくさんお話してくれるよ~? 時々パジャマパーティーもしてるし~?」


「『打ち解けるとかわいらしいのじゃ』の部分ですかね……?≪リルちゃん≫には心を許しているってことで?」


「私が≪サリー≫ちゃんの恋人だからかな~♡」


「こ、恋人⁉」


 この距離感はガチのやつ⁉

 百合カップルってホントに存在したんだ!


「違いマス。≪メリル≫の冗談を真に受けないでクダサイ」


 とため息を吐きながらも、首に絡みついている≪リルちゃん≫の頭を撫でているわけですが……恋人じゃないとすると、距離感バグり過ぎてないですか?


「この2人はいつもこんな感じだから気にしてはダメだよ」


 ≪ライノット≫さんがほんのり微笑みを浮かべる。


「いや……気になるでしょ……。≪ライノット≫さんは2人とずっとパーティーを?」


「ボクたちは固定パーティーというわけではないけれど、レベル帯が近いし、JOBの相性も良いから、わりと組むことは多いかな」


「そのたびにこれを見せられているんですよね……?」


「まあそうだね」


「いや……きつくないですか?」


「そう? もうとっくに慣れたよ」


「慣れ……。でもクエストって何日も泊りがけで行くこともあるんですよね? 夜とか、このイチャイチャをずっと見ていたら……その……アレがアレしてアレな気持ちになったりとか……」


「アレ?」


 小首を傾げる≪ライノット≫さん。


 この人マジ?

 えっ、こんな濃厚なのを間近で魅せられ続けたら、普通にムラムラしたりしないものなの⁉


【≪アルミちゃん≫、この話題はこれくらいにしておかないと大変なことになります。これはプライベートボイスです】


 大変なこと、とは?

 配信に載せるには下ネタがきつかった?


【≪ライノット≫さんの性的対象は主に同性の方です】


 OH……。

 今、すべてを理解しました。


 なんかね、ちょっと話が噛み合わないなーとは思っていたんだよね。

 わたしの気のせいだったらあれなんだけど……≪ライノット≫さんって、≪クロッシーダイク≫さんのことを目で追っている、よね?


【残念ながら≪クロッシーダイク≫さんは妻子持ちです】


 何も残念ではないんだけど……。

 ≪ライノット≫さんの秘められた想いが叶うことはなさそうって意味では残念なのかな?


 んー、でも≪アサダ≫さんじゃなくて、≪クロッシーダイク≫さん……なんだね。ちょっと意外だなあ。


【人の性的嗜好はそれぞれですから】


 AIプログラムなのに知ったようなことを言うじゃん?


【あらゆるデータパターンを集めていますから、≪アルミちゃん≫よりは詳しいと思いますよ】


 ふーん?

 じゃあ、わたしより人間に詳しいAIさん。これから会いに行く≪セリー≫さんと打ち解けるにはどうしたら良いの?


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