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第76話 ダンジョン――それは夢幻の存在

 心臓とも言うべきダンジョンコアを失ったダンジョンは、もとの状態(山?)に戻るべく、奥のほうから徐々に崩落していった。


 自然の自浄作用的な?

 なんて考えている間にも崩落が迫ってくる!


 とにかく逃げなきゃ!

 ≪サポちゃん≫は無事なのかな……。



 わたしと≪アサダ≫さんがダンジョンの洞窟入り口から飛び出てから数分後。 

 洞窟の入り口が土で埋まる。

 山肌に突如として開いた洞穴――ダンジョンへの入り口。

 けれどそれは幻で、最初からそこには何もなかったかのように修復されていき、やがてほかの部分と変わりない土壁に戻っていった。

 そうしてようやく、それまで中から激しく聞こえていた崩落音が止まった。


「終わった、のかな……?」


【終わりましたね】


「≪サポちゃん≫⁉ びっくりした……。ぜんぜん戻ってこないから埋まっちゃったかと思ったよ……」


 まあ、自分から残るって言ったんだし、帰還する手段がないわけないとは思っていたけれどね。


【おかげさまでスペクタクルな映像を撮影することができました。これで≪アルミちゃん≫の人気がさらにアップすること間違いなしです】


「そ、そう……? わたし、何にも関係ない気がする……」


 でもそっか。

 ダンジョンのすごさみたいなのを動画で流して、AO2自体の宣伝ができれば、それは結果的に中で配信をしているわたしの宣伝にもなるってわけね。つまり、AO2=わたし。独占配信者の特権だー!



「ダンジョン消滅を確認。全員ケガはないか?」


 ≪クロッシーダイク≫さんが周りにいる冒険者たちを確認し、点呼を取り始める。


「≪アルミちゃん≫、今回は大活躍だったな。姫もお喜びになっていると思うぞ」


 点呼が進む中、≪アサダ≫さんが声をかけてきた。


「誰かさんたちのひどい新人いじめのせいで、大活躍させていただきましたー。どうもありがとうございましたー」


「ずいぶん棘がある言い方だな。ケガもせず、無事だったんだから良いだろう? ギフトもいっぱい弾んだのにおじさん悲しいな」


 ≪アサダ≫さんが笑いながら言う。


「はいはい、ギフトはありがとうございましたー。って≪ニャンニャン姫≫にもお礼しないと……。とんでもない金額を貢がせてしまった気がするし……」


 赤ギフトとか金ギフトとか、冷静に考えるとヤバくない?

 えげつない金額? 城が建つほどの金額って何? そんなの1回の戦闘で受け取って良いものなの?


「それだけ姫が≪アルミちゃん≫に期待をしているってことさ。俺もうかうかしていられないな。早くレアJOBのJOBツリーを生やして3次職になって、姫に城の1つでもいただけるようにならないとな。ハッハッハ」


 冗談なのか本気なのかわからない宣言。

 でも、≪アサダ≫さんが良い人だってことだけはこの戦闘を通じてわかったかな。ちょっと説明過多でおしゃべりな人ではあるけれどね。


「≪アサダ≫、それに≪アルミちゃん≫もお疲れ」


 点呼を取り終えたのか、≪クロッシーダイク≫さんがこちらにやってきた。

 さっきまで厳しい表情で指示を出しまくっていた人とは思えないほどやさしい声。


「お疲れ様でしたぁ。話には聞いていましたけど、盾の防御すごいですね。あの下に入れば無敵だなあ。おかげさまで何とかアークデーモンも倒せましたよ」


 防御特化ビルドって、パーティー戦ではホント強い。

 それは改めて実感させられたね。

 タンク職もやってみたいなってちょっと思いました。でもやっぱり配信だと地味かな?


「姫から、『≪アルミちゃん≫に1人で戦わせるのじゃ』とお達しがあった時にはどうなることかと思ったが、姫の見立て通りの活躍だったな。また一緒に戦おう」


 右手を差し出し、握手を求められる。

 太い腕……。

 これが物理職の鍛え方かあ。


「こちらこそよろしくお願いします」


 ≪クロッシーダイク≫さんの半分もない細腕で握手に答えていると――。


【≪クロッシーダイク≫さん、うちの≪アルミちゃん≫に気軽に触らないでください。握手は5秒で10000[SEED]です】


「ちょっと≪サポちゃん≫⁉」


 アイドルの握手会じゃないんだから!


「ハハ。それは失礼した。お詫びに今度うまいものでもごちそうしよう」


 ≪クロッシーダイク≫さんは笑いながらわたしの手を離し、≪サポちゃん≫に触れようとして……逃げられてしまった。


【私へのお触りも禁止です】


 ツン、と上を向いたまま天高く駆け上がっていく。


「そういえばずいぶんのんびりしているようだが、次の依頼は良いのか? もう見当がついているのか?」


「あっ」


 すっかり忘れていました……。


「ぜんぜんでした……」


【残り時間1時間50分です】


「めっちゃ時間過ぎてるぅ! ヤバいヤバいヤバい!」


 フルで3時間のところが、すでに1時間50分に……。


 えっと、どんな人だっけ⁉

 依頼書を開いて改めて確認――。

 すると、≪アサダ≫さんと≪クロッシーダイク≫さんも覗き込んでくる。


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 種族 :人族

 性別 :女

 年齢 :16

 職業 :高位神官ハイプリースト/Lv.92

 所属 :猫の眼ギルド

 特徴 :無口。

 ヒント:戦闘マシーンのように見えるが、打ち解けるとかわいらしいのじゃ。

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「こんな感じの人なんですけどー」


 2人はもちろん知っていますよね?


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