「≪アルミちゃん≫は『合成魔法』という言葉は聞いたことがあるか?」
「……ぜんぜん?」
なんとなく言葉から想像するものはありますが……。火と氷を混ぜて「
「言葉通り、魔法と魔法の合成だよ。と、まあ合成魔法の前に化学反応の話をしよう。たとえば俺がいつも戦闘時に使っているこの『火炎瓶』はどういう理屈かわかるか?」
「えーと、瓶の中にアルコールが入っていて、瓶の外に飛び出している芯の部分に火をつけると発火するから、それを相手に投げつける?」
「まあ、だいたい合っているな。アルコールを蒸発させて、酸素と混ざることで火が燃え続ける。簡単に言えば燃焼反応だな。だがコスパは悪い。アルコールの醸造には時間がかかるし、火炎瓶用のアルコールは飲めないし、敵を燃やす以外何の役にも立たん」
火炎瓶用のアルコールが飲めないのは別に……。
まあ、でもコスパは悪いですよね。威力も弱いですし、とは言わないでおこう……。≪アサダ≫さんだって一生懸命がんばっているんだし。
「しかしな、火を燃やすだけならもっとほかにやりようはいくらでもあるんだ。火薬をばら撒いて点火させればいい。なんなら火薬を作らなくても、密閉された空間内に石炭粉をそのままばら撒いて粉塵爆発なんてのでもいい」
「おお、粉塵爆発! ナイスアイディア!」
「だが全部机上の空論なんだよ」
≪アサダ≫さんが悲しそうに首を振る。
「なんでですか? 原理がわかっていて材料も揃っているならやったら良いのに」
「原理だけでは戦闘には使えない。戦闘で使用する場合には、魔法スキルのような安定性が何より大切なんだ。味方は巻き込まず、確実に敵にだけダメージを与えられる保証がなければ、実戦では使えない」
「なるほど、たしかに……安定性ですか……。どれくらいの密度になったら粉塵爆発するかわからないとヤバいってことですか?」
「それもそうだが、それだけじゃないな。密度と簡単に言っても、敵と味方の空間はどこで分ける? 室内なのか室外なのか。都合よく敵だけ別空間になっていないと使えない手段にならないか? とかな」
条件付けされればされるほど、使い勝手の悪い武器になっていくわけですね……。
「汎用性と安定性。これを実現する手段が、保護魔法にあると俺は思っている」
「保護魔法ですか」
いまいちピンとこない。
「『
保護魔法。
たしか『
「材料を混ぜるだけなら、各材料の分量が書かれたレシピがあれば誰にだってできる。しかし、『
なるほどねー。
でもポーションの効果は、『
【私は何も用意していません。この世界に店売りのポーションはありませんよ】
えっ、そうなの?
AOとは違うってこと?
「俺はこの保護魔法を極めたいと思っているんだ」
「保護魔法を極める? すでに『
保護魔法って『
「『
「合成物のほうに? つまりポーションに保護魔法をってことですか?」
「ポーションだけじゃないぞ。たとえば粉塵爆発もな、空間に保護魔法が掛けられるとしたらどうだ?」
「空間に? えーとつまり……爆発させたい空間を保護という名の囲いを作って……ああ、そういうことですか」
「保護」を「閉じ込める」というふうに解釈すれば、その閉じ込めた空間内で何らかの効果を発揮させることができるって、すごい発想だ!
「な、可能性を感じるだろう?」
「すごく感じます! えー、地味なスキルにそんな可能性が!」
「地味って言うなよ。俺もいろいろ考えているんだ」
≪アサダ≫さんが苦笑する。
と、ダンジョン内が激しく揺れる。
「地震⁉」
「おっと、これはまずいな。≪アルミちゃん≫急いで脱出だ」
≪アサダ≫さんがボス部屋の入り口に向かって走り出す。
「えっ、どういうことです⁉」
「ダンジョンの崩壊が始まったんだよ。≪ダイ≫たちがダンジョンコアの破壊に成功したってことさ」
「あ、そういうこと! 急ぎます!≪サポちゃん≫も早く!」
【ダンジョンが崩壊するシーンを撮影していきます。後ほど合流します】
≪サポちゃん≫は空中でピタリと止まったまま、辺りを見回していた。
「わかった! くれぐれも気をつけてよね! わたしたちは先に行くから!」
さっき≪アサダ≫さんが謎の赤い薬品をかけた抜け穴って使えるのかな?
ああ、もうボスを倒したから普通に扉が開くんだ。
「≪アルミちゃん≫、急げ!」
「はいー!」
せっかくレイドボスを倒したのに、ダンジョンで生き埋めになったらシャレにならないよ!
ねぇ、この脱出するシーン! 今までで1番緊迫した映像が撮れているのでは⁉
って、≪サポちゃん≫がいないから撮影できてなーい!