目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第73話 さすがにわたしの堪忍袋の緒が切れましたよ

 わたしの放ったスピアブーメラン(分裂した100本超の槍)は、アークデーモンの全身に突き刺さり、一瞬にしてその体は穴だらけに。


 アークデーモンははじけ飛ぶように霧散した。


「やった……の?」


 ホントにこれで終わり?


 ゆっくりと回転しながら1本の槍が戻ってきたのをキャッチすると、≪アサダ≫さんと≪クロッシーダイク≫さんに背中を叩かれた。


「やったな、≪アルミちゃん≫! お疲れ様」


「良い一撃だった。ナイスだ」


【戦闘終了。戦闘状態、および変身状態が解除されます。≪アルミちゃん≫、初戦闘お疲れ様でした】


「あ、ありがとうございます……。わたし、やれたんだ……」


 握っていた槍が消えていく。

騎士ナイト』の変身も解け、わたしは元の姿に戻った。


 と、同時に、配信を見てくれている視聴者の声も聞こえなくなってしまった。


 そっか、あれは戦闘時だけの――。


【レベルアップを確認しました。『騎士ナイト』:Lv.1→Lv.42になりました】


「42⁉ めっちゃ上がるじゃん!」


【アークデーモンのレベルは150ですからね。今回はラストアタックボーナスも入っているため、一気にレベルアップできました】


「すごい……。レベル差ブーストさまさまだわ。でもさすがに今回のアークデーモンは無茶しすぎだったね……。≪クロッシーダイク≫さんと≪アサダ≫さんがいなかったらあっという間に死んでたと思う」


 役割分担したパーティープレイってやっぱり大事だわ。

 って、あれ……? なんか違和感が……?


「おめでとう」


「よくやったな」


「ひやひやしたけれど、良い戦いだったわ」


「これがうわさのルーキーちゃんか。なかなかかわいいな」


 えっ、誰ですか⁉

 人がいっぱい⁉


「ああ、みんなすまんな。姫からの指示で寝た振りなんてさせてしまって……」


 と、≪クロッシーダイク≫さんが集まってきた人たちの肩を叩いて回る。


「姫の指示? どういうことです?」


 状況が理解できない……。


「ああ、それはつまりだな――」



 と、事の顛末を聞かされ……さすがに温厚で有名なわたしの堪忍袋の緒もプッチーンと切れましたよ!


「めっちゃ大変だったぁぁぁぁぁ! そういうのやめれーーーーーーーー!」


 ≪クロッシーダイク≫さん以外の冒険者の方たちが倒れていたのはそういう演出。≪アサダ≫さんがやられたように見えたのもそういう演出(実際にかなりのダメージは受けたけれど、HP全損するほどではない)。


 全部が全部、わたしにピンチの中で戦わせて、映える映像を配信したいがための演技だったのだという……。


【結果的に勝利できたのですから良いではないですか。経験値も譲ってもらえたわけですし】


「良くねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! 死ぬかと思ったのに! めっちゃ必死だったのに、みんな笑いながら見ていたってことでしょ! 許せないっ! とくに≪アサダ≫さん! マジ許せない!」


 わたしを騙したなぁぁぁぁぁ!


「なんで俺なんだよ⁉ さっきはマジでファイヤアローから守ってやったろ? あれを背中で受けるのはけっこう痛かったんだぜ? すぐに『中級HP回復ポーション』を飲んだけどな」


「死にそうにしていたのは演技だったんでしょぉぉぉぉぉ!」


「それは、ちょっとした演出ってやつだ、な」


 な。じゃ、ねぇぇぇぇぇぇぇ!

 イケメンでも絶対許さないっ!


「我々もな、笑いながら見ていたわけではないんだ……。死体役という慣れない演技をだな……」


 誰だよ、名乗れよ! あんたなんて知らんわ!


「うるせぇぇぇ! そんなの知ったこっちゃないわ! ランクAの冒険者にもなって、良い大人がこんな幼気な少女を騙して楽しいんですかぁぁぁぁ⁉」


 揃いも揃ってみんなで死んだ振りをして、わたしに1人で戦わせようとするなんて!


【幼気な……少女……?】


 今はそこにツッコむところじゃない!

 わたしは気持ちの話をしているの!


【幼女自認という特殊性癖の話ですか?】


 いや、それはぜんぜん違うから……。


 …………。



 はぁ……なんかもう怒る気が失せた……。


「それで……? なんでこんなことをしたんです?」


 なんだかもう、どっと疲れちゃったよ……。


「だから姫がな、せっかくだから≪アルミちゃん≫の戦闘を配信して故郷の民に見せたいとおっしゃられて。先に≪ダイ≫が姫の指令を受け取っていたらしいんだ」


 と、≪アサダ≫さん。


「故郷の民ねぇ。なんかすっごくいっぱいギフトを贈ってくれた人たちがきっとそうなんでしょうね。わたしの配信を見てくれているのも≪ニャンニャン姫≫の故郷の人たちなんだもんね。みんなネコ獣人さんたちってことかな」


 お得意様に戦闘を見てもらうのはとても良いことだとは思う。

 でも騙して戦わせるのは違うでしょ!


【今日の配信の途中からは、姫の故郷以外からの接続も徐々に増えてきました。少しずつ≪アルミちゃん≫の配信の認知が高まっていっているのではないでしょうか】


「お、そうなの? それはうれしいね。やっぱりせっかく配信するなら、広くたくさんの人に見てもらいたいよね」


【先ほどの戦闘時の切り抜き動画も拡散していきます。新規開拓営業も着々と進行していますし、そのためのプロモーションにも使わせていただきます】


 ふーん?

 なんかよくわからないけれど、視聴者が増えるためにがんばってくれているのね。


「オレたちはアークデーモンがリポップする前に、ダンジョンコアの破壊をしてくる。≪アルミちゃん≫は姫の特別クエストの途中なんだろう?」


 ≪クロッシーダイク≫さんに声をかけられてハッとする。


「あ、そうでした! 3人目の≪クロッシーダイク≫さんはクリアしたので、次の依頼書が来ているはず……」


 緊迫した場面だったから気づかなかったけれど、4人目の情報が来ているね。


----------------------------------

 種族 :人族

 性別 :女

 年齢 :16

 職業 :高位神官ハイプリースト/Lv.92

 所属 :猫の眼ギルド

 特徴 :無口。

 ヒント:戦闘マシーンのように見えるが、打ち解けるとかわいらしいのじゃ。

----------------------------------


 次は人族の女の子かあ。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?