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第71話 アークデーモンの咆哮――不意打ちのファイヤアロー

 何度目かのスイッチ。

 スピアスタブによる攻撃を加えていた時だった。


「範囲攻撃、来るぞ! 防御態勢!」


 ≪クロッシーダイク≫さんが叫ぶ。

 自分の巨大盾の下に入れという指示だ。


 わたしと≪アサダ≫さんは攻撃を中止し、慌てて≪クロッシーダイク≫さんの大盾の下に滑り込む。


【緊急回避を申請します。承認。『Wish List SP』をアンロック】


 アークデーモンの咆哮。

 魔力が高まり、その頭上に巨大なファイヤーボールが作り出される。


 これはヤバいやつー!


【『Wish List SP』選択――マジックレジスト】


「マジックレジスト⁉『騎士ナイト』が使えるスキルじゃないんじゃ⁉」


 マジックレジストって、『神官プリースト』のスキルだよね⁉ 魔法攻撃を半減させるバリアの。ああ、あと魔法攻撃1/4カットに減っちゃうけれど、『魔術師マジシャン』も使えるんだっけか。


【緊急回避用の特別スキルです。使用してください】


 特別! そういうのもあるんだ⁉


「マジックレジスト!」


 アークデーモンのファイヤーボールが放たれた瞬間、≪クロッシーダイク≫さん、≪アサダ≫さんまでを覆うようにして、マジックレジストが展開される。


 おお、ホントに使えた!


「おお、≪アルミちゃん≫なかなかやるな!」


「マジックレジスト助かった。これならすぐに立て直せるな!」


 2人が手放しに喜んでいる。


“<≪アルミちゃん≫やるのぉ。追加のギフトなのじゃ[@ギフト・2人掛けのソファが10個贈られました]>”

“ギリギリの戦いは盛り上がるな~”

“3人でレイドボスは熱い!”

“騎士でマジックレジスト使えるのは掟破りw”

“ストリーマーいいじゃん”

“<すてきです>”

“<ファンになりました>”

“<おうえんしています[@ギフト・スターが10個贈られました]>”



 今のわたしは『騎士ナイト』だし、≪クロッシーダイク≫さんと≪アサダ≫さんも物理職だから、本来的に言えば魔法攻撃に対する対策は非常に難しい。後衛の『高位神官ハイプリースト』が一緒にいてがんばらないといけない場面のはずなんだけど……ランクAのレイドパーティーでこの崩壊具合は何でなの⁉ タンク役の≪クロッシーダイク≫さんを残して全滅状態ってヤバくない? 後衛職が先に崩れるとか、そんなことありえる?


「≪アルミちゃん≫、ぼうっとするな! スイッチ!」


「は、はい!」


 またチクチク攻撃しなきゃ!


「スピアクイッケン! からのーーースピアスタブ! スピアスタブ! スピアスタブ!」


「ハッハッハ! 火炎瓶ならいくらでもあるぞ! それそれ~!」


 ≪アサダ≫さんもノリノリだ!

 細かいことを考えても仕方ないよね! ランクが低くてもがんばれるってところを見せよう!



 それから5度のファイヤーボールを回避し、スピアスタブでのチクチク攻撃を繰り返した時だった。


 3回連続でアークデーモンが咆哮する。


 これは――。


「最後の攻撃パターンチェンジだ! いよいよ終わりは近いぞ! 気を引き締めていけ!」


 ≪クロッシーダイク≫さんが盾を握り直す。


 と、その時だった。


【攻撃、来ます。≪アルミちゃん≫、避けてください!】


「えっ?」


 完全にタイミングを外された一撃。


 わたしは反応が遅れてしまった。

 まさかの溜めなしで放たれたファイヤアローが目の前に迫っていた。


 あ、これダメなやつだ――。


 当たれば即死。

 そしてどう考えてももう回避不可能なタイミング――。


 ごめんね。みんなたくさん応援してくれたのに、わたしの冒険はここまでのようだよ。

 ≪アルミちゃん≫の次回作にご期待ください。


 覚悟を決めて目をつぶる。



 あれ?

 わたし、気絶を通り越して即死しちゃった?

 衝撃も痛みもなく、そのまま異世界転生しちゃうのかな?



「あああ……≪アルミちゃん≫……無事……か」


 恐る恐る片目を開けると、目の前は真っ暗だった。

 やっぱりわたしは死んだのね。


 って違う!

 ≪アサダ≫さんが、わたしの目の前で両手を広げるようにして立っていた。


「≪アサダ≫さん?」


「無事か……それなら……良いんだ……」


 まさかわたしの身代わりになってファイヤアローを⁉


「なんでこんなことを!」


「お前な……。サブマスがルーキー1人守れなかったら……一生笑われるだろ……」


 めちゃくちゃ辛そうだ。

 ≪アサダ≫さんの防御性能で、マジックレジストもなしにあのファイヤーアローを受けたら……。


「『確率回避ポーション』は⁉」


「どうやら10%の女神は……俺には……微笑んでくれなかったらしい……」


 そんな……。


「≪アサダ≫!」


 ≪クロッシーダイク≫さんが走り寄ってきて、膝から崩れ落ちる≪アサダ≫さんをなんとか抱き留める。


「≪ダイ≫……あとは……頼む……」


「もうしゃべるな……。非戦闘職が無茶しやがって……。言われなくても敵は取ってやる……」


 気を失った≪アサダ≫さんを地面に寝かせ、≪クロッシーダイク≫さんが立ち上がった。


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