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第86話 『高位神官《ハイプリースト》』は遠くからヒールしていれば良いでしょ?

「まあ、過去のわたしは別に良いんですよ。いろいろあったけれど、それは過去の出来事なので。今はこうして楽しく『配信者ストリーマー』をやらせてもらっていますから、ここでできることを全力でがんばりたいなーって」


 田中有海ではなく、ユニークJOB持ちの≪アルミちゃん≫として生きていきたいんです。


「つらい過去を背負っているのに、とても前向きなのね……。とても私にはマネできそうにないわ……」


 ≪セリー≫さんが自嘲気味に呟いた。


「だからつらくはないですって。今は最高に楽しいですし。≪セリー≫さんも、あんまり余計なことばかり考えていても楽しくなれませんよ?」


 おいしいものを食べて、適当にお金になりそうなモンスターをしばいて、かわいい服を買って、楽しくやりましょうよー。


「余計なこと……? 事あるごとにママと比べられて、≪セリー≫はまだ転職しないのか。いつ『大司教アークビショップ』になれるのかってずっと言われ続けるのよ? 気が狂いそうになるわ……」


「レベルアップや転職はそれぞれのタイミングがありますからねー。言いたい人には好き勝手言わせておけば良いだけでは?」


 そんな時は、必殺の愛想笑いで切り抜ければオールオッケー♪


「誰にも何も言われたくないのよ……。だから最近は極力ソロでクエストをこなしているわ……」


「おおー、『高位神官ハイプリースト』でソロ! 良いですねー。わたしそういうの大好きですよ!」


 AO時代のわたしみたい!

 意外とね、『高位神官ハイプリースト』でソロもいけますからね! 攻撃職になんて負けてられないっ!


「戦闘が絡むクエストは避けているせいで、とても効率が悪いし、ぜんぜんレベル上がらないわよ……」


 なんて渋い顔なの……。


「なんで戦闘を避けるんですか? 除霊系のクエストとか受けていきましょうよ。あとは、わたし『高位神官ハイプリースト』でソロの時にはガンガン殴ってましたよ。スラッシュとか、ジャッジメントクロスとか」


 魔法攻撃が転用できるタイプの殴り武器だと、わりと威力が出ますからね。あとは定番の聖属性を乗っけられる系の武器を使いまわしてって感じで。どんなモンスター相手でも行けるってわけじゃないですけど、ボスモンスターだったりしなければ何とか戦えるくらいには持っていけますよー。籠手や小盾をはずして攻撃速度を上げるとなおヨシ!


「殴り……? 私、STR≪筋力≫ぜんぜんないし……」


「そりゃ『高位神官ハイプリースト』でSTR≪筋力≫鍛えていたらなんで? ってなりますけど、ソロで狩りする予定がある人は、多少そっちも視野に入れておかないといけませんよ? VIT≪体力≫よりもAGI≪敏捷≫に重点を置くとか」


 ボッチ狩りの基本ですよ?


「知らなかったわ……。あんた物知りね」


「あんたじゃありません。≪アルミちゃん≫です! 高評価とチャンネル登録よろしくー♪」


「……考えておくわ」


「いや、今せんのかーい!」


 まあ良いですけどー。


「そんなわけですから、≪セリー≫さんもお母さんと比べてくる人のことなんて無視して、我が道を行けば良いんですよ。ソロで狩りたいなら殴れば良い! いっそのこと、『高位神官ハイプリースト』を辞めちゃえば、お母さんと比べられなくなるかもしれませんよ?」


 ま、さすがに極端な話ですけどね。


「『高位神官ハイプリースト』を辞めるってどういうこと……?」


 ≪セリー≫さんが小首を傾げてキョトンとしている。


 あれ? 言葉の意味がわかりませんでしたか?


「同じ系統の2次職なら転職できるでしょ? たとえば『修道士モンク』とか」


 1次職のスキルは共通だし、聖属性の攻撃って意味なら『高位神官ハイプリースト』も『修道士モンク』も似たようなものですからね。


「でも……素手で殴るのよね?」


「素手って……。『修道士モンク』はナックルか鉤爪装備が一般的ですね」


「そうなのね……。知らなかったわ……」


 感心したように頷く。


 まさか≪セリー≫さんって、お隣のJOBの知識もほとんどない系?


「転職しないまでも、ほかのJOBのことはもう少し知っておいてほうが良いですね。誰かと組んで狩りをする時は、相手の武器や戦い方に合わせて支援したほうが良いと思いますよ。その感じだと、あまり仲間に気を使っていないさそうですよね……」


「戦い方に合わせて……?『高位神官ハイプリースト』は遠くからヒールしていれば良いでしょ?」


 ジョークじゃなくてマジで言ってそう……。

 この人……まさかの地雷プリーストじゃないですかね?


「今の発言でよーくわかりました……。わたしが≪セリー≫さんを鍛え直してあげますよ」


「えっ? 私はソロでやるからそういうのはちょっと……今夜はこの辺でおやすみなさい……」


 不穏な空気を感じ取ったのか、部屋に逃げ込もうとする≪セリー≫さん。


「待ちなさい。この短い会話でだいたいわかっちゃったんですよ。≪セリー≫さんね、お母さんと比べられて当然なんです!」


「なんでよ?」


「たぶんですけど、周りの人たちから期待されて、いつ『大司教アークビショップ』になれるのかって訊かれていたわけじゃないですよ? たぶん真逆です」


 それ、おそらく期待されての発言じゃないです。


「真逆?」


「≪セリー≫さんの立ち回りが未熟すぎるから、早く『大司教アークビショップ』のお母さんくらいの立ち回りができるようになってくれ、って意味です!」


 このままだとヤバいですよ⁉


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