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第85話 おいおい、それだと今はお肌つるつるじゃないみたいじゃないかい?

「どもども、ご静聴ありがとうございましたー」


 ≪セリー≫さんがずっと無反応なのは気になるところだけど……。


【≪アルミちゃん≫の話の中に出てくる、地球という惑星の日本という国の文化については説明が必要でしたので、配信内では前提となる知識の共有を行いました】


 あ、そういう感じ?

 配信を見てくれている人たちって、日本人がメインってわけじゃないんだ? あーそっか、ゲーム内のキャラクターもいるもんね。さすがにゲーム内の人たちはそういうメタ的な知識を持っているわけないよね。なんかほら、相手がVRMMOにダイブしている人の感覚でしゃべっちゃった。


【異文化交流はあってしかるべきなので、問題ないと思います。その辺りも≪サポちゃん≫が完璧にサポートいたしますのでご安心ください】


 ありがとうね。

 受験の話とか、前提の知識を得れば、わたしの話したかったことの意味はわかるかな? 伝わっているといいなー。伝わっていないとすると、ただの昔話を長々と語っただけの人になっちゃうんだけど……。


【大丈夫ですよ。配信をご覧のみなさんは≪アルミちゃん≫の境遇に涙されています。通常時には見たことのないほどのギフトが飛び交っています。見せられないのが残念です】


 ギフトって……。同情してほしかったわけではないんだけど……。

 わたしの話の趣旨って伝わっているのかな。


「あのー、≪セリーさん≫? わたしね、つらかったねーとか、悲しかったねーとか言ってほしいわけじゃないんですよ? だって東大に行かなかったおかげで、AOに出会えましたし、その縁もあって今こうしてここにいられるわけですからね? むしろ母の敷いたレールを外れられて良かったなーって思っているんです」


「良かった……?」


 ≪セリー≫さんが、しわがれた声で絞り出すように呟いた。


「結果論ですけどねー。わたしが自らの意思で、母の期待を裏切ることはできなかったと思います。どこまでもがんばっちゃっていたと思うので。だから、母のほうから見限ってくれたのでがんばることをやめられたんですよ。だから良かったというか、助かった?」


「あんたはそれで良いの……? 恥ずかしくないの……?」


 震えるような声。


「恥ずかしい? ぜんぜん恥ずかしくないですよ。わたしはわたしなりに全力でがんばってきた。その結果が『裏切者』だっただけなので、わたしが悪いわけじゃないですし」


「でもそれはお母さんの誤解でしょ。ちゃんと話をして誤解を解いて……」


「それで? どうなるんです?」


「それでって……。また元通りの関係に……」


「元通りの関係にはなれないですよ。だってもう時間は過ぎてしまっていますから、母の望む『東大現役合格』はできないですし」


【時間というのは残酷ですね。初めてAOに接続した時の≪アルミちゃん≫は、今のアバターのようにお肌もつるつるでしたね。βテスト時の記録データは私の宝物です】


 おいおい、それだと今はお肌つるつるじゃないみたいじゃないかい?

 何を言っているのかな?≪アルミちゃん≫は永遠の15歳だよ♡


【本体のほうがなるべくこれ以上劣化しないように、アンチエイジングケアをしておきますね】


 劣化って言うな!

 ……悲しい。

 こうしている間にもわたしはどんどん年を取っていく……。


【大丈夫ですよ。実際のところ、少々特殊な方法で有海さんの肉体は保管されているのです。私のサポートシステムが稼働し続けることが前提となりますが、有海さんの肉体は保存開始時のまま、半永久的に劣化させずに維持することが可能です。維持だけでなく、なんとか肉体細胞を若返らせられないかを研究しているところなので、期待して研究結果をお待ちください】


 肉体が劣化しない保存方法? 冷凍保存でもしているの?

 コールドスリープから目覚めたら、わたしだけ未来の世界にいましたー、みたいな? さすがに映画の見過ぎかな。


【15歳の肉体をプレゼントできるようにがんばりますね】


 いや、今わたし、ちょっとボケたんだけど、≪サポちゃん≫のほうもボケ返してくるのはやめてね?


 ねぇ、笑っているだけじゃなくて、なんか言ってよ……。



「んーまあ、過去のわたしは別に良いんですよ。いろいろあったけれど、それは過去の出来事なので。今はこうして楽しく『配信者ストリーマー』をやらせてもらっていますから、ここでできることを全力でがんばりたいなーって」


 田中有海ではなく、ユニークJOB持ちの≪アルミちゃん≫として生きていきたいんです。


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