「マジか……」
≪セリー≫さんの美少女振りに、思わずため息が漏れる。
「何よ? ちゃんと依頼は終わったんでしょ? もう部屋に戻って良いかしら……?」
そう言いながらも、部屋の扉に寄り掛かったままの≪セリー≫さん。
「美しい……」
思わずため息が漏れちゃう。
顔の造作が人のそれではない……。
あまりに整い過ぎていて、エルフの血を引いていると知らなければ、人工物を疑っていたかもしれないね。
≪サリー≫さんの素顔がどうしても思い出せないけれど、母娘だしきっと似ているんだろうなあ。≪サリー≫さんの強烈な神気みたいなものを良い感じに削ったのが、娘の≪セリー≫さんの姿なんじゃない?
銀髪の≪サリー≫さんよりもさらに色素の薄い白い髪が、ライティングの魔法に照らされて眩しく光っている。
ファッションに無頓着なのか、無地のシーツを頭からかぶったような丈の合っていないワンピースさえ、≪セリー≫さんの美しさを演出する道具になっている気がする。
「ホント何なの……?」
眉をひそめる姿もまた――。
きれい。
ずっと見ていたい。
【≪アルミちゃん≫しっかりしてください。少し刺激が強いようなので保護フィルターをかけます】
刺激?
……あれ? わたし、何を?
【純血のエルフ族である≪サリー≫さんほどではないですが、レベルの低い≪アルミちゃん≫が≪セリー≫さんの顔を直視してしまうと、パッシブスキルの魅惑効果が発動するようです】
「魅惑効果……。美人過ぎるとそんな効果もあるの?」
【並みの魔法耐性があれば、この程度の魅惑効果は跳ねのけられるはずなのですが……≪アルミちゃん≫には刺激が強かったようです。確認不足ですみませんでした】
≪サポちゃん≫が近寄ってきて、しっぽでわたしの頬を撫でてくる。
「ううん、ありがとう。危なくエルフの魅惑効果で廃人になるところだったわ……」
エルフの血って怖い……。
「エルフエルフって、残念ながら私はママと違って人族よ? 耳も普通だし、顔だって普通。魔法も大して使えないし、期待外れの出来損ないなの……」
≪セリー≫さんが深いため息を吐く。
どうやら≪サリー≫さんに対して大きな劣等感を抱いているらしいことがわかるね……。めっちゃ美人だし、『
「みんなしてママと私を比べるんだから……。もう勘弁してよ……。そんなに期待されても何もできないから……」
ああ、その気持ちならわたしにもわかる……。
「世間からの過度な期待って、ホントにつらいですよね……」
「知った風な口を利かないで。へらへらしているだけのあんたに何がわかるって言うのよ!」
鋭い眼光で睨みつけてくる≪セリー≫さん。
「≪セリー≫さんの事情は、今日会ったばかりなのでよく知らないし、正直わかんないです。でも、過度な期待をされてつらい気持ちならわたしにもわかりますよ」
嫌って言うほど経験があるから。
「わたしね、こう見えても中学、高校とけっこう成績が良かったんですよ。全国模試で常に1桁に入るくらいにはね」
こんなわたしにも、かつて神童と呼ばれた時代があったんです。
「わたしの父ね、東大出身で商社の重役なんですよ。一方、母は高卒で……学歴コンプレックスがすごくて……。だからね、わたし、赤ちゃんの頃から英才教育ってやつですか。幼稚園もお受験させられたし、週7で習い事も。それはもう、いろいろやらされましたよー。小さい頃のことなんてもう覚えていないし、思い出したくもないですけど」
「ハハハ」と乾いた笑いを浮かべながら、≪セリー≫さんのほうに視線を向ける。
≪セリー≫さんはわたしの話に黙って耳を傾けてくれているようだった。
「そのせいで友だちもいなかったし、モテなかったし、勉強以外の思い出がないんですよね。ああ、スポーツのほうの習い事も一通りやらされたので運動神経は良いですよ」
クラスメイトはみんなライバル。
なんならわたしの成績の良さを引き立てるモブ。
そんなふうに思っていた時期もありました。
今思えば最低ですねー。
「母はことあるごとに父とわたしを比べて、『お父さんはもっとすごい。有海もお父さんを目標にしてもっと努力を。お父さんよりも良い会社に就職を』ってね。父はそれ見て、満足そうに肯くだけなんです」
だけどたくさん期待されて、当時のわたしはまんざらでもなかったんだと思います。わたし自身、両親の期待に応えて結果を出し続けるわたしのことが好きだった。
あの日まではそう思っていたんです。
「だけどね。あの日、大学受験――共テの2日目の朝……わたしの運命が大きく変わりました」