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第82話 ≪セリー≫さんが驚いて叫び声をあげるでしょうから、タックルして押し倒して一気に本人確認の流れです

【では改めて突入しましょう】


「OK!……普通にドアを開けて入れば良い? なんかやったほうが良い?」


 知らない人の部屋に夜中に忍び込むなんてどうしたら良いのかな……。


【配信的に言えば……刑事ドラマの家宅捜索――ガサ入れのような荒々しさがあると良さそうですね】


「ガサ入れ? わたし、刑事ドラマなんてぜんぜん見たことないけど……。窓ガラスを割って催涙弾を投げ込むんだっけ?」


【それはアメリカのSWATのイメージが近いですね。銀行強盗の立てこもり犯などを武力制圧する時のやり方です。そうですね……そちらのほうがさらにインパクトがありそうですし、SWAT風の演出にしましょうか】


「窓ガラスがないなあ。ドアを爆破する? でも認証パスを持っているから、普通にドアを壊さなくても開けられるんだよね。って、そもそも≪セリー≫さんは何か悪さをしたんだっけ?」


【しいて言えば、引きこもりの罪、でしょうか】


「引きこもりって罪なの⁉」


【刑法で裁かれるかはわかりませんが、≪サリナリス≫さんに心配をかけているので催涙弾くらいは投げ込まれても仕方ないのではないでしょうか】


 うーん、そういうものかなあ。

 親不孝って罪が重いのかあ。んー、そうなるとわたしも催涙弾を投げ込まれる側の人間だから何とも言えない……。


「やっぱりさ、けむり玉くらいに抑えておこう……?」


【ではこちらをどうぞ】


 ≪サポちゃん≫から渡されたのは、手のひら大の黄色いボール。

 ゴムみたいにぐにゃぐにゃしていて、握るとちょっと気持ちいい。スクイーズみたい。


【あまり握りしめると破裂してけむりが出ますから注意してください。投げる時は思いっきり床に叩きつけるとけむりが一気に広がります】


「ふむふむ、床に投げつける。OK、使い方はわかりました」


【ではさっそく突入しましょう。扉を蹴破って突入した後、部屋の真ん中付近の床にけむり玉を叩きつけてください。≪セリー≫さんが驚いて叫び声をあげるでしょうから、タックルして押し倒してから一気に本人確認の流れです】


「理解した! じゃあ、ドアを開けるよ! 3・2・1――」


 突入!

 ≪セリー≫さんの部屋のドアの認証を解除し、部屋の扉を蹴破ろうとしたその時だった。


 部屋の入り口に立ちはだかる人物の姿が⁉

 床に引き摺りそうなほど長い白いワンピース? 足がない! まさか幽霊⁉


「さっきから全部聞こえているわよ! あなたたち、いい加減にしなさいよね! ライティング!」


 目の前がフラッシュ。


「ぐわーっ! 目がーーー目がーーーーーー!」


 わたしは腰から砕けるようにして倒れ込み、床を転げまわる。


 眩しいなんて言葉では……目が焼けるっ!

 何も見えないっ!


【≪アルミちゃん≫、落ち着いてください。痛みはカットしましたから、一時的な失明状態に陥っただけです。じきに回復します】


 ≪サポちゃん≫の声だけが聞こえる。


 痛く……はなくなったけど……わたしの視力ってちゃんと戻るの⁉

 でも目の前が完全に真っ白で何も見えないよ⁉


「あなたたち誰なの……? 泥棒?」


 真っ白な世界に響き渡る声。

 さっきの幽霊の声、なのかな……。


「幽霊さん、許してください! わたしはただ≪セリー≫さんという人に会いに来ただけで……呪い殺さないでください!」


 わたしは悪い配信者じゃないよ……。


「誰が幽霊よ!……ああ、この髪のせいね。ちょっと髪が伸びすぎたかしら。そろそろママに切ってもらわないと……」


 ママ?

 母娘連れの幽霊さん?


「それで? あなたたちは誰? こんな夜中に私に何か用事でも?」


「えっと……もしかして、≪セリー≫さんですか?」


 わたしは虚空に向かってしゃべりかける。

 まだ視力は戻りそうもない。


「そうだけど。だから何なの? やっぱり泥棒……? それなら……」


 床を叩く鈍い音がする。


【≪アルミちゃん≫、攻撃が来ます】


「攻撃⁉ ちょっと待って待って! 不審者じゃないから! わたし、隣の部屋の住人!」


「隣? ああ、最近加入したルーキーの……なんて言ったっけ……」


「『配信者ストリーマー』の≪アルミちゃん≫です! 何度も挨拶に伺ったのに一度も出てきてくれなかった!」


 このタイミングですけど、はじめまして!

 どうぞよろしくお願いしますっ!


「うるさく扉をノックするからよ……。まったく、こんな時間に非常識な隣人……。もう挨拶は済んだでしょ……。じゃあ私寝るから静かにして」


「ちょっと待ったー!」


 今部屋に戻られるとクエスト失敗になっちゃうでしょ!


「まだ用が? 夜更かしは美容の大敵なんだけど……」


 めんどくさそうな声。

 それでも、これだけは見てもらわないと帰れませんからね!


「この依頼書を確認してください! あなたは≪セリー≫さんなんですよね⁉」


 手探りでインベントリーを操作し、一番上にあるアイテムを取り出す。

 最後に触ったアイテムだから、これが依頼書なはず!


「依頼書……? ああ、ギルマスのめんどうなあれか……。そういえば通達が来ていたわね。だるっ……」


「依頼書の確認をお願いしたく! それだけ終われば静かにしますから!」


 何卒!


「わかったわよ。まったく……特徴が無口って……。私は不必要に人としゃべりたくないだけよ。ええ、そうよ。確かに依頼書の人物は私。これで良い?」


≪4人目の依頼、達成を確認しました≫


「やったー!≪セリー≫さん、ありがとうございます! お、目が見えるようになってきた!」


 何度か瞬きをしていると、ぼんやりと視力が戻ってくるのを感じる。


 目の前に立つ人物を凝視。

 部屋のドアにもたれかかって気怠そうにしている白い塊……。


 うわっ、白髪に白い布をかぶった幽霊!

 じゃなくて、すんごい美少女!


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