≪クロッシーダイク≫さん以下、レイドボスに挑んでいたみなさんは、まだダンジョン解体の残務処理があるとのことだったので、わたしと≪サポちゃん≫だけ先に失礼して街に向かってダッシュ中。
時刻は間もなく0時。
ド深夜ですね。
ちなみにわたしはライティングの魔法を使えないので、≪サポちゃん≫に辺りを照らしてもらって走っていまーす。撮影用の照明なのかな?≪サポちゃん≫って何でも持っているねー。
【残り時間は45分です】
いっそげー!
って言っても、10分もあれば街に戻れるからよゆーよゆー♪
【フラグですか? そこの分かれ道を右に入れば、オーラムオンラインでもおなじみの『謎の積み石』がある場所ですよ。追加クエストを受注していきますか?】
「さすがに今そのクエストをやっている暇はないので……」
またの機会にね?
『謎の積み石』のクエストでは、特殊な共通スキルの『石積み』スキルを手に入れられるから、レベルが低いうちにやっておくのは悪くないよね。なんだかんだいって汎用性のあるスキルだから、レベルが上がっても重宝するし。
* * *
「はい、ただいま帰還しましたーと」
何のフラグも発生せず、ちゃんと『ウルティムス』の街に帰って来れましたよーと。
【配信的には盛り上がりゼロでしたね】
「手厳しいなあ。でもここまでだいぶがんばったと思うんだけど? なんて言ったって、わたしの一撃でアークデーモンを倒したんだからね?」
レベル1のわたしが、レベル150のレイドボスを倒したんですよ? わりと配信的には取れ高十分なのでは⁉
【それはもう過去の出来事です。私たちは常に前を向いて走り続けなければいけません。目指せ、同時接続数1兆】
それは目標が高すぎますよ……。
せめてもうちょっと現実的な数値で……。
【銀河レベルで面を押さえていければあっという間ですよ】
何そのざっくりした感じ……。
今の視聴者数が1万だ10万だって言っているのに、いきなり地球のスケールを超えちゃってるじゃないの。
【地球? それはどちらのことでしたか?】
何そのボケ?
≪サポちゃん≫って時々よくわからない……。
なんかニコニコ笑っているし。
変なの。
* * *
「さてさて、ギルドハウスに帰ってきましたよー。お姉さんただいまー! って不在かあ」
元気よく挨拶してみたけれど、受付のお姉さんは受付にはいなかった。
まあさすがにもう夜遅いし業務時間外だよね。
あー、もうあとちょっとで0時回っちゃう?
家に帰ってきたと思ったら、ホッとして急に眠くなってきた……。でもまだ4つ目の依頼の途中だし……。
【≪アルミちゃん≫、すでに寝ている方もいらっしゃるでしょうから、少し声のトーンを落としていきましょう。迷惑系配信者にはならないでほしいです】
「はいはい、気をつけましょうー。常識の鬼と言われた≪アルミちゃん≫ですからね。非常識な行動で積み上げてきた信用を失うわけにはいきません!」
抜き足差し足で≪セリー≫さんのお部屋に向かいますよー。
ってわたしの隣の部屋だけどね。
「到着! とくにトラブルもなし! ヨシ!」
【そろそろハプニングをお願いします。同時接続数も50000を切ってきました】
ハプニングって……。まあ夜中だし、視聴者が減るのも仕方ないのでは……。
【アークデーモン討伐を超えるインパクトをお願いします】
「ギルドハウスの中で⁉ 何したらそんなインパクト出せるのさ……」
時々無茶な要求してくるよね。
【それではライトをオフにします。ここからは暗視カメラでお届けしますので、そっと≪セリー≫さんの部屋に忍び込んでください】
「えっ、そういう感じで行くの? 普通にドアをノックしたら良いんじゃない?」
【≪セリー≫さんはどうせ引きこもりですし、居留守を使われるだけでしょう。ノックしても出てきませんよ】
「どうせ引きこもりって言うなし……」
もしかしたら気分が変わって……まあないか。
【あとは≪リルちゃん≫のアドバイス通りに≪セリー≫さんを押し倒して、動けなくしたところで本人確認を行ってください】
「それ……大丈夫な映像になる? 普通に犯罪臭いんだけど……」
【肉親がOKしているのでセーフです!】
「ホントにぃ?」
【それではライトオフ】
≪サポちゃん≫がライトの電源をすべて切り、辺りは真っ暗闇に包まれた。
「ちょっと待って?」
【なんですか。もうクエスト終了まで時間がありませんよ】
「いや……真っ暗で何にも見えないんだけど」
【≪アルミちゃん≫は暗視のスキルを持っていませんでしたね。失礼しました】
そんなの人族は誰も持っていませんよ?
【こちらを使用してください。撮影用のカメラに搭載されているのと同じタイプの『暗視スコープ』です】
ゴツいヘルメット……。
ああ、これがメガネね?
「おおー! 見えるようになった! この『暗視スコープ』ってすごいね。赤外線カメラみたいに、なんかぼんやりとしか見えないのかと思ったら、色もはっきり見えるんだ! まるで昼間みたい!」
【≪サポちゃん≫が作成した特別製ですから】
「≪サポちゃん≫すごーい! これがあれば夜のクエストもばっちりだね!」
【しかし1点だけ注意してください。周りに光源が認められた場合にはすぐに電源を切ってください】
「光源? ああ、光ってことね。電源を切らないとどうなるの?」
【網膜が焼ききれて目が潰れます】
「こわっ!」
【実際には網膜が焼ききれないように、即時痛覚とダメージはカットしますが、一定時間は視覚が失われた状態になるため、戦闘中に使用する際には十分に注意してくださいね】
「はーい」
まあ、今は戦闘じゃないし平気でしょう。
【では改めて突入しましょう】