「でもこの扉、やっぱり変なのよ」
≪セリー≫さんはまだ諦めきれないらしく、資料管理室への扉をガチャガチャといじっている。
「何が変なの? あんまりクエストの残り時間がないし、こっち手伝ってくださいよー」
「だってドアノブのところに鍵は掛かっていないのよ? それなのに開かないんだもの」
「ん、どういうことですか?」
違和感。
手掛かりを探す作業をやめ、資料管理室の扉のほうに近寄ってみる。
「ほら、この通りなの。鍵は掛かっていないでしょ?」
≪セリー≫さんがドアノブをガチャガチャといじって見せてくる。
たしかに普通に開いている、ね?
「あ、ほら、足元のところにもう1個鍵がついていますよ。こっちでロックされているんじゃないですか」
よくあるワンドアツーロック(2重鍵)的なやつでしょう。
重要な資料を保管しているところなんだろうし、そうなっていても別におかしくな――いや、おかしいでしょ!
「自分で言っていて矛盾していたわ。そんな重要な鍵が片方開いている状態で部屋を留守にするかな?」
やっぱりこれにも何か意味が……?
「ドアノブのほうの鍵は、普通に鍵を差し込んで回すタイプ。足元のほうの鍵は4桁の暗証番号でロック解除するタイプかあ。この番号がわかればなー」
どこかにこの暗証番号用のヒントがあったりする?
また1からヒントを探さなきゃいけないことには変わりなさそう。
「どっちにしてももう一度部屋を探さないと何も始まらなそうですし、もっと細かく調べましょう。ほら、ちょうどこっち側の大きな調度品のほうはあんまり見ていないので≪セリー≫さんはこっち側を調べてください。わたしはデスク周りとテーブル周りを調べてみます」
【残り時間は15分です】
もうラストチャンスに賭けるしかない!
何か手掛かりを見つけないともう間に合わないよ!
「何かないかなー。めっちゃきれいに掃除されていて、何も落ちていない……。デスクの棚には書類もなければペンすらないよ……」
手掛かり手掛かり……。
ガラステーブルのほうに何かあるかな。
指紋1つついていない……。
ソファのほう?
クッションの隙間にヒントの紙が入っていたり……しないなあ。
ホント何もない……。
もしかしてソファの下⁉
いや、こんな重たいソファは動かせないわ……。敷いてあるラグの感じからしても最近動かした形跡はないね。
「ぜんぜんわからない!≪セリー≫さんのほうには何かありませんか?」
壺の下に鍵が隠してあったりとかしませんか?
「何もないわね……」
首を振るばかり。
「そうですか……。手詰まりだー」
このままタイムアップになっちゃうのかな……。
あとほんのちょっとのはずなのに。
「ねぇ、やっぱりさっきの銀の小鉢は何か関係があるんじゃないかしら?」
と、≪セリー≫さん。
「あー、そうでした。あれは中途半端な状態でしたね……。空いている75番の管理棚。でもその周辺には何もない……。74番と76番の棚にも何もないですよね?」
「ないわね。さらにその周りも見てみたけれど何もないわ」
「とすると思わせ振りなミスリード? こんなに大掛かりに片づけさせたりしてそんなことあるかなあ」
あ。
わかっちゃったかもしれない。
これって、さっきの4038の逆バージョンなのでは?
「75番の管理棚が空いている。75が空いている。4桁の数字……。7476?」
「もしかして、資料管理室の鍵のことかしら?」
「きっとそうですよ! さっき4038が『40』と『38』に分かれていたのを思い出したので! 試してみましょう!」
ちょうど4桁だし!
ダメもともやってみる価値はある!
「7……4……7……6。解除……ダメ。エラーになるわ……」
≪セリー≫さんがていねいに数字をプッシュするも、無情にも赤ランプが点灯してブザー音が鳴ってしまった。
「そんな……」
行けるかと思ったのに。
「押し違いってことはないですか? もう1回お願いします!」
「わかったわ。75番の間。7476よね。7……4……7……6。解除……やっぱりダメね……」
ゆっくり通した結果、2回目のブザー音。
これはヒントじゃなかったってことかな……。
【残り時間5分です】
厳しい!
今度こそダメか……。
「もしかして、数字が逆なんじゃないかしら?」
≪セリー≫さんがつぶやく。
「逆? どういうことですか?」
「今押したのは、75番の間で7476よね。でもさっきの4桁は39番の間で4038よ」
「あ、たしかに! じゃあ答えは――」
「「7674!」」
2人の声がきれいにハモった。
「行きましょう!」
「わかったわ!」
≪セリー≫さんの目に光が宿る。
慎重に番号を押していく。
「7……6……7……4。解除!」
いっけー!
ピー、というブザー音とともに緑ランプが点灯。
ロックが解除された。
「やったわ! 正解よ!」
「やりました!≪セリー≫さんナイスー!」
思わず抱き合うわたしたち。
【おめでとうございます。時間もないので先に進みましょう】
お、おう……そうだね!
この先に待ち受けるのは……?
頷き合いながら、わたしと≪セリー≫さんは2人でドアノブに手をかける――。