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第94話 仲間はずれはそれだー!

「でも困ったわ……」


 ≪セリー≫さんが立ち尽くしていた。


「ん、どうかしたんですか?」


「この器だけ変なのよね。どこにも番号がついていないのよ」


 ≪セリー≫さんの手のに乗っているのは小さな銀の小鉢だった。


「仲間はずれはそれだー!」


 思わず叫んでしまった。


 きれい好きな≪セリー≫さんを連れてきた意味があったんだね!

 ≪サポちゃん≫ごり押しの百合展開以外にも……。


 わたしと≪サポちゃん≫だけだったら、たぶんその違和感には気づかなかったと思う。だって時限クエスト中に、床に散らばっている宝飾品を棚に戻そうなんて考えもしないもの。≪セリー≫さんを連れてきて良かったなあ。


「この小鉢が仲間はずれなの……? 見た目に違和感はないけれど」


 ≪セリー≫さんは銀の小鉢を掲げ、光にあてて回転させながら観察していた。


「その物自体に何かあるわけではないと思いますよ。たぶんですけど、ほかの宝飾品を棚に収納したら答えがわかる気がします! 手分けしてやっちゃいましょう!」


「わかったわ。でも1つ1つがとても高価なものだから、雑に扱わないように注意してよね」


「はーい、気をつけます!」


 散らばった宝飾品を重ねて運ぼうとしていたのを見抜かれた!

 わかりましたって……。1個ずつていねいにやりますからそんなに睨まないで……。


 これは47番。これは281番。これは309番。これは88番……。

 ダル過ぎる……。



* * *


「ふぅ……やっとこれで全部終わりましたかね」


 これで、番号なしの銀の小鉢以外の宝飾品は全部棚に収納できましたね。

 大変な重労働でした……。


「終わったと思うわ。お疲れ様」


「お疲れ様ですー。ホント量が多かったですね……。結局半分くらいは外に落ちて――置いてあったってことですよね」


 宝飾品は散らかっていたわけではなく、意図的に置かれていた、と考えるべきでしょうね。よく考えたら、前にこの執務室に入った時はとてもきれいだったし、宝飾品が床に置いてあるなんてことはなかったものね。

 それに今もそう。すごく散らかっていたように見えても、実際のところ埃1つ落ちていない。きれいに掃除した後に宝飾品を床に並べて、さも散らかっているように演出しただけなんだと思う。


「この後はどうするの?」


「えっと、わたしの推理が正しければ、1つだけ空いている棚があるはずなんですよ。その銀の小鉢用の管理棚がね」


 本来はその銀の小鉢にも、ほかの宝飾品と同じように管理番号が振られていたはず。それが今は意図的に外されている。でもそれ用の棚自体がなくなっているわけではないはずなので、空いている棚がどこかに――。


「あったわ。75番の棚が空いているわ!」


 ≪セリー≫さんが嬉しそうに叫ぶ。


「ビンゴ! そこに何かないですか? 紙切れとか!」


 きっと次のヒントになる何か……この大掛かりな仕掛けからして、この推理ゲームももう終盤のはず。次が最後のヒントかも?


「残念ながら何もないわね……。見当違いかしら……」


 悲しそうに首を振る。


「マジですかー。おかしいなあ。そんなことはないはずなんだけどなあ。ほかに空いている棚はないんですよね?」


 そう言いながら、わたしのほうでも棚をチェックしていく。


 んー、全部きれいにディスプレイされているね。75番以外のスペースは埋まっていそう。もしかして単純に貼ってあった付せんがはがれただけ? そんな……。


 うーん、なんだろう。

 何か見落としているのかなあ?


「棚の後ろに隠しスイッチとか……さすがにないか……」


 ここまで来て急に袋小路に迷い込んだみたい。

 銀の小鉢自体に何か仕掛けが? それともほかに何か解かなければいけない謎が残っているのかな。


「ダメね。鍵が掛かっていてこっちの部屋には入れないわ」


 ≪セリー≫さんがコート掛けの隣にある内扉をガチャガチャといじっていた。


「何をしているんですか? そっちの部屋は……『資料管理室』?」


 なんだろう。理科準備室みたいなものかな。

 まあ鍵が掛かっているなら、今回の謎解きとは関係ないんじゃないですかね。この執務室には鍵が掛かっていなくて普通に入れたわけだし、招待されたこの部屋の中で何かを見つけろっていうメッセージなんだと思います。


「そこは無視しましょう。今はこの部屋の中で何かほかに手掛かりがないか……」


 もう1度デスク周りを調べてみようかな。

 袖机の中に何かヒントがあるかもしれないし。小さな紙切れが奥のほうにあったりしたら見落としている可能性もあるよね。


 んー、急に時間がなくなってきた!

 何か手掛かりーーー!


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