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第93話 仲間はずれが答えじゃ

 1つ1つの宝飾品には管理番号のような数字が振られていて、それが小さな付せんで貼り付けられている。そして部屋の棚にも同じ番号が記されている。


 つまりここに落ちている宝飾品たちは、収納場所が決められていて管理されているということだ。


「25番のあったわ。これよ」


 ≪セリー≫さんが25番のお椀型の盃を持って戻ってきた。

 この盃のほうには……付せんが貼ってある以外は何もなさそう。


 ということは棚のほうに何か――。


「あった」


 25番と書かれたスペース。

 その奥のほうにあったのは、小さく折りたたまれた紙。しかもご丁寧に木製の棚に似せた色の紙だった。探そうと思って目を凝らさなければ絶対に見つけられないと思う。

 爪で紙を広げてみる。


「4038」


 広げても小指の先ほどの大きさしかない紙の中央に書かれていたのは4桁の数字。


「お姉さま、何か見つけたの?」


「うん、間違いなく手掛かりね」


 広げた紙を≪セリー≫さんの顔の前に持っていく。

 これは間違いなく≪ニャンニャン姫≫からのメッセージ――挑戦状だよ。


「4038番の棚を調べましょう」


 きっと次の手掛かりに繋がる何かが出てくるはず。


「4038番って、そんなに棚の番号はないわよ?」


「えっ、そうなの⁉」


「ちゃんと最後の番号まで確認したわけではないけれど、さすがに4桁はないと思うわ」


 ≪セリー≫さんが悲しげに首を振る。


 んー、当てが外れたかな?

 いや、でもこれが手がかりなのは間違いないと思う。この小さな紙は棚の奥のほうに隠してあったわけだし。わたしたちに向けた暗号文だと思うんだけど……。


「何か見落としが……。もう1枚紙があるとか?≪サポちゃん≫ライトで棚を照らしてくれる?」


 25番のスペースを覗き込み、上も下もつぶさに観察する。

 何もなし……。

 両隣のスペースも念のため確認するも……何もなし。


「んー、どうしたものかなー」


 4038。

 この数字だけが手がかりなのに。


「お姉さま。私にもその紙を貸して」


「もちろんどうぞ」


 複数人の目で見たほうが何かに気づきやすいはず。


 4038。

 この数字から何か連想されるもの……?

 逆にしてみても8304でもっと数字が大きくなっちゃうし。


「ねぇ……これって『40』と『38』じゃない?」


「どういうことですか?」


「ほら、見て。4つの数字が均等に並んでいなくて、『40』と『38』の間に若干スペースがあるように見えない?」


「んー、そう言われると確かに……」


 小っちゃい紙だからわかりづらいけれど……これは4038ではなくて、40と38……。

 40と38の間ってことは――。


「39だ」


 39番の棚を調べましょう!


 39番のスペースには、黄金に輝く小鉢が飾られていた。

 そっとそれを移動して――。

 奥のほうに何かないかな、と。


「おお、あった! また小さな紙だ!」


「やったわね!」


「≪セリー≫さんナイスー!」


【残り時間は約1時間です。クリアできそうですね】


「あとどれくらいこの謎解きが続くかわからないけれど、前には進んでる!」


 がんばって探そう!


「えーと、何が書いてあるのかな、と……『仲間はずれが答えじゃ』だってさ」


 今度は数字ではなかった。

 手書きの文字で書かれたヒント。


『仲間はずれが答えじゃ』


 仲間はずれ?

 何のことだろう。


「何かしらね……」


「なんでしょうね……」


 何かの仲間。

 まずはグルーピングできる何かを探さないと、仲間はずれも何もないんだけど。


「この部屋にあるものかなあ」


 いやー、宝飾品のグルーピングなんて素人にはできないよ。

 全部高価そうだなってだけで、どれに価値があるのかなんてわからないし。


「金細工、銀細工、宝石……? ぜんぜん見当もつかないなあ」


「床に散らばっているものたちに、何か意味があるのかしら?」


 ≪セリー≫さんのつぶやき。


「なんかそれっぽいですね! でも……けっこうもう片付けちゃいました?」


「まあそれなりには……」


「そうなると……うーん」


 片づけた宝飾品の中に仲間はずれの何かがあったとしてももうわからないね。

 どうしたものかなあ。


「仲間はずれ、仲間はずれ……」


 部屋の中をウロウロしながら、何か見つからないか観察して回る。


 扉から入って右側には比較的小さな宝飾品が飾られている棚。

 左側には宝剣や『魔力増幅』があるという壺。そして何の材質でできているかわからないコート掛けなどの比較的大きなものたちが置かれている。

 正面奥にはギルドマスターの執務用の大きな机とイス。

 真ん中にはふかふかのラグの上に丸いガラステーブル。黒い革張りの3人掛けソファがテーブルを挟んで向かい合うように2つ。


「何も違和感はないなあ。って、≪セリー≫さん、何をしているんですか?」


「え? 考えていても何もすることがないし、とりあえず散らばっている盃やお皿を片づけようかなと思っただけよ」


 そう言いながらも手を止めず、床に落ちている宝飾品たちをせっせと棚に戻している姿が。

 ホントにきれい好きなんですね……。


「でも困ったわ……」


「ん、どうかしたんですか?」


「この器だけ変なのよね。どこにも番号がついていないのよ」


 ≪セリー≫さんの手の上に乗っているのは小さな銀の小鉢だった。


「仲間はずれはそれだー!」


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