「うーーーーん、やっぱりここにはいないかー」
ギルドマスター――≪ニャンニャン姫≫の執務室に来てみたは良いけれど、やはり無人だった。
なぜか鍵はかかっていなくて、普通に中までは入れてしまうという不用心さは引っ掛かるけれども。
「ギルマスは執務室にいなかったわね。それで次はどこを探すの?」
と、≪セリー≫さん。
普通の≪セリー≫さんに戻っている……。
さっきまでの甘えん坊妹キャラはどこに行ったのさ? あれは夢? でも≪セリー≫さんの首に下げられたロザリオが、あれは現実だと言っている……。
「≪ニャンニャン姫≫がどこに住んでいるかとか、何か手掛かりがあればなー。今もわたしの配信を見てくれているらしいんだけど、どこで見ているんだろう」
この深夜の時間帯に営業しているお店はないだろうし、執務室にいないとなると、やっぱり自宅だよね。
【どうしますか? どこかに移動しますか? クエストの残り時間は1時間30分ほどです】
まだ慌てるような時間ではない、か。
でもなー。あてもなく闇雲に探し回っても、絶対見つからないよね。深夜だし、ほかのギルメンの手を借りることも難しい。このメンバーだけで何とかしないといけないよね……。
「ちょっとこの部屋の中を調べましょう。もしかしたら何か手掛かりがあるかもしれないし」
手を動かしながら、≪ニャンニャン姫≫の性格を考えよう。
これまでの流れを考えると、≪ニャンニャン姫≫はこの配信を盛り上げようとしてくれている。その場その場でヒントとなるものや、ヒントを持っている人が登場して、なんとか4人目まではクリアできた。時間ギリギリになんとかって感じだけどね。
そこから導き出される答えは、「≪セリー≫さんがヒントを持っている」、または「この場所に何かしらのヒントがある」ということだ。と思う……。
「手掛かりね……。転がっているのは宝飾品ばかりで何もないわね」
≪セリー≫さんが床に転がる見事な金細工のお皿を持ち上げて棚に戻していた。
転がっているのは宝飾品ばかりで何もない……?
何その矛盾した言葉は。
しっかし不用心だよね。ギルドハウス内とはいってもさ、これだけのお宝なんだから、部屋に鍵くらいは掛けておいてほしいものだよ。もしわたしたちが泥棒だったら、この部屋のお宝は軒並みやられているよ? 棚をひっくり返したみたいに宝飾品がいっぱい床に落ちているし、1個か2個なら持って帰っても気づかれなさそう。
「≪セリー≫さん、勝手に棚に戻したらダメですよー。そこに飾ってあるのかもしれないですし。それよりこっちの、≪ニャンニャン姫≫がいつも使っている机の周りを探しません?」
これが謎解き系のイベントだとしたら、ヒントになるような言葉が書かれた紙切れが落ちていたりするかもしれないですし!
「でも気になっちゃって……。大量に散らかっているものだからつい……」
≪セリー≫さんは苦笑しながらも両手で持ち上げるようにして、大きな盃を棚に戻していく。
「もしかして≪セリー≫さんってきれい好きだったりします? 引きこもりの人の部屋って食べた器なんかが散らかっていてゴミ屋敷、みたいなイメージがありますけど」
「失礼ね。私は部屋で何かを食べたりはしないわよ。仕事がない日は毎日朝から晩まで部屋の掃除をしているわ。このギルドには私ほどのきれい好きはいないと思うわよ」
胸を反らして自慢げなご様子。
きれい好きの引きこもりかあ。なんか変なの。
「それにしても朝から晩までって……何か趣味とかないんですか?」
さすがにもうちょっとやることがあるでしょ。
お休みの日なら、街に買い物に出かけたりとか、おいしいものを探してみたりとか、まあ修練場で訓練するのも必要かな。
「外に出たら人と話をしないといけないし」
「別に無理して話さなくても良いのでは?」
「挨拶をされたら挨拶しないといけないし」
「それはまあ、そうですね……」
え、挨拶程度の会話もしたくないの?
「みんなが私のことを見ている気がして……」
「さすがにそれは気のせいでは?」
自己評価が低いうえに、自意識過剰? 難儀な性格だ……。
「あ、あれ?……これなんだろう?」
≪ニャンニャン姫≫の机の下に落ちていた紙の切れ端。
何も書いていないし、ただのゴミのようにも見えるけれど……。
「なんか変な破り方がされている気がする……」
わざわざ何回もジグザグに切って……。
「もしかして、星の形?」