わたしと≪セリー≫さん、そして≪サポちゃん≫は、長い渡り廊下を歩いていた。今はギルドハウスの奥にある、ギルドマスターの執務室を目指している最中だ。
もしかしたら≪ニャンニャン姫≫が執務室にいるかもしれないし、いないとしても何かしらの手掛かりがあるかもしれない。ぶっちゃけて言えば、ほかに≪ニャンニャン姫≫に繋がる手掛かりがない状態だから、「何かあってくれ!」って気持ちが強いというのが正直なところです。はい。
「あのー、≪セリー≫さん……?」
「……何よ」
「何って……。さすがにこれは歩きにくくないですか?」
もはや背中に張り付くってレベルじゃないですよね。
「ちょっと重いですし……」
だんだん密着度が……首に手が絡みついてきていますし、なんなら足、浮いてません? ちょっともう背中に乗ってきていますよね?
「ハーフエルフの私が重いですって⁉ 失礼な! 木の葉よりも軽いわよ!」
「首絞めるのやめて……。でも≪セリー≫さんは人族でしょ。こんな時だけエルフを持ち出すのは都合良すぎー」
まったく……この人のことを「無口」だなんて言ったのは誰よ。
めっちゃしゃべるじゃん。
なんならわたしよりしゃべってない?
【2人ともとても良いですよ~。もっと顔を寄せて親密さをアピールしてください。≪アルミちゃん≫、少し≪セリー≫さんのほうに視線を向けて。良いですね~。次の表紙はこの構図で決まりですね】
≪サポちゃん≫がしっぽを揺らしながらピョンピョン飛び回る。
どうやら、わたしが≪セリー≫さんを背負って、わーわー言い合っている様子を気に入ったみたい。ところで表紙って何?
【≪セリー≫さん、もう少しだけ顔を寄せてください。でもキスするのはNGですよ。≪アルミちゃん≫はアイドルなので。濃厚な百合路線はもう少し後に解禁しようと思います】
「キス⁉ 誰がするか~! 何なのあんたのところネコ……」
耳元で叫ばないで。
耳が「キーン」ってなったから……。
「うちの≪サポちゃん≫がすみません。たぶん≪セリー≫さんが美人さんだからちょっと興奮しているんだと思います」
よいしょー。
でもいくら≪セリー≫さんが美人とは言っても百合路線はさすがに……。あれは拝むものであって自分でするものじゃない……。百合は2次元だから美しいのです。そう、百合は2次元だから美しいのです。大事なことなので2回言いました。
「そ、そう……。なかなか見る目があるネコね。そういうことなら……許してあげるわ」
≪セリー≫さんは少し照れたように頭を震わせると、勢いよく顔を寄せてきた。それこそ、わたしの頬に≪セリー≫さんの頬が触れるくらいの距離に。
「……こ、これで満足、かしら?」
声震えてるじゃん。
なんなら≪セリー≫さんの全身が発熱していて、密着している背中が熱いんですけど? しかしこの人胸薄いな……。ホントに≪サリー≫さんの子かな?
【大変けっこうな構図でした。感謝します。ギャラは後ほど振り込んでおきます】
≪サポちゃん≫が恭しく頭を下げる。
ギャラが発生する仕事だった⁉
「はいはい、もう撮影終わりで良いよね? そろそろちゃんと進まないと時間的にヤバいから。≪セリー≫さんももう怖くはないですよね? 自分で歩けます?」
これだけ大騒ぎできたらもう大丈夫ですよね?
「最初から歩けるわよ……ありがと」
そっぽを向いて小声で。
ホント人付き合いが苦手な人なんだなあ。人との距離感がわからないって言ったほうが正しいかな。
きっと小さい頃からこの『猫の眼』ギルドに所属していて、事あるごとにお母さんの≪サリー≫さんと比べられてきたんだろうね。必要以上に期待されてきただろうし、この雰囲気だと、大人たちに連れまわされてレベルだけ上がっちゃった感じ? 同年代のほかの冒険者と切磋琢磨して成長してきていないから、経験とステータスが合っていないんだわ。
「何よ、その顔。おおおお礼は言ったでしょ!」
うんうん、そうだよねー。大人たちに寄ってたかって高難易度ダンジョンを連れまわされ続けたりしたら、ほとんど何もしなくても最低限の経験値が積み上がるだろうし、こういう子ができあがっちゃうっていうのもわかる気がする。
偉大過ぎる母から生まれた普通の子かあ。もしかしたらわたしよりも不幸な生い立ちなのかもしれないね……。
高難易度ダンジョンからは、生きて帰れるだけでも経験にはなるとは言うけれど、やっぱりそれだけじゃなあ。