「『鼓舞ポーション』? なんだそれは? 聞いたことがないぞ」
お、おお?
まさかこれもこの世界ではまだ流通していないポーションだったりする?
図らずも無双チャンス⁉
『鼓舞ポーション』は全ステータス10%上昇の効果を持つポーションだ。ちなみに効果時間は小瓶1つで1時間。
でも、稀に恐ろしい副作用が出ることもあるんだよね……。
AOがリリースしたばかりの頃、レイドボス戦の時にはわりとよく使われていたんだけど、全ステータス10%上昇の効果以外にも特殊な副作用があることがわかってからは、戦闘時にはあまり使われなくなっちゃったのね。
その特殊な副作用っていうのは、『鼓舞ポーション』を飲むと、どんな人でも一時的に気分がハイな状態になるというものなんだけど……当時は『陽キャ製造マシーン』なんて言われていたかな。でも稀に効き過ぎちゃう人がいてさ……。
なんていうんだろう。自己肯定感がギガマックス状態?「世界を救う勇者はー、オレだオレだオレだ!」みたいな?
まあ簡単に言うと、元気になり過ぎて、やる気に満ち溢れている状態をさらに超えてしまうって感じで、人の話がほとんど耳に入らなくなるんだよね。
『鼓舞ポーション』を飲んだ人のうち数%くらいの確率で運悪く当たっていたんだと思うんだけど、「こんな雑魚、俺が一撃で倒してやんよ」ってセリフを吐きながら、裸でレイドボスに単騎特攻しちゃう人がポツポツ現れてね……。
そうなっちゃうと作戦行動なんてあったものじゃなくなるから、たちまちレイドボス戦の時には『鼓舞ポーション』使用は禁止っていうローカルルールができたってわけ。
「んー、そっか。≪アサダ≫さんは調合の仕方を知らないんですね。『鼓舞ポーション』って作れるんだっけかな……。店売りされているイメージしかないなあ」
ギルド会議の時にふざけて飲んで大暴れする、くらいにしか使えないネタアイテムになっちゃっていたから、まじめに製造販売しようなんて『
【良ければ、『鼓舞ポーション』の調合手順をレクチャーしましょうか?】
と、≪サポちゃん≫。
「≪サポちゃん≫、知っているの⁉」
【もちろんわかります。ですが、≪アサダ≫さんのスキルレベルですと、1つ手前のレベルの『狂騒ポーション』が限界かと思います】
「きょーそー? 聞いたことないなあ」
【『狂騒ポーション』です。狂う、騒がしい、で『狂騒』です。全ステータス10%上昇の効果がなく、気分が高揚する効果のみが発現するポーションですね】
「それって誰得なの……?」
『鼓舞ポーション』はステータスが上昇するから、ハイテンションになる副作用にも目を潰れたり潰れなかったりするのに、逆にそっちの副作用部分だけのポーション?
【『狂騒ポーション』は、アルコール飲料に混ぜて使います。一瞬で酔った状態になれるので、酒量を減らすことができます】
「何そのアル中の末期患者御用達みたいなやつ……」
誰がそんなの喜ぶのよ。
「いいな、それ! ぜひ俺に調合方法を教えてくれ!」
≪アサダ≫さんが食いついちゃったよ……。
需要あったんだね。わたしはいらないですけど。
【かしこまりました。それではこれから伝える材料の準備をお願いします】
「おし、任せろ!」
≪アサダ≫さんは腕まくりをして、調合器具を取り出して床に並べだした。
えっと、調合ってここでやるつもりなんですか?
「あのー、ここってダンジョンの中ですからねー。セーフティーゾーンでもないし、モンスターに襲われても知りませんよー」
「調合に集中したい。≪アルミちゃん≫何かあったら俺を守ってくれ!」
「いや、無理ですって。わたし、レベル1ですし。……ああそうか。≪セリー≫に守ってもらおう♪≪セリー≫ちゃーん。あれ? なんでそんなにほっぺたを膨らませて怒っているのかな?」
かわいい顔が台無しですよ?
怒っている姿もかわいいですけどね?
「お姉さまなんて知らない! 私をこんなところに縛り付けて……。ああっ! じわじわとゴーストが集まってきている気配がして……助けてっ!」
ああー、またお化けのことを思い出しちゃった?
んーでもわたしには助けられないかなー。レベル1だし。
「縄は解いてあげるから、自分でターンアンデッドをするんだよ? この場で1番強いのは『
「そんな……私にはできない……」
縄をはずして体の拘束を解くと、≪セリー≫はその場にへたり込んでしまった。
「できるできる。むしろお化けが出たらラッキーくらいに思えるようにならないとね」
「ラッキー……?」
≪セリー≫は「意味がわからない」といった様子でこちらを見てくる。
ラッキーラッキー♪
仕方ないなあ。
≪サポちゃん≫と≪アサダ≫さんが『狂騒ポーション』とやらの調合をしている間に、『