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第100話 全ステータス上昇に加えて一時的に気分がハイな状態になるから、プレイヤーの中では合法〇〇剤って呼ばれていて――

「……んん……お姉さま? おはよう……ここは……はっ!」


「おー、おはよう≪セリー≫。よく眠れた?」


 ぐっすりお休みでしたねー。

 さすが≪アサダ≫さん特製の『睡眠ポーション』だわ。


「≪アサダ≫さん、ありがとうございましたー。わざわざここまで≪セリー≫を運んでくださって助かっちゃった♡」


「まったく、人使いの荒い新人だぜ。サブマスを何だと思っているんだ……」


 ≪アサダ≫さんが前髪を掻き上げながら、苦笑する。


「私……いったい……?」


 ≪セリー≫は自分が置かれている状況が掴めないようで、わたしと≪アサダ≫さんの顔を交互に見てくる。

 しかたないなあ。かわいい義妹のために、お姉さまが説明しましょう!


「仮病を使って引き籠ろうとした≪セリー≫を『メルクザード廃坑』に連れて行かなければいけないという使命を帯びていたわたしは、とーっても頼りになるサブマスの≪アサダ≫さんに相談したってわけー」


 早口で回想終わり。


「廃坑⁉ いや~! 帰りたい帰りたい帰りたい!」


 ≪セリー≫が頭を抱えてうずくまる。


 ちょっと、まだ攻略が始まってもいないよ? それなのに急に悲鳴を上げたりして……ああ、ここが『メルクザード廃坑』だってわかったから? でももう廃坑の中に入っちゃっているし、今さら引き返せませーん。もう手遅れですよ?


「まったく……。たまたま≪アルミちゃん≫の配信を見ていたら、画面越しに俺に向かって『睡眠ポーションを持ってこい』って呼びかけてきやがったのさ。しかしなあ、困っている新人を放っては置けないだろう? 仕方なく届けてやったらこの有様だ。ついでに運び屋の真似事までさせられる始末で困ったよ」


 やれやれだぜ、と再び前髪ふぁさー。

 はい、わたし知ってますー。

 これはホントには困っていないやつですね。『かわいい女の子に頼られる俺様ってかっこいい』のポーズ。ノベルゲームによく出てくる主人公の上級生キャラですね。この優等生な先輩は、生徒会長、または副会長に多いタイプで、たいてい2パターンに分かれます。学校のマドンナ的な幼馴染みを彼女にしているか、異性にまったく興味がないか……どっちにしても攻略対象ではないケースがほとんどだから注意が必要!


【それには諸説あります。ですが≪アサダ≫さんはどちらのタイプでもないので攻略可能な先輩です】


 いや、妻子持ちだから攻略対象外……。

 わたしとしてはもっともノーサンキューなタイプです。


【妻子持ちのイケメンと独身のおじいさんだったらどちらを攻略しますか?】


 その2択はおかしい。

 そもそも独身のおじいさんって何……。介護なの? お金くれるなら考えるけど。


【パパ活は非推奨です】


 介護はパパ活と違わない?


【≪アルミちゃん≫、そんなことよりあちらを見てください。≪セリー≫さんが少しずつ逃げようとしています】


「おー、ダメだよ、≪セリー≫。そんな生まれたての小鹿みたいな足取りでわたしから逃げられると思っているの?」


 こんな時はカウボーイスタイルだ! 投げ縄で捕まえて、腰にロープを巻いてその辺の岩に括りつけておこう。


「いや~~~~~助けて~! そこのサブマス! 私を助けなさいよ~~~~~!」


 泣き叫ぶ≪セリー≫。

 捕まっている姿もなかなか絵になるなあ。捕まえたのはわたしだけど。


「そうは言ってもなあ。2人はこのあとエルダーリッチを討伐しに行くんだろう? アンデッド系は『高位神官ハイプリースト』の≪セリー≫ががんばらないときついぞ? 良い機会だし、ゴーストやアンデッドにも慣れていかないとな」


「い~や~よ~~~~! 怖いものは怖いの! 絶対いや~~~~~!」


 強情だなあ。

 このままだと地下1階の小っちゃいゴーストでも苦戦しちゃうんだけど……。

 どんどこ降って、エルダーリッチがいる地下10階まで行かなきゃいけないのに。


「なんか打開策はないかな……」


 ≪セリー≫のお化け嫌いを何とかする方法……。


「あ、そうか。『解毒ポーション』を飲ませたら怖くなくなるんじゃない?」


「≪アルミちゃん≫よ。この≪セリー≫の状態は、≪セリー≫の性格によるものだから『解毒ポーション』を飲んでも、恐慌状態は解消されないぜ」


「んー、ダメかあ。性格ねぇ。怖がらなくなれば良いんだけど……あ、良いこと思いついた!」


 一時的にでもなんでも、恐怖を感じなくなれば良いんだよね?

 すっかり忘れていたけれど、こんな時にピッタリの良いアイテムがあるじゃないのさー。

 あれでしょ、プラスの状態異常を起こす『鼓舞ポーション』があれば解決だよね? あれを飲むと、全ステータス10%上昇に加えて一時的に気分がハイな状態になるから、プレイヤーの中では合法〇〇剤って呼ばれていて――。


「≪アサダ≫さん、『鼓舞ポーション』ありますか?」


「『鼓舞ポーション』? なんだそれは? 俺はそんなポーション聞いたことがないぞ」


 お、おお?

 まさかこれもこの世界ではまだ流通していないポーションだったりする?

 図らずも無双チャンス⁉


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