【今日のこの後予定ですが、少し遠出をしてみたいと思います】
ふむふむ、遠出ね。
早起きしたからそれも良さそう。
【ここから2時間ほど北に進んだところに、『メルクザード廃坑』というダンジョンがあります。そちらで2人の連係プレイの様子を配信しようと考えています】
「おー、『メルクザード廃坑』かあ。いいね。懐かしい。わたし、あそこ好きだなー」
出てくるモンスターのほとんどが……ん、≪セリー≫?
「どうしたの? そんなにプルプル震えて? パジャマ姿だから寒いんじゃない? ちゃんと着替えてきたほうが良いよ」
「お、お姉さま……わわわわわわ私……なんだか体調がすぐれないのででででで」
≪セリー≫は青い顔をしてしゃがみ込んでしまった。
「風邪かな? 部屋に戻って休みなよ。無理はしちゃダメ」
≪セリー≫を立たせて、部屋の認証を解除。ドアを開ける。
「≪サポちゃん≫。そんなわけだから、今日は予定を変更してわたしのソロかなあ」
急病じゃしかたないよね。
【いいえ。≪セリー≫さんも連れて行きます】
ツンと顔を天井のほうに向けて、すまし顔の≪サポちゃん≫。
「配信の予定はわかるんだけど、体調が悪かったら思うように動けないだろうし、悪化したらそれこそ良くないでしょ。どうしても2人で行かないといけないなら、『メルクザード廃坑』は明日以降にリスケでお願いね」
【いいえ、今日行きます。予定変更はありません。今日は新月です。『メルクザード廃坑』の深部に住まうボスモンスター・エルダーリッチの力が最も高まる日です】
新月かあ。
なるほど、≪サポちゃん≫の狙いがわかりましたよ。
「新月の効果で覚醒したエルダーリッチを倒して、『神秘の雫』を手に入れようってことだね?」
【そうです。『神秘の雫』はレア素材なので、手に入れておく良い機会かなと思いまして】
「うん、もしかしたらほかのパーティーと被って順番待ちになるかもしれないけどー」
AOの時には人気スポットだったよね。
新月の日だけ確定でレア素材が手に入るからっていうので、最初にそのことが発見されてからしばらくの間は、リポップ待ちで行列ができることもあったなあ。懐かしい。
【ちなみに、新月にレア素材が手に入るというのは、この世界ではおそらくあまり知られていない情報です。エルダーリッチに関する情報は、≪アルミちゃん≫の討伐が終わった後に配信内で明らかにする予定なので、今のネタバレをしていた会話は、配信上で音声をミュート処理させていただきました】
おっと、そうだったんだ。
この間の
もしかして、わたしってAOの知識で無双できたりする?
≪アルミちゃん≫新世界無双モノが始まっちゃったりする?
【配信の目新しさという意味で、その切り口はとても良いと思います。≪セリー≫さんは知識の壁打ちの相手としてあまり適してはいないと思いますが、情報を小出しにして確認しつつ、この世界でまだ知られていない知識を使って視聴者を集めるというコンセプトはとても良いですね】
うんうん。
≪セリー≫は基本から何も知らないからあれだけど、ほかのギルメンを捕まえてそれなりにぼやかしつつ話を振ってみようかなー。
とりあえずマヨネーズを作って売ったら無双できる?
【それはこの世界にもあります】
スローライフでの定番ネタはダメかあ。
あとは何だっけ……。塩とかコショウとか?
【普通に流通しています】
うーん。
ハンバーガーとか? スパゲティとか? からあげとか?
【すべてあります。料理、食材などの方向でチートを試みても難しいと思います。魔法――とくに錬金術が存在する世界ですから、食材の旨味を引き出す方法は広く研究されていて、おそらく≪アルミちゃん≫が想像しているよりもはるかに進んでいます】
そうなんだ?
まあそっか。どこのお店で料理を食べてもおいしいもんね。
バーチャルの世界なのに味覚を堪能できる。すばらしい!
うん、じゃあほかの路線で考えてみよう。
これまでの傾向から考えると、不足している情報は、アイテムや素材のドロップ情報だったり、それの使い道だったりってことかなー。
なんかおもしろい知識があったかなー。パッとは思い出せないけれど……。
【≪アルミちゃん≫、それよりも、≪セリー≫さんが逃げて部屋に引きこもりました。無理やり引っ張ってきてください】
「いや、でもほら、体調悪そうにしているし、エルダーリッチはソロで倒すよ。『レベル差ブースト』を使えばいけるでしょ」
【いいえ。あれは仮病です。≪セリー≫さんは元気なので連れて行きます】
「えっ、仮病なの⁉ めっちゃ青い顔していたよ?」
【しゃがみ込んだ時に、頬に青い粉を塗っていました】
マジか……。
なんでそんなことを。
今日は引きこもりたい日ってこと?
【違います。『メルクザード廃坑』に出るモンスターはすべてアンデッド系だからです】
まさか……お化けが怖いから?