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第116話 そ、それで良いと思うわ! お姉さまが全部正しい!

 いろいろとノート(おっさん)の体を調べてみてわかったことがある。


 ノートの表紙がおっさんの服になっていて、しかもなぜか鎧兜を装着している状態っぽいことがわかった。おっさんが金属プレートの呪いでノートになった時の服装は、もっとラフなものだったらしいのに不思議だね。


 ノートの表紙の表側には、横長の長方形のような図形が描かれている。これが兜の目の部分にあたるらしい。

 ノートの真ん中よりちょっと上辺りにある四角い部分を手で覆って隠すと、おっさんは「目の前が真っ暗になって何も見えなくなる」んだってさ。


「ノートの表紙が服で、ページの中はバラバラになったおっさんの裸の体かあ」


 ページの順番と体の部位に関連性はないっぽい。

 1ページ目が左膝で、2ページ目が右耳だし、そこはランダムになっていそう。


「ちょっともうページは開きたくないかな。間違って開いちゃわないように糊付けしておくね」


『やめ~や。人間に戻った時に鎧が脱げなくなったら困るやんか……』


生きた鎧リビングメイルみたいでかっこいいじゃない?」


『思ってもないことを……』


 あ、バレた?

 めでたくおっさんの体の秘密があきらかになったということで、先に進もうか。


「ねぇ、お姉さま、待って。そこの金色の金属プレートはどうするの?」


 ……すっかり忘れていました!


「どうしようか。ノートで拾おうとしていたのにおっさんが邪魔してきたせいで……寒っ! ヤバッ!『ホットドリンク』の効果が切れた!」


 風が冷たいなんてもんじゃない。

 一気に体の芯から凍りつくような……死の感覚。


 すすすすすすぐに『ホットドリンク』を飲まないとととととととと。


 勝手に歯がカチカチと鳴り出し、体の自由が――。


 震える手で小瓶を煽り、何とか1口。

 体の中心に火が灯るのを感じる。


「あっぶな……。これ、『ホットドリンク』の効果が切れる前に次の『ホットドリンク』を飲まないと命に係わるじゃん……」


【次回、9分30秒後にお知らせします】


「リマインド助かるー。薬の効果が重複しないから、数秒もったいないとか言っている場合じゃないよ……。複数本飲んだら、効果時間を延長してくれないかな……」


 ゲームなんだから、それくらいのアシストはあっても良いじゃんね?


「私はもともと自分でタイマーをかけているから平気よ」


 と、すまし顔の≪セリー≫。


「タイマーかけてたの……。それならわたしにも教えてよ……」


 なんでしれっと1人だけ『ホットドリンク』飲んでいるのさ。わたしたち、置かれている状況は一緒でしょ……。


「気づかなくてごめんなさい。次からは教えるわね」


 ≪セリー≫ってそういうところあるよねー。

 ナチュラルに自分のことしか見えていないというか……貴族体質? 自己中? でもそういうのとはちょっと違うかな?



「はい、というわけで仕切り直し!」


 議題:本物っぽい金属プレートをどうやって拾うか。


「まあでも、ノート=おっさんだから、ノートで拾えば実質ノーダメージだよね。ノートがさらにノートに変わる呪いをかけられても、ノートになるだけだし今と状況は変わらないもんね」


『ノートがノートでノートになる……もうワイにはわからへん……』


「そ、それで良いと思うわ! お姉さまは全部正しいもの!」


 2人とも……考えることを放棄したね?


「じゃあもう、さっさと先に進みたいし、ノートの表紙で掬う感じに拾うよ。それで良いね⁉」


 さっと、ノートで拾ってみて、それで何が起きるかによってこの先の展開を考えましょう! ずっとここで駄弁っていても何にもならないし。


 反対意見なし、と。


 いきまーす!


 地面と金属プレート(金色のやつ)の間に、ノートを滑らせて掬い上げて行く。

 大胆かつ慎重に。


「よいしょー!」


 捕獲成功!

 ノートを地面に置いてダッシュで離れる!


『たっけて~! ワイを置いてどこかに行かんといて~!』


 おっさんの情けない声が、わたしの頭の中でこだまする。


「なんともないー? ノートinノートの呪いにかかったりしたー?」


 見た目は光ったりもしていないし、何も起きていないように見えるけれど、実際はどうなの⁉


『なんにも変化なしやで。大丈夫や。戻ってきても平気やで』


 ……もう少し様子を見よう。

 油断したところに「ピカー」って不意打ちしてくる可能性もあるし。


「お姉さま!」


 ≪セリー≫が裾を引っ張ってくる。


「ん、どうしたの? おっさんには、もうちょっと待ってから近づこうかなって」


 あと数分待とうよ。


「そうじゃなくてこれ!」


 ≪セリー≫のほうに向きなおると、手のひらを突き出してくる。

 そこにはたくさんの金属プレート――。


「えっ……」


 さっきまで銀色だったプレートが、全部金色に変わっている⁉


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