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第117話 ≪セリー≫さん、何か思いついているなら発言をお願いします

 ≪セリー≫の手のひらの上にあるそれ!

 さっきまで銀色だったプレートたちが、金色に変わっている⁉


「どういうことなの……はっ⁉ すぐに手から離して!」


 呪われたら大変!


 わたしの言葉に反応し、≪セリー≫が慌てたように金色のプレートを床にばら撒く。

 さらに距離を取って警戒態勢。


『お~い、どないな状況や~? ワイ、何ともなってへんか?』


 おっさんの呼びかける声が、ずいぶん離れたところから聞こえてくる。


「おっさんはちょっと待っててー! さっきまで拾って持っていたプレートの色が急に変化して、もしかしたら危ないかもしれないから様子見中ー!」


 合計12個の金属プレート。それがすべて金色に変化した。

 おっさんの上に置いてある金属プレートを足すと、全部で13個になる。


 金色のプレートをおっさんが拾ったら(ノートの上に乗せたら)、もともと持っていた銀色のプレートが全部金色に変わったわけで……。

 これは何を意味しているんだろうね。

 数に意味があるのか、意味がないのか。


 でも拾った順番には意味があるのかな?

 だって一本道に1個ずつ等間隔で金属プレートは置かれていたわけだし、必ず順番に拾うしかないんだから。


『姉ちゃ~ん! なんも起きひんから戻ってきたってや~! ワイを見捨てんといて~~~』


 ちょっと泣きそうにも聞こえるおっさんの声。

 まあ、うん。今のところ膠着状態だし、触らなければ大丈夫そう、かな?


「OK。今からそっちに行くから、作戦会議をしましょう」


 わたしの腰にしがみついて震えている≪セリー≫をトレインしながら、おっさんのほうへと近づいていく。



「さて、これからどうしようかなー」


 正直……何にも思いついてません!


「おっさんはどうなのよ? なんか体に変化が起きたりとかはない? 些細なことでも何かあったら教えてほしい」


『ほんま何もないねん。こいつもハズレっちゅうことか?』


「いやー、でも急に金色だし、何かはあると思うんだよねー。銀から金だよ? ランクアップしてるでしょ」


 材質が金なのかはわからないけど。


【≪セリー≫さん、何か思いついているなら発言をお願いします】


 それまで黙っていた≪サポちゃん≫が口を開いた。

 わたしの肩越しにノートのおっさんを眺めていた≪セリー≫が口をパクパクさせているのが見えた。もしかして、何かわかったの?


「えっと……ね。関係ないかもしれないけれど一応……。お姉さまはさっき、そのノートの表紙はおじさんの服……甲冑みたいなものだって言っていたわよね?」


「そうだね、おっさんの反応からしてたぶんそんな感じだと思う。それがどうかした?」


「今、金属のプレートが乗っているのは、おじさんの体の上ではなくて、甲冑の上、なのよね?」


「あー、うん。そういうことになるねー」


「おじさんの体に触れる位置に金属のプレートを置いたらどうなるのかしら?」


 はいはい、≪セリー≫が言いたいことの意味、やっとわかりましたよ。


「おっさんが人間の時に『ピカー』ってなったのは、首から金属プレートをぶら下げていたからで、素肌に触れていたんじゃないか、そういうことよね? おっさん、実際にはどうだったの?」


『せやな。はっきりとは覚えてへんけど、鎧の下にぶら下げたから、たぶん触れとったと思うで』


「じゃあ決まりだね。表紙の上じゃなくて、中のページに挟み込もう!」


 金属のプレートを地面に落とし、ノートのページをめくって開いていく。

 真ん中付近のページでめくるのをやめ、少し折り目をつけてノートが開いた状態を維持。


「おっさん、ちなみにこのページは体のどの部分?」


 左右のページを軽く一撫でしてみる。


『先に触ったほうが左膝やな。後のほうは右耳や』


「なるほど。やっぱりページに法則性はなさそうね。じゃあ、金属プレートは左膝のほうに置いてみようかな」


『おう……あんじょう頼むわ……』


「何? おっさん、緊張してるの?」


『そりゃ、そうやろ……。ワイの左膝がなくなるかもしれへんし……』


「ノートになっている時点ですでに全身失ってるからね? これ以上悪くなることはないでしょ」


『それもそうやな! はぇ~、姉ちゃん賢いなあ』


「バカにしてるの……?」


 人から賢いなんて言われたのは、高校生以来だよ……。

 あ、人じゃなくてノートだったわ。


『ワイが頼れるのは姉ちゃんたちしかおらへん! 頼んます~! 人間に戻れたら、何でもさせてもらいます~!』


 懇願するような声。


「……なんでも?」


『わ、ワイにできることなら……』


「そうね……国1つくらいならいける?」


『姉ちゃんはワイをどんな人物やと思ってはりますの……?』


「冗談。どうせ穴を掘って埋めるとか、それくらいが関の山でしょ」


『それはワイへの期待が低すぎひんか……。もうちょい役には立てるはずやで……』


 おっさんに何か見返りを求めてやっているわけじゃないからね。

 シークレットになっているクエスト報酬のほうが楽しみだし♪


「お姉さま、そろそろ……」


 ≪セリー≫が腰のロープを引っ張ってくる。


「そうだね。よし、じゃあこのページを開いた状態で拾うよ!」


 開いたノートを地面に這わせ、慎重に左側のページで掬っていく。

 金属のプレートが左のページに完全に乗った。

 その時だった。


『おわっ⁉』


 おっさんの驚いたような声。

 その声とともに、ノートから白い煙が吹きあがるのが見えた。


「えっ、やば⁉」


「きゃっ⁉」


 わたしは≪セリー≫を抱きかかえるようにし、地面を転がって距離を取る。


 ノートからは天井まで届くほどの煙が吹きあがる。煙はどんどん勢いを増していき、たちまちノートが目視できなくなってしまった。


「これは……! おっさん、無事なの⁉ おっさーーーん!」


 急いで起き上がって、大声で呼びかけるも、おっさんからは何も反応がない。

 その間にも、白い煙が勢いを増していく。


 これって、マジのマジでヤバいのでは⁉

 でも……どうしよう。見ていることしかできない。

 下手に近づいたら、わたしたちも煙に巻き込まれるかもしれないし……。


 ああっ、どうしよう!


「おっさーーーーん!?」


 耳をつんざく衝撃音。

 爆発的に白い煙が洞窟内に広がる。


 わたしたちは逃げる間もなく、その煙に飲み込まれてしまった。


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