≪セリー≫の手のひらの上にあるそれ!
さっきまで銀色だったプレートたちが、金色に変わっている⁉
「どういうことなの……はっ⁉ すぐに手から離して!」
呪われたら大変!
わたしの言葉に反応し、≪セリー≫が慌てたように金色のプレートを床にばら撒く。
さらに距離を取って警戒態勢。
『お~い、どないな状況や~? ワイ、何ともなってへんか?』
おっさんの呼びかける声が、ずいぶん離れたところから聞こえてくる。
「おっさんはちょっと待っててー! さっきまで拾って持っていたプレートの色が急に変化して、もしかしたら危ないかもしれないから様子見中ー!」
合計12個の金属プレート。それがすべて金色に変化した。
おっさんの上に置いてある金属プレートを足すと、全部で13個になる。
金色のプレートをおっさんが拾ったら(ノートの上に乗せたら)、もともと持っていた銀色のプレートが全部金色に変わったわけで……。
これは何を意味しているんだろうね。
数に意味があるのか、意味がないのか。
でも拾った順番には意味があるのかな?
だって一本道に1個ずつ等間隔で金属プレートは置かれていたわけだし、必ず順番に拾うしかないんだから。
『姉ちゃ~ん! なんも起きひんから戻ってきたってや~! ワイを見捨てんといて~~~』
ちょっと泣きそうにも聞こえるおっさんの声。
まあ、うん。今のところ膠着状態だし、触らなければ大丈夫そう、かな?
「OK。今からそっちに行くから、作戦会議をしましょう」
わたしの腰にしがみついて震えている≪セリー≫をトレインしながら、おっさんのほうへと近づいていく。
「さて、これからどうしようかなー」
正直……何にも思いついてません!
「おっさんはどうなのよ? なんか体に変化が起きたりとかはない? 些細なことでも何かあったら教えてほしい」
『ほんま何もないねん。こいつもハズレっちゅうことか?』
「いやー、でも急に金色だし、何かはあると思うんだよねー。銀から金だよ? ランクアップしてるでしょ」
材質が金なのかはわからないけど。
【≪セリー≫さん、何か思いついているなら発言をお願いします】
それまで黙っていた≪サポちゃん≫が口を開いた。
わたしの肩越しにノートのおっさんを眺めていた≪セリー≫が口をパクパクさせているのが見えた。もしかして、何かわかったの?
「えっと……ね。関係ないかもしれないけれど一応……。お姉さまはさっき、そのノートの表紙はおじさんの服……甲冑みたいなものだって言っていたわよね?」
「そうだね、おっさんの反応からしてたぶんそんな感じだと思う。それがどうかした?」
「今、金属のプレートが乗っているのは、おじさんの体の上ではなくて、甲冑の上、なのよね?」
「あー、うん。そういうことになるねー」
「おじさんの体に触れる位置に金属のプレートを置いたらどうなるのかしら?」
はいはい、≪セリー≫が言いたいことの意味、やっとわかりましたよ。
「おっさんが人間の時に『ピカー』ってなったのは、首から金属プレートをぶら下げていたからで、素肌に触れていたんじゃないか、そういうことよね? おっさん、実際にはどうだったの?」
『せやな。はっきりとは覚えてへんけど、鎧の下にぶら下げたから、たぶん触れとったと思うで』
「じゃあ決まりだね。表紙の上じゃなくて、中のページに挟み込もう!」
金属のプレートを地面に落とし、ノートのページをめくって開いていく。
真ん中付近のページでめくるのをやめ、少し折り目をつけてノートが開いた状態を維持。
「おっさん、ちなみにこのページは体のどの部分?」
左右のページを軽く一撫でしてみる。
『先に触ったほうが左膝やな。後のほうは右耳や』
「なるほど。やっぱりページに法則性はなさそうね。じゃあ、金属プレートは左膝のほうに置いてみようかな」
『おう……あんじょう頼むわ……』
「何? おっさん、緊張してるの?」
『そりゃ、そうやろ……。ワイの左膝がなくなるかもしれへんし……』
「ノートになっている時点ですでに全身失ってるからね? これ以上悪くなることはないでしょ」
『それもそうやな! はぇ~、姉ちゃん賢いなあ』
「バカにしてるの……?」
人から賢いなんて言われたのは、高校生以来だよ……。
あ、人じゃなくてノートだったわ。
『ワイが頼れるのは姉ちゃんたちしかおらへん! 頼んます~! 人間に戻れたら、何でもさせてもらいます~!』
懇願するような声。
「……なんでも?」
『わ、ワイにできることなら……』
「そうね……国1つくらいならいける?」
『姉ちゃんはワイをどんな人物やと思ってはりますの……?』
「冗談。どうせ穴を掘って埋めるとか、それくらいが関の山でしょ」
『それはワイへの期待が低すぎひんか……。もうちょい役には立てるはずやで……』
おっさんに何か見返りを求めてやっているわけじゃないからね。
シークレットになっているクエスト報酬のほうが楽しみだし♪
「お姉さま、そろそろ……」
≪セリー≫が腰のロープを引っ張ってくる。
「そうだね。よし、じゃあこのページを開いた状態で拾うよ!」
開いたノートを地面に這わせ、慎重に左側のページで掬っていく。
金属のプレートが左のページに完全に乗った。
その時だった。
『おわっ⁉』
おっさんの驚いたような声。
その声とともに、ノートから白い煙が吹きあがるのが見えた。
「えっ、やば⁉」
「きゃっ⁉」
わたしは≪セリー≫を抱きかかえるようにし、地面を転がって距離を取る。
ノートからは天井まで届くほどの煙が吹きあがる。煙はどんどん勢いを増していき、たちまちノートが目視できなくなってしまった。
「これは……! おっさん、無事なの⁉ おっさーーーん!」
急いで起き上がって、大声で呼びかけるも、おっさんからは何も反応がない。
その間にも、白い煙が勢いを増していく。
これって、マジのマジでヤバいのでは⁉
でも……どうしよう。見ていることしかできない。
下手に近づいたら、わたしたちも煙に巻き込まれるかもしれないし……。
ああっ、どうしよう!
「おっさーーーーん!?」
耳をつんざく衝撃音。
爆発的に白い煙が洞窟内に広がる。
わたしたちは逃げる間もなく、その煙に飲み込まれてしまった。