グラビティフィールドの効果が薄れて、ようやくロープの張りが緩んだことを確認。つまり≪セリー≫が地面に接地したということの証。
わたしは直ちにダッシュで元来た通路を引き返した。
「お姉さまぁぁぁぁぁぁ」
ロープの先から≪セリー≫の泣き声が聞こえてきた。
と、とりあえず生きてる!
「≪セリー≫! 無事ー⁉」
「お姉さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
地面にへたり込み、泣いている≪セリー≫を発見。
ぱっと見、どうやらケガはないみたいだけど?
「≪セリー≫……大丈夫だった⁉」
「私、急に風に飛ばされて……グンッてなって気づいたらここに……」
そう言って顔をあげた≪セリー≫。泣いたせいか、目の周りが真っ赤に腫れ上がっていた。
【どうやら≪セリー≫さんは、今の今まで気絶されていたようですね】
「それで声が聞こえなかったってこと?」
気絶した状態で凧のように空を飛んでいた……。
恐ろしい絵だわ。映像は残っていないけれど。
「≪セリー≫ごめんね。≪サポちゃん≫の悪ふざけでこんなことになってしまって……」
【悪ふざけではありません。風の強さを視聴してくださっている方に正しく伝える必要があると思い、提案しただけです】
「良いからちゃんと謝って!」
言い訳よりも誠意を見せて!
【≪セリー≫さん、この度は≪セリー≫さんの身を危険に晒してしまい、大変申し訳ございませんでした。訴訟だけは何卒ご容赦いただきたいです】
≪サポちゃん≫が前足を揃えて頭を下げる。
「訴訟? えっと……?」
「≪セリー≫が風に飛ばされたのは≪サポちゃん≫のせいってこと。グラビティフィールドで重力操作をして≪セリー≫の体を軽くしたの。ひどいでしょ」
それにわたしの体重が重い、みたいな演出までしてくれちゃって!
1週間ネコ缶抜きの刑ね!
「私、あんまり記憶なくて……。気づいたらお姉さまがいなくて怖かったの……」
≪セリー≫が近寄ってきて、わたしの服の袖を掴んでくる。
「そっかそっか。でもほら! わたしたちはロープでつながっているし、どこにも行かないよー」
「お姉さまぁぁぁぁぁぁ」
「ほら、泣かないの。もう大丈夫だからね? でも今のままだとちょっとロープが長すぎるかも。5mだと最大離れたら見えなくなっちゃうってわかったし」
この先に進んだら、まだ風速が上がりそうだからなー。
≪サポちゃん≫のいたずらじゃなくても体が飛ばされる可能性があるかも?
「≪サポちゃん≫、もうちょっと短いロープに変更できない? それと、この先は風が強いし、歩くのに支障がない程度で良いからグラビティフィールドを展開して、わたしたちに重しをつけてほしいかも」
それとそれと、強風の中でもさっきみたいに息ができるようにしてほしい!
【注文が多いですね。ですが視聴者の方々には風の強さは伝わったことでしょうし、もう飛ばされる必要はないでしょう。ロープはこちらの3mのものをお使いください】
≪サポちゃん≫が取り出したのは、今腰に結ばれているものよりも若干細いロープだった。これをわたしたちの腰に結べば、余るロープの距離は約2mってところかな。
結び目がほどけないように二重に結んで、と。
これでヨシ。
「ふふ♡ お姉さまとの距離が近くなったわ♡」
そう言ってわたしに抱き着いてくる≪セリー≫。
鼻をぐりぐり押し付けてこないでってばー。ちょっとくすぐったい!
「いや、さっきもずっとそうやって背中にしがみついていたし、ロープの長さはあんまり関係ないんじゃ……」
「私とお姉さまの仲を邪魔することなんて誰にもできないわ♡」
障害があったせいで、微妙に≪セリー≫の気持ちが盛り上がってしまっている気がする……。どさくさに紛れてお尻に鼻を擦りつけるのはやめて?
『楽しそうなところ悪いんやけど、2人の間にワイが挟まってもうてるんや……』
さっきロープを引っ張ろうとした時に、おっさんのノートを背中の収納ポケットに挟み込んだからね。なぜかインベントリーに入らなかったし。
【生きた人間は収納できませんから】
おっさんってこの状態で生きた人間の判定なのね。
やっぱり元通りの姿にするのがこのクエスト完了の条件かな。
「マイケルおじさん……。お姉さまの背中にくっつくなんて、セクハラよ! ただちに燃やすわ!」
さっきまでわたしの背中とお尻のニオイを嗅いでいたセクハラ義妹が、自分のことを棚に上げていらっしゃる……。
『ワイが好きでやったんやない! 無実や! 冤罪やで!』
「言い訳は認めないっ! 有罪! 死刑!」
あー、こうやって痴漢冤罪は作られていくのね。
まあね、わたしもおっさんに背中のニオイを嗅がれるのは嫌なので、有罪なら有罪でかまわないかな。この通路を奥まで進んでも何もなかったら……燃やすのも1つの手かな……。
だけど今はまだクエスト中だし燃やすのは保留!
≪セリー≫が刑を執行する前にさっさと先に進んじゃおう!