■日曜日
一人目はチトセ。見立てた歌は一行目。
〝少女の冷えたマッチが売れねども〟
死因は低体温症。冷凍室に閉じ込めて殺害。
チトセを冷凍室に入らせるのは簡単だった。奥の方に美味しいデザートを隠してある、と言ったら彼女はすぐに飛び込んでいった。あとは扉をしっかり締めるだけ。扉は厚い上、冷凍室は厨房から半階分下がった場所にあるので、たとえ彼女が叫んだとしても声は外には洩れない。
重要だったのは閉じ込めるタイミングだ。チトセが凍死する前に誰かが扉を開けてしまっては意味が無い。誰か、といっても冷凍室に入りそうな人物はヒュウガくらいだったので、彼女にさえ注意しておけばよかった。
夕方、僕はバーベキューの下ごしらえをするヒュウガの状況を監視し、彼女が必要な材料を冷凍室から厨房の冷凍庫へ移動させ終えるのを待った。一度夕食分の材料を出してしまえば、次に冷凍室に入るのは早くとも翌日の早朝、朝食を作るときだ。冷凍室の温度を考えれば、四時間ほどでチトセは絶命する予定だったので、時間は十分だった。
ヒュウガが冷凍室から夕食分の材料を出し終えたあと、僕はヒュウガに休憩を促し、部屋へ下がらせた。
「チトセと僕で下ごしらえをしておくよ。ヒュウガはこのあともビーチで料理しなきゃいけないんだし、休んでて」
にっこり笑い掛ければ、彼女は素直に頷いた。
外に出ていたらしいチトセが、手伝うことはないかと厨房にやってきたのはそれからすぐのことだった。探しに行く手間が省けたのは嬉しい。
「チトセ、実はヒュウガに内緒で冷凍室にデザートをね……」
彼女はまんまと罠に引っ掛かった。
その後僕は、チトセは狩りに行った、と文哉に伝えた。午後六時の開始時刻がおしていたこともあり、バーベキューはチトセ抜きで開始された。
僕はこの間もずっと、ヒュウガが冷凍室へ行かないように見張っていた。なぜなら僕が描いていた構図は、〝幸一を誤射してしまったチトセが、逃げ隠れしているうちに誤って冷凍室へ閉じ込められてしまった〟というものだったからだ。どちらの死もあくまで事故と見せかけるため、チトセの遺躰がこの後殺害する予定の軽井幸一の遺躰より早くに見つかるわけにはいかなかった。
二人目は軽井幸一。見立てた歌は二行目。
〝親指姫が土竜の穴に埋もれども〟
死因は脳挫傷。散弾銃で頭部を撃って殺害。
チトセを冷凍室に閉じ込めたあと、僕はエントランスへ向かい、額縁の裏の隠し金庫からチトセの部屋のスペアキーを取った。金庫の鍵は島では僕の管理となっているため、スペアキーの入手は容易だった。
チトセの部屋から散弾銃を盗み出し、裾野の森に隠した。適当な布で厚く包んでバーベキューセットと共に外へ持ち出せば、誰も怪しむものはいない。スペアキーはすぐにもとの金庫へ返した。
これらの作業と、ヒュウガから引き受けたバーベキューの下ごしらえを同時進行するのは苦行だったが、僕はなんとか成し遂げた。
その後、何食わぬ顔でバーベキューに参加し、ヒュウガが冷凍室へ行かぬよう見張りながら、幸一を裾野の森に連れ出す口実とタイミングを計っていた。
狩りをしているチトセが心配なので一緒に見に来てほしい、あるいは、チトセが二人っきりで会いたいと言っている。幸一を一人で連れ出せさえすれば、理由はなんでもよかった。
ところがここで思わぬ幸運が巻き起こった。里来と無人が連れ立って館へ行くというではないか。しかも里来の話す内容からして行先は地下庭園。彼はこの場所をひどく気に入っているので、長居するだろうことは予想できた。案の定、二人は一時間半ほど帰ってこなかった。
里来たちが館へ向かって三十分経ったころ、僕は幸一に「里来様と無人様が見当たらないのですが」と持ち掛けた。
「暗い森の中、灯りも持たずにうろつけば、狩りをしているチトセが鳥と間違って撃ってしまうかもしれません」
そう脅しをかければすぐに幸一は森へ探しに行くと言い出した。話を聞いていた伊織とヒュウガも探すと言い出したので、伊織には館を、ヒュウガには海を探すよう指示した。たとえ伊織が里来たちを早々に見つけてしまっても構わなかった。とにかく皆が森に入ってさえこなければ、犯行は成せたのだ。
幸一を伴って森に向かい、偶然を装い、隠しておいた散弾銃を拾った。
「これはチトセのです。彼女に何かあったのかもしれません」
そう言って巧みに幸一を湖用の穴まで誘導した。島の地理に疎い彼は、何の疑いも無く僕のあとをついてきた。
途中、電池が切れたから、と言って彼の懐中電灯を借りた。〝灯りを持っていなくて獣と間違えられた〟という構図を作るため、幸一から懐中電灯を取り上げる必要があったのだ。
穴につくと、僕は下に何か落ちていると嘘をついて幸一に穴を覗き込ませ、背後から後頭部に散弾銃の弾を撃ち込んだ。ほぼ即死だったと思う。彼は思惑通り穴の中へ転がり落ちた。
使用済みの散弾銃は、穴へ投げ入れ、幸一の分の懐中電灯は、手近な場所から海に放り投げた。これで、〝灯りを持たずにうろついていた幸一が誤射された〟という図の完成である。
ビーチに戻った後は皆に、自分は幸一と別行動をしていたので幸一の居場所はわからないと嘘をついた。皆が酔っていたのと杏子たちの花火のせいもあり、銃声に気づいたものはいないようだった。もし誰かが気づいていたとしても構わなかった。〝撃ったのはチトセ〟であり、僕に繋がる手掛かりとはなり得なかったのだから。
このあと幸一の遺躰を見つけるのは誰でも良かった。
機械室の電話線は、昼間時間の空いたときに切っておいた。この島から電話を掛けることなど滅多に無いので、幸一の殺害後までばれることは無かった。
海底ケーブルを切ったのはこの夜のことである。まさか杏子が電話線を繋ぎ直せるとは思わず、本当に焦ってしまった。考えた末、僕は堂々たる作戦を決行した。
この夜文哉が機械室と電話のある厨房を行き来していたのは知っていた。もしこっそりと抜け出して彼と鉢合わせれば、怪しまれることは必至だった。それゆえ僕は、機械室から上がってくる文哉を廊下で待ち伏せて言った。
「もしかしたら海底ケーブルが切断されているかもしれません。私が潜って確認してまいります。ダイビングライセンスを持つのは杏子様と私だけですので」
当然文哉は危ないからと言って止めたが、
「杏子様もいずれ同じ考えに至られると思います。ですが女性を夜の海に潜らせるわけにはまいりません。杏子様には内密に、私が調べに行って、戻りましたら旦那様にご報告を」
これでようやく文哉は首を縦に振った。あとは、堂々とダイビングスーツを着て海に潜り、海底ケーブルを切断して館へ戻る。文哉には海底ケーブルは無事だったと伝えた。
ケーブルが無事だったという報告は文哉の注意を一層電話線の方へ向けたようで、彼が皆に対してわざわざ海底ケーブルの無事を公表することはついに無かった。一種の心理トリックである。〝白いはずのものが白かった〟という事柄より〝白いはずのものが黒かった〟という事柄の方に焦点が合うのは当然なのだ。翌日文哉が〝電話線は繋がってるはずなのに電話が掛けられない〟という類の発言をしていたときに、僕はそれを確信した。
■月曜日
夕食後、チトセの遺躰が冷凍室で見つかる。既に幸一の遺躰発見後であったので、思惑通りだといえた。
ちなみに僕はこのとき、故意にヒュウガを冷凍室へ行かせたわけではない。あれは、僕たちの会話の自然な流れでそうなっただけだ。
■火曜日
三人目は東郷正孝。見立てた歌は三行目。
〝シンデレラが灰で真黒に染まれども〟
死因は火傷。粉塵爆発からの全身引火トリックを使い殺害。
トリックに関しては、僕たちの滞在一日目、物資搬入の時点で八割が完成していた。
僕は、物資搬入の際、船の倉庫で
小麦粉一袋と除湿剤一袋の中身を入れ替えたのだった。
人目を盗んでそれを行うのは簡単だった。文哉らとヒュウガ、チトセは先に館へ入っていたし、運搬業者の連中は、一度館へ物資を運びに行けば数十分は帰ってこない。倉庫で一人きりになる時間はたっぷりあった。
搬入の際、重要だったのは〝中身が除湿剤に変わった小麦粉の袋〟を、十袋の小麦粉搬入の際、一番初めに運ばせることだった。そうすれば、常温室で袋が積まれた際に、〝中身が除湿剤に変わった小麦粉の袋〟が一番下に積まれることになる。使用するのはもちろん上から順になので、よほどのことが無い限りしばらくは、一番下の袋の中身が除湿剤であることは気づかれない。
一方〝中身が小麦粉に変わった除湿剤の袋〟は、特に気にする事柄も無く除湿剤としてワインセラーの吊戸棚へ運ばせる。
あと問題なのは、吊戸棚の中に小麦粉をぶちまけるタイミングと、東郷愛用の銘柄の煙草とライターをワインセラーに仕込むタイミング、それと、文哉と東郷がよくピザと一緒に嗜む白ワインをセラーから抜き取るタイミング。これらは、結果から言えば同時となった。
遂行したのは日曜日のバーベキュー直前、ワインをビーチへ運び出すときだった。ワインセラー担当のチトセが姿を見せなかった――このときすでに彼女は冷凍室にいた――ため、ワインを出すのは僕とヒュウガで行った。
ヒュウガがビーチへ行っている間に僕はトリックの仕込みを済ませた。吊戸棚の中の袋を破って小麦粉を溢れさせ、〝除湿剤〟と書かれた袋は例の白ワインと共にいったん自室に隠す。そして、煙草とライターを設置する。
設置場所は、ずらりとワインが並んだ棚の一番端の一番下、未使用の段だ。その一番奥にそっと置いた。この場所は、屈みこまなければ見えない。つまり、後に東郷が例の白ワインを求めてセラー中の棚を探したときに、ようやく見つかるのだ。
仕込み完了後もセラーに目立った変化は無いので、そのあと誰がセラーに踏み込んだとしても問題は無かった。
抜き取った白ワインと〝除湿剤〟と書かれた袋は、火曜日の午前一時頃外へ出て、海へ放り投げた。
その後の流れはこうだ。火曜日の夕食としてヒュウガにピザを提案する。僕の提案であれば、よほど場違いなものでない限りヒュウガは首を縦に振る。夕食としてピザを提供された東郷は、いつもの習慣でワインが飲みたいと言い出す。僕は、彼の求める〝ワイン〟が〝例の白ワイン〟となるよう会話を誘導する。そして例の白ワインを東郷自身に取りに行かせるため、ワインに疎いフリをする。
ワインセラーを訪れた東郷は例の白ワインを探すも、ワインはすでにセラーから抜き取られているので見つからない。彼はその過程で煙草とライターを発見する。
その後、例の白ワインが見つからない苛立ちから喫煙したい衝動に耐え兼ね、彼は煙草を吸い始める。東郷は普段から里来によって喫煙場所を制限されているので、フラストレーションは高まっていると考えられた。
彼は棚以外の場所も捜索し始め、ついに小型の脚立を使用して密閉式の吊戸棚を開いてしまう。
開いたときの空気の圧で舞い上がった小麦粉は彼の煙草――脚立の不安定さと吊戸棚の扉の固さを考えると、このとき東郷は両手を空けるため、くわえ煙草をするはずだと僕は踏んだ――に引火。粉塵爆発が起こり、彼は脚立から転がり落ちる。最後は、暴れ回った末にワインボトルを割って中身に引火させ、炎に包まれて息絶える。
正直、僕はこのトリックが成り立つとは思わなかった。東郷の性格を把握し、その心理を誘導するのは至難の業だ。一連の殺害トリックの中で最も不安要素を残していたのがこれだった。
うまくいかないときのことを考え、毒殺ののち遺躰を燃やすという別パターンの方法すら用意していた。
■水曜日
四人目は文哉・アッカーソン。見立てた歌は四行目。
〝眠り姫がいばらに指を刺されども〟
死因は毒物摂取による心停止。狩り用トリカブト液を塗った針で眼球を刺し殺害。
水曜日午前の時点ではまだチトセの部屋は施錠されていないため、そこから彼女が持参した吹き矢とトリカブト液を持ち出すのは容易であった。
また、東郷が死亡すれば幼馴染である文哉が多大なショックを受け、彼が自分の楽園だと称する地下庭園に引き篭もるだろうことは、近年の彼の鬱症状から想像がついた。
引き篭もった文哉に食事を届けたヒュウガが戻ってきたあと、僕はすぐに地下庭園へ下りた。一メートルほどの長さの吹き矢は掃除機のホースの中に隠して掃除機ごと運んだ。たとえ誰かが通りかかっても、僕が掃除機を持って歩く姿は不自然ではないはずだった。不自然だと思われないために、僕は普段から館の掃除をよくしていた。
庭園の入り口についた僕はそこで吹き矢を取り出し、扉脇のボタンで中の文哉を呼び出した。彼が「誰だ?」と問う声に答えなければ彼はこちらの様子を窺うために鍵穴を覗く。そこへ、吹き矢を使い、トリカブト液のついた針を刺した。針にはあらかじめ糸を括ってあるので、犯行後はスムーズに針を回収できる。使用後の吹き矢は折り、針と共に掃除機の紙パックの中へ入れ、その後、紙パックごと生ごみの袋に紛れ込ませた。これで、密室犯罪が完成する。
■木曜日
この日一日は特に犯罪らしい犯罪は行わなかったように思う。強いて言うならば、次なる犯行を行いやすくするため杏子に媚びをうったくらいだ。
一緒に海に潜っただけで彼女は随分嬉しそうにしていた。このあと自分が殺されるとも知らないで……。
■金曜日
五人目は三日月杏子。見立てた歌は五行目。
〝ラプンツェルの髪が絡まり縺れども〟
死因は絞頸(こうけい)。裁縫糸を束ねたもので首を絞めて殺害。
文哉の事件以降、皆の間で殺人説が確定したため、ここからの犯行は慎重にならねばならなかった。
ここでは少し誤算があった。僕は杏子の長い髪を凶器に彼女を殺害しようと思っていたのだが、意外にもあっさりと彼女は長髪を切り捨ててしまったのだ。僕は代わりの凶器として、自分で持ってきていた裁縫糸を使った。
皆が寝静まった午前三時頃、僕は杏子の部屋の戸をノックした。彼女が深夜型の人間であり、この時間は大抵起きていることを僕は知っていた。それは彼女がよく寝坊したり昼間に寝ていることからも想像できた。
非常識な時間にもかかわらず、杏子は快く僕を招き入れた。それも当然だった。彼女はずいぶんと長いこと僕に好意を寄せていたのだから。もともと肩ぐらいの長さだった髪が尻のあたりまで伸びるほどには長く。それが願掛けなのだと知ったときには驚いたものだ。
「いつ死ぬともわかりません。どうか一夜限りでも……」
僕は自分も杏子に惹かれ始めているようなそぶりを見せ、彼女の好意を大いに利用して犯行を行ったのだった。
杏子に口付けながらその躰をベッドに倒し、僕は凶器の糸を取り出して愛撫のような手付きで彼女の首に緩く巻き付けた。彼女はキスに夢中で気づかない。
と、次の瞬間には、渾身の力で彼女の首を締め上げていた。途端に暴れ出す躰を押さえつけ、息絶えるのを待った。
ここでも誤算が生じた。杏子が今際(いまわ)の際(きわ)に投げた香水の瓶が、ちょうどベッドの向かいの姿見に当たって割れ、部屋中に匂いが充満したのだ。これには焦ってしまった。長居しては服に匂いがついてしまう。
香水の匂いが室外に洩れないよう工夫する暇もなく、僕は杏子の部屋を出た。その際、扉横のキーフックに二連になって掛かっていた鍵を取り、外側からしっかりと施錠した。
皆が頭を捻っていたこの部屋の密室トリックに関しては、とても単純である。マジシャンの手の上で消えたトランプが、マジシャンの口から出てくるようなもの。観客が手に注目している間にマジシャンは口にトランプを仕込むのである。
密室トリックに置き換えるなら、真相はこうだ。僕は斧とバールを地下一階へ取りに行く。そのときに自室に寄り、深夜に持って帰ってきていた杏子の部屋の鍵をポケットへ入れる。施錠された扉を外側から破ったあと、皆が杏子の遺躰に注意を引かれている間に、鍵をそっとキーフックに戻す。
このトリックのために僕は、皆の一番後ろから部屋に入り、皆の視線が遺躰に集まるのを扉付近で待っていたのだった。
ちなみに犯行時に着ていた執事服はやはり香水の匂いが染みついていたので即刻ビニール袋に包み、深夜のうちに海へ投げ入れた。
六人目はイズミ、僕自身。見立てた歌は六行目。
〝人魚姫が海の真白な泡となれども〟
死因は表向きには不明または海水による窒息である。
自分を完全に殺し、生き返らせる方法を考えるのは大変だった。崖から落ちるといっても、三流推理小説(ミステリ)にあるように遺躰が行方不明なのでは怪しい。そこで僕は、一か八かの賭けに出ることにした。
ふぐの毒、テトロドトキシンで自分を仮死状態にしたのである。つまりは死んだフリ。
まずは準備段階として、ソーラーパネルと蓄電池との接続を解除しておくことが必要だった。これは無人らの訪れる前の週にすでに遂行していた。停電になるタイミングは普段の館の電力使用量から推測した。
また、転落を犯人の犯行と見せかけるため、柵を切断しておかねばならなかった。これも、前の週に根気よく行った。柵の真下がちょうど岩場と岩場の間の、水深が深い部分になるよう調整した。いくら自分で飛び込むとはいえ目測を誤って岩に激突すれば即死。転落位置の確認は入念に行った。
ふぐは、厨房の生け簀にいたトラフグを一匹使用した。東郷が前の週に釣ってきたものだ。彼が釣らなければ自分で釣りに行くつもりだった。このあたりはトラフグが良く釣れる。
ふぐの内臓を取り出し、事前に本土で調べていた〝自分の体重に対する致死量〟よりいくらか少なめに切り出した。それを冷凍室の隅で冷凍し、推測していた停電のタイミングに合わせて懐に忍ばせる。
無事に停電が起こったら、ソーラーパネルの機械室へ行くと言い、自分の他に誰かを連れ出して落下の目撃者とする。盛大に海に飛び込んだ後は、沖に流されないよう、首元のタイをほどいて岩と自分の手首を繋ぎ、用意していたふぐの内臓をむさぼる。やがてテトロドトキシンの効果で仮死状態に至る。
このトリックは、救助されることが前提なので、この時点まではボート操縦者の里来を生かしておかねばならなかった。それ以上のこと……海に入ってまで助けてくれる人物がいるかどうかは賭けだった。
自室へ運ばれた僕は、数時間後に仮死状態を脱した。このとき自室の扉は、皆で鍵を交換し個人の居室を調査した際にヒュウガに渡していた鍵によって、外側から施錠されている。だが、室内には前もって枕の中に潜ませておいたもう一本の鍵があった。僕はそれを使用することで、その後も自分の居室を自由に出入りできたのだ。
■土曜日
七人目は箱空里来。見立てた歌は七行目。
〝白雪姫が毒の林檎を齧れども〟
死因はトリカブトの毒による心停止のはずだったが、仕損じた。
これにはトリックも何もない。午前二時頃、僕は居室を抜け出して巨大階段の下の機械室へ向かった。そこを通る水道管はダイレクトに貯水槽へ繋がっているのだ。そこへトリカブト液を流し込んでしまえば、あとは目覚めた里来がシャワーを浴びるのを待つだけである。彼は朝方な人間なので、他の皆に先んじて水を使うだろう、それもシャワーとして大量に浴びるだろうと予想した。
惜しくも内島無人の救助によって一命を取りとめてしまったが。
そして最後。八人目と九人目は――