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【第二章】お玉拉致監禁事件(二)

……次に気がついた時、玉が縄で厳重にしばられていた。目の前をねずみが走り抜けていった。そこはどこかの土蔵のようである。あれいは物置であろうか? いずれにせよ悪臭がひどい。ふと振り返ると、隣に同じく縄でしばられた山中新三郎がいた。

 おぼろげながら記憶が蘇ってきた。二人とも気を失っていたのであろう。新三郎はまだ眠っている。なんとかしなければと焦る玉、その時だった。どこからともなく声がした。

「助けにまいったぞ」

 姿を現わしたのはなんと白蛇だった。白蛇は牙で、たちどころに玉の縄をほどいてしまい、いずこかに姿を消した。玉は自由の身になった。

「新三郎さん起きて!」

 玉は新三郎の耳元でささやいた。

「これは一体? そうか、わしとしたことが不覚をとったな」

 新三郎は思わず苦笑した。

「どうして、どうして、あなたは私が大奥の人間であることを知っているのですか?」

「そんなことは今はどうでもいい。それより早く縄をほどいてくれ」

 玉は懸命に縄をほどき、二人で逃げようとする。

「おっと! そうはいかねえぜ!」

 扉が蹴やぶられて、十数名の賊が出現した。そのうち頭目らしき男が、素早く玉を羽交い締めにする。

「大人しくすることだな。この娘がどうなってもいいのか!」

 と頭目は玉に刀をつきつけていう。応戦しようにも今度ばかりは、新三郎も刀を奪われたらしく、どうすることもできない」

「おまえたち一体何者だ!」

「肥前島原藩の者といえば大体察しはつくだろう」

「なるほどな……これで合点がいった」

 その時だった。玉が突如として頭目の腕にかみついた。そして素早く新三郎の背後に回る。刀が床に転がった。

「新三郎さん!」

 新三郎は刀を拾いあげると、十数名の賊相手に大立ち回りを演じた。確かにかなりの剣の腕である。ところが手に負えずとみた賊の一人が、火縄銃に点火した。

「新三郎さん危ない!」

 玉は新三郎の前に立ちはだかり、そのまま左肩を狙撃され倒れた。

「何と馬鹿な真似を! なぜ私をかばった!」

「私は所詮影、私の……使命はあの方を守りとおすこと……そして上様あなたにも……神仏の……」

 そこまでいうと玉は気を失ってしまった。

「さあそろそろ覚悟してもらおうか! 将軍様」

 玉を撃った賊が、うすら笑いをうかべながら、銃口を今度は新三郎にむけた。

「お前たち断じて許さん!」

「やかましい! 死ね!」

 賊は引き金を引こうとする。新三郎が覚悟するも、次の瞬間、賊は激痛に悲鳴をあげた。どこからともなく飛来した弓矢が、賊の銃を引こうとした指に、命中したのである。扉が再び何者かによって蹴やぶられた。

 叫び声と共に出現したのは、普段は江戸城に常駐している伊賀者たちだった。その数は圧倒的で、賊たちはたちどころに捕らえられるか、もしくは斬られた。

「上様お怪我は!」

「ない。それよりこの娘の治療を早く!」

 玉が次に気がついた時、そこは江戸城大奥の長局の万の部屋だった。



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