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【第三章】お夏の復讐(三)

「それで、その者たちは今はどうしておる?」

 寝所にて、将軍家光はお夏にたずねた。

「今は、この本丸の地下牢に閉じこめておりまする」

 家光も何度か入ったことがあった。そこは重罪人に対してのいわば拷問部屋で、強力な悪臭がした。そして昼間でも、亡霊でもでるのではと思えるほど、薄気味悪かった。

「ただでは殺しませぬ。私が味わった苦しみ、痛みの何倍もの苦しみを与えるつもりでおりまする」

「うむ、そなたも悪女よのう」

「上様の前では猫になりまする」

 と夏は、将軍の胸に顔をうずめながらいう。そして将軍の背後にまわると、乳首をいじくりはじめた。そして股の間に太腿をいれた。将軍は悦楽と被虐的な妄想のため、うめき声をあげずにはいられなかった。

 夏は遊郭で体を売っていた経験から、相手の男がどうすれば喜ぶかを察するのが早かった。こうして将軍は、次第に夏に篭絡されてゆくのだった。


 さて地下室に連れていかれた三芳は、冷たい床に正座させられ、膝の上に重量のある石をのせられるという拷問にあう。

「知らない! 何のことかわからない! 私達はキリシタンなんか知らない!」

「強情な奴め! さらに石を置け!」

 こうして膝に重量が加わるたびに、三芳は悲鳴をあげた。

 やがて、お夏が姿を現わした。着飾って化粧した姿に、最初、三芳は何者なのかわからなかった。だがそれがお夏で、どうやら事件の黒幕らしいことを察すると、痛みも忘れてあらん限りの罵声をあびせた。

「お前はこの前、私みたいのを身請けする女はいないといったね! それがどうだい! 今は天下の将軍の寵愛を受ける身さ」

「だからどうだっていうんだい! どうせあんたみたいな阿婆擦れ! すぐに愛想つかされて、放りだされるにきまってるんだろ!」

「よくもいってくれたわね!」

 お夏は三芳の膝の上の石に足をのせて、さらに重量をくわえた。再び三芳は悲鳴をあげた。

「この女を牢へ連れてゆきな!」

 牢役人に連れてゆかれる間も、三芳はお夏に罵声を浴びせ続けた。

「そうだ、一つ言い忘れていたことがあった」

 とお夏は、底意地の悪い目になった。

「残念ながら、この地下室には女用の部屋がないのよ。申しわけないが、男と一緒の部屋に入ってもらうよ」

 こうして三芳は、見るからに凶悪そうな男たちと、同じ牢に入れられることとなった。そして凄まじい凌辱に、その身をさらすこととなるのだった……。


 一方、与助もまた厳しい拷問の末に牢に入れられることとなった。こちらは独房だが、糞尿の臭いがすごい。牢は狭く、蜘蛛の巣があちこちにあり、そして蟻、鼠さらに薄気味悪い昆虫が多くいた。

 やがて一月も牢にいると薄々わかってきた。天井の板が、少しずつ降下しはじめていたのである。このままでは、いつか潰されてしまうかもしれない。それまでに疑いが晴れることを信じるしかなかった。もちろんそれは、決してありえないことだった。

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