「イッチ、ちょっといいかな」
「ナミ氏、どうした?」
「イッチにちょっと頼みたいことがあるんだけど」
ナミ氏が俺に頼みたいこと?
聞き間違いじゃないよね。
珍しいこともあるものだ。
「話を聞こうか」
「何カッコつけてんのよ。頼みってのは、このメガネを開発したから試してほしいんだ。そのメガネを通して見た相手の戦闘力が分かるように改造してあるんよ」
「えっ、戦闘力が分かるの? それはすごいじゃん」
「イッチはさ、さっきゅんの戦闘力を知りたくない? つまりはそういうこと」
「あー、それは分かるな。でも、何で俺なの?」
「普段メガネを掛けてるのがイッチだけじゃん。ボッスンとおじさんは老眼鏡だしね」
あ、なるほどね。
確かにメガネを掛けてるのは俺だけだな。
みんな、なんであんなに目がいいんだろ。
ちらっとナミ氏を見ると、『1,980』と表示されている。
これが戦闘力なのだろう。
俺は鏡を見てみる……えっ、『1,350』って、ナミ氏の方が俺より強いの?
普通の女性より弱いってのは、ちょっとショックだな。
「……」
「どしたん? あ、まさかウチの方が戦闘力高かったとか?」
「ナミ氏……それ以上言わないでくれ……」
俺は落ち込みつつも、皆の戦闘力を見ようと船内を歩き始めた。
――
「ようイチロー、今日もメイドカフェ行くか?」
「ごめん、今日はやることができちゃったので、また今度ね」
「残念だがしょうがないな。じゃあ、一人で行ってくるわ」
最初に会ったのはカトー氏。
カトー氏といえば、元特殊部隊のエリート兵だから相当強いはずだ。
……数値は『35,200』。
さすがの強さだと思う。
メイドカフェは……俺も行きたかったな……。
次に会ったのは、ボス氏とナカマツ氏。
医務室で2人が話していたので、早速計測する。
ボス氏は『8、050』、ナカマツ氏は『985』だった。
ナカマツ氏はもう老人だけど、筋肉を鍛えていただけあって、まだこんなに強いんだね。
ボス氏もカトー氏と同じく軍人だったので、鍛え方が違うのだろう。
肝心のサクラ氏を探していると、台所からサクラ氏とハカセの声がした。
覗いてみると、サクラ氏が倒れているのをハカセが介抱していた。
「あ、イチロー。サクラが二日酔いらしいので、何か体にいいものを作れない?」
「じゃあ、味噌汁を作るよ。ちょっと待って」
味噌汁を作りながら2人を見てみる。
ハカセは『45』。
子どもだから、こんなものだろう。
ハカセは運動神経がよいので、もしかしたら高い方なのかもしれない。
サクラは……『530,115』!?
ちょ……何、この値……。
戦闘力53万だなんて、そりゃあカトー氏でも歯が立たないはずだよ!
しかも、二日酔いでフラフラの状態でだぞ、万全な体調だったら一体どうなるんだろう……。
本気を出したらもっと強いってことだよね?
――
「ナミ、ちょっといいか」
俺がナミ氏の研究室に行くと、ナミ氏はコンピュータ端末を見ながら難しい顔をしていた。
「あ、イッチ。転送されてきたデータを見てたんだけどさ、この53万超えって……さっきゅんだよね?」
「そうなんだ。しかも、二日酔いでフラフラの状態なのに53万なんだよ」
「えっ、二日酔いなの? 前からふざけた強さだとは思ってたけどさ、こうやって数値化してみるとガチでエグすぎて笑える」
「これ、壊れてるとかないよね……?」
「そだね、確認してみるから貸して」
俺はナミ氏にメガネを返すと、ナミ氏の研究室を眺めていた。
ナミ氏のテーブルには駆動系に関する論文が広げられていた。
これは……きっとガンダムに活かされるのだろう!
「あっ! ちょっと! 勝手に覗き見すんなし。ガンダムはまだ秘密なんだから」
「へえ、やっぱりガンダムなんだ……」
「……確認終わったよ。故障はなかったから、さっきゅんの強さはマジでヤバいってことだね」
「やっぱりか……」
「ついでに地球人の強さも見てきてくれる? ログデータは勝手に転送されるんで、イッチは通りすがりの人を眺めているだけでいいからさ」
地球人の強さは確かに気になるところだ。
万が一トラブルになったときを考えると、事前に強さを知っておいた方が良さそうだ。
「分かった。ナミ氏も俺のガンダムを頼んだぜ」
「イッチが誰よりも上手く扱えたなら、イッチのものだけどな」
「俺が一番、ガンダムをうまく使えるんだ」
「せいぜい頑張ってもろて」
ナミ氏はそう言うと、格納庫の方へ向かって歩き出した。
ガンダムだよね、ガンダムを作りに行ったんだよね!?