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第30話 サクラとカトーの関係はちょっと怪しいよね

 その日の夜、俺はサクラ氏、カトー氏と一緒に焼肉屋へ来ていた。

 地球の焼き肉、特に牛ハラミの虜になったサクラ氏がハラミの美味しい店を探していたからだ。


 その道中、俺はナミ氏に頼まれていた、地球人の戦闘力の測定をしていた。

 すれ違う地球人の戦闘力は、俺が想像していたよりも低かった。

 戦闘力『5』とかの人があちこちにいるのだ。

 にわかに信じられないのだけど、ハカセの方が強いということになる。

 見た目は俺たちと変わらないのに、不思議なものだ。


 10分ほど歩いて、やってきたのは焼肉店の『ハラミ王国』である。

 ハラミといえばこの店だ。

 だって、店名にも入っているくらいだからね、美味しいに決まってる。


「さすがイチローだな。っていうかさ、頼んだ私が言うのもなんだけど、すごい店名よね」


「まあね。この店名を見たとき、サクラ氏の顔が浮かんだくらいだからね」


「サクラが何かの肉にハマってるって聞いていたけど、この『ハラミ』ってのがそうなのか?」


「そうよ、牛って草食動物の横隔膜あたりの部位らしい。歯ごたえと旨味のバランスが素晴らしいので、是非カトーにも食べさせたいと思ってね」


 あれっ、サクラ氏とカトー氏って、こんなに仲良かったっけ?

 いつも喧嘩している印象しかないんだけど。


「それはありがたいけど、まさかサクラが俺を食事に誘うなんてな。何かのドッキリ企画じゃないよな?」


「失礼ね! せっかく美味しいものを教えてあげようと思ってるのに……」


 あ、もしかして……。

 サクラ氏はハラミの美味しさを広めたいのかもしれない。

 俺もコーラを広めようと、皆に配ってたからね。


 店内に入ると、俺たちは一番奥の席に案内された。

 ……一番奥でよかった。

 サクラ氏の食べっぷりはすごく目立つからね。


「すみませーん、注文お願いします」


「はい、どうぞ」


「じゃあ、ここにあるハラミを全種類10人前で。あと、私はビールを大ジョッキで、それとコーラと烏龍茶を1つづつ」


「えっ、全部10人前ですか?」


「そうですよ。私大食いなのでこれでも足りないくらいです」


「そ、そうですか……分かりました!」


 店員さんは不思議な表情を浮かべながらも、注文を受けてくれた。

 そう言えば、先日も同じようなことがあったと、ハカセが言ってたような。


「サクラ氏、前から聞きたかったんだけど、なんでそんなに強いんだ? カトー氏が強いのは分かるけどさ、サクラ氏については俺の理解を超えているんだよ」


 今、俺はナミ氏のメガネを掛けている。

 現在の戦闘力は80万を超えているんだよ……。

 カトー氏は……ご愁傷さま。

 そんな戦闘力の数値が見えているから、気になって仕方がない。


「分からん」


「えっ?」


「私も原因が分からないのよ。多少のトレーニングはしていたけど、自分でも驚くくらい急に強くなってしまったからね」


「やっぱり、病気から治ったとき……というか、不老不死になったタイミングだよね?」


「そうね。病み上がりだというのに、異常に体が軽く感じたから変だとは思ったんだけど、これほどとはね……」


 ふと、カトー氏を見ると、明らかに機嫌が悪そうだ。

 そりゃそうか、カトー氏にしてみれば、サクラ氏の強さは納得がいかないだろうしね。


「そう言ってられるのも今のうちだぜ。あっという間に追い抜いてやるから、今のうちに最強の座を楽しんでおくんだな」


 カトー氏がそこまで言うからには、きっと激しい鍛錬をしているんだろうと思う。

 だけどさ、戦闘力は20倍以上差があるんだよね……。

 これは本人には言えないことだから、知る由もないんだけどね。


「そう言うけどさ、今日だって私は両手を使わないハンデで戦ってるのよ。それで勝てないってのは、なかなか厳しいんじゃないの?」


「……まあ、それは事実だが、俺は諦めた訳じゃないからな」


「おっ、その意気だぜ。私はずっとカトーを見てきたから分かってたけど、お前みたいに諦めが悪いやつ、嫌いじゃないからね」


 おおっ、サクラ氏って意外にもカトー氏を認めていたのか。

 まあ、実際にサクラ氏が異常に強すぎるだけで、カトー氏も宇宙屈指の強さだもんな。これまでの惑星探索で、何度助けられたことか……。


「サクラ氏、カトー氏、俺はどっちが強いってよりも、二人のコンビがすごく好きなんだよ。カトー氏が銃で牽制して、サクラ氏が接近戦に持ち込む、あの息のあった戦い方が最高にカッコイイと思ってるよ。今までずっと戦ってきてくれたこと……感謝してる」


「イチローがそこまで感謝してくれているとは思わなかったわね。私としては、任務を遂行しているだけなので当然のことだけどね……。すいませーん、ハラミの味噌ダレを20人前追加~!」


 あっ、いつの間にか肉が全て食べつくされている!

 あんなに大量にあったのに……。


「ま、あれだな……サクラはライバルとして倒さないといけない相手ではあるんだが、共に戦うパートナーとしては最高だと思ってるよ」


 カトー氏!

 そういうの! そういうのを聞きたかったんだよ!


「私もそう思ってるよ。背中を任せられるのはカトーだけだからね。バカな点だけが残念だよ」


 サクラ氏……余計なことを……。


「サクラ、お前はいつも俺をバカにするけど、どこがバカだって言うんだよ!」


「『メイドと結婚する』って公言してるあたりかな。ハカセの教育上よろしくないので止めて欲しいんだけど」


 あ、それは俺も言ってるな……。


「別にいいじゃねえか、イチローだって言ってるぞ」


 ちょっと、カトー氏!

 やばい、変な汗が出てきた……。


「イチロー……それは本当なのか?」


「えっと……言ったような、言ってないような……」


「分かってるだろうけど、ハカセを傷つけたらタダじゃおかないからな!」


「サクラはそう言うけどさ、イチローが誰と付き合うかはイチローが決めることだろ」


 ナイスフォロー。

 でも、カトー氏が原因だけどね。


「私が言ったのは、『傷つけるな』であって『振るな』じゃないぞ。ハカセはまだ子どもだからな、つまらない理由で傷つけてほしくないだけだ」


 そうかもしれない。

 ハカセに悪影響を与えないよう、気を付けてメイドさんと遊ぶことにしよう。


「分かったよ。これからは少し気をつけることにする」


「分かればいいんだ。さあ、どんどん肉を食べようぜ! カトー、ハラミは美味しいだろ?」


「ああ、本当に美味しいな。独特の歯ごたえが堪らないじゃないか」


「そうだろう、連れてきた甲斐があったというものだぜ。すみませーん、ハラミの特選ダレを20人前追加~!」


 マジか……。

 よし、肉はサクラ氏に任せて、俺はコーラを飲み続けよう。


 それから俺たちは、2時間ほど本音で話し合った。

 サクラ氏の意外な秘密をいくつか知ることができし、こんなことならもっと早くこういう機会を設けるべきだったのかもしれない。


 だが、最高に盛り上がってきたタイミングで事件は起こった。


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