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第31話 それ(ハラミ)を捨てるなんて、とんでもない!

「おいおい、なんじゃこりゃあ。店長、ちょっとこいや」


 店内でガラの悪そうな連中が突然大騒ぎを始めた。

 店長らしき人物が連中の元へ向かう。


「この店ではゴキブリを客に食わせるのか! どう落とし前つけてくれるんじゃ!」

「謝って済む問題じゃねえぞ。誠意だよ、誠意を見せろ!」


 肉の皿にゴキブリがいればすぐ分かるはずなので、明らかにイチャモンを付けることが目的なのだろう。

 誠意を見せろと言って金を巻き上げようとしている。


 店長が対応に苦慮していると……連中は他の客にも迷惑を掛け始めたので、多くの客は食事の途中で逃げ出し始めた。

 そして連中は奥のテーブルにいた、こちらにもやってきたのだ。


「おうおう、そこの姉ちゃん。こんなクソダサ男たちと不味い肉を食うなんて寂しいじゃねえか。俺らと遊ぼうや!」


 あ、よりによってサクラ氏に絡みだしたよ……。

 サクラ氏の顔がどんどん険しくなっていくじゃないか。


「うるせえ、そのブサイクなツラをこっちに向けんなよ。肉が不味くなるだろ」


「サクラ氏。地球人同士のトラブルに関与するのは禁止だよ……」


 小声でそう伝えてみたものの、サクラ氏の怒りは収まらないようだ。

 マズイことになる予感しかしない。


「なんだと、コラ。もういっぺん言ってみろコラ!」


 連中のリーダー格の男まで、サクラ氏に絡みだしてしまった。


「コラコラうるせえこのタコ!」


「なにがタコだ、コノヤロー」


「黙れコラ、やってやるぞコノヤロー!」


 ちょ……なんだこれ。

 サクラ氏も何を言っているんだ……。

 コラ、タコ、コノヤローだけで口喧嘩してるじゃないか。

 語彙力のない口喧嘩がこれほどまでに滑稽だとは……。


 いやいや、そんなことを考えている場合じゃないな。


「言ったな! 女だからって容赦しねえぞ!」


 リーダー格の男はサクラ氏の前にあるハラミが載った皿を持ち上げ、逆さにした。

 ボトボトと音を立てて、サクラ氏のハラミが床に散らばった。

 その瞬間、サクラ氏の顔がみるみる真っ赤になる。


 ああ、やっちゃった……。


「イチロー、あれは止められないな……。俺たちも覚悟を決めよう」


 カトー氏は黙って様子を見ていたが、さすがに無理と判断して、俺に囁いた。


「おい、てめえら、全員表に出ろ! 生きて帰れると思うなよ!」


 サクラ氏が怒鳴りつける。


「なんだと、コラ。吐いた唾は飲み込めねえぞ! いいだろう、表に出やがれ!」


 俺達は店を出ると、店の迷惑にならないよう、人目のつかない場所にある空き倉庫へ移動した。


 ――


「よし、全員まとめて相手にしてやる。まさか逃げたりしないよな?」


 サクラ氏が戦闘態勢に入る。


 あ、そうだ!

 俺はメガネのスイッチを入れた。これで、サクラ氏の本気モードがどれほど強いか分かるはずだ。


 80万……100万……150万……。

 え、嘘だろ……まだ上がり続けている。


 200万を超えたとき、『計測不能』とエラーメッセージが表示された。

 信じられない……とんでもないことになってる……。


 下っ端が数人まとめてサクラ氏に襲いかかる。当然、その攻撃は当たらない。

 今度はサクラ氏の回し蹴りが炸裂した。鈍い音がして、襲いかかっていた全員の頭部が粉々になって吹き飛んだ。


 いや、そうなるよね。

 だって、こいつらの戦闘力なんて200~300くらいだもん。

 地球人としては強いのだろうけど、サクラ氏とは桁がいくつも違う。


「な……なんなんだ……ば、化け物か!」


「おっと、お前ら全員逃さないぞ、こいつらと同じ目に合わせてやるからな! カトー、こいつら1人残らず逃がすなよ」


「よし、任せろ」


「うわああ~」


 残った連中は叫び声を上げてバラバラに逃げ出すが、カトー氏が全員捕まえてサクラ氏に向かって放り投げた。

 そこにサクラ氏の蹴りが待ち受けていた。

 こうして、あっという間に死体の山ができあがった。


「地球人って、こんなに弱いのね……」


「冷静になって考えてみたら、この状況……結構まずいな。どうする?」


「ちょっとナミ氏に相談してみよう。ちょっと案があるんだ」


 俺は通信機でナミ氏を呼び出した。


「イッチ、どしたん?」


「緊急事態なので経緯は省略するけど、目の前に地球人の遺体がいっぱい転がっているんだ。転送装置を使って、宇宙に転送できないかな?」


「ん~、できそうかも。そういえば、美味しいアイスが食べたい気分なんだけど」


「分かった。コンビニで買い占めて帰るから、なんとかして!」


「じゃあね、イッチの転送装置を遺体の山の上に置いてもろて。転送装置の半径3mくらいを転送する感じでよさげ?」


「よさげ」


 俺は地球人の遺体を一箇所にまとめ、その上に転送装置を置いた。


「準備ができたよ」


「おけまる~。10秒後に転送を開始するけど、マジで危険だから転送装置から離れてね」


 10秒ほど経った頃、地球人の遺体は俺の転送装置とともに消えた。


「上手くいったよ!」


「そんじゃ、今度はイッチの転送装置だけをそっちに送るね。以上、アイスよろ~」 


 今度は俺の転送装置が、地球人の遺体があったところに落ちてきた。

 俺は転送装置を腕に装着した。うん、特に壊れてはいないようだ。


「イチロー、これどういうこと?」


 サクラ氏は、不思議そうな顔をしている。

 俺は種明かしをすることにした。


「俺の転送装置で遺体を宇宙のどこかに飛ばしたんだよ。その後で転送装置だけナミ氏が回収し、この座標に転送装置を転送で送ってきたということさ」


「それはすごいな。使い方次第で色々なことができるのね……。ん? そこにいるのは誰だ!」


 サクラ氏は、空き倉庫の入口を指さした。

 そこには見たことのない男が立っていた。


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