「ポタージュくーん、もう良いですよぉ〜!!」
ザラメの呼びかけに、巨大カボチャは応じない。
デウスを呑み込んだカボチャは、その場で固まったままだ。
かれこれ10分強。これ以上の進撃も、パニック映画よろしく蔦を伸ばして次なる獲物を捕らえることもない。閉じた口は、咀嚼さえしない。
さっきまでキョンシー力UPを喜んでいたザラメだが、今となっては顔に不安を滲ませている。
「大丈夫なのかよ、あいつ」
「大丈夫じゃ、ないかもです……」
ザラメの声は震えている。
顔は強張り、拳は固く握られていた。
「ザラメ、行ってきます!!」
そう言い残し、巨大ジャック・オー・ランタンの元へ走り出すザラメ。
「デウスさんっ!! 今助けます!」
カボチャの真ん前に辿り着き、その表面に触れた途端……
「きゃあ?!」
風船の割れるような破裂音が、浜辺に響き。
砂埃の中に、ザラメが消えちまった。
カボチャの破片が、浜辺へ海へ降り注ぐ。欠片が水面を打つ音が、輪唱みたく鳴り響く。
異様な現場に野次馬は我に返り、散り散りになっていった。
俺とコスズは身を屈め、頭を腕で守る。
「どうなってんだよおお!!」
海で爆発に居合わせるとか、誰が予想できたよ。
しかもカボチャの。
「…………収まったか?」
破片の雨が止んだみたいだ。
再び顔を上げると、カボチャの皮があちこちに突き刺さっている。
「2人とも無事か、って…………」
俺とコスズが目の当たりにしたのは、
――破裂の中心部。そこにいたザラメとデウスが、黄色い粘液に
ちなみにだが、ポタージュ君はその名の通りパンプキンポタージュになっていた。
「ふええ……」
ザラメに纏わりつく液体が、白い柔肌を一層強調していた。
加えて泣きそうな顔が、お労しさを加速させる。
見る人が見たら興奮するんだろうなぁ。俺は全くしないが。
デウスも黄色い液体で全身を彩っていた。
「見てしまったよ、地脈の深淵を。この地に巡る
空を仰ぎ、しみじみと零す神。
何やら色々覗いちまったらしい。
それだけなら良かったが、
「これもザラメと思うと、実に感慨深い……」
頬を赤く染める始末。なんなら、粘液を身体に塗り直して味わってやがる。
「ザラメとのポタージュ……すなわちこれは、ザラメでありながら我々の愛の結晶!」
液体だけどな。
「素晴らしい、何と良い日なのだ!!」
「全然良い日じゃないですぅ!!」
言い合うキョンシーと神。
黄色い液体にデロンデロンな2人をみていると、こみ上げてくるものがある。
「……郡さん、何笑ってるんですか」
「いやぁ、お前らのカボチャ化粧が
「今なんて言おうとしました?」
「ふふ。お似合いとは、分かっているな青年!」
不満たらたらなザラメと満足げなデウス。
その傍らにはコスズがしゃがみ込んでいた。じっとポタージュを見つめるコスズだったが、人差し指で掬いまさかのひと舐め。
毒味ときたか、恐れ知らずなヤツめ。
「美味……」
お気に召したらしい。
ご機嫌にサムズアップ。
「だってよ。これもうキョンシー力限界突破してんだろ」
「うう。こんなのキョンシー力と違いますぅ」
不貞腐れるザラメ。
「ってかそもそも、お前の言うキョンシー力ってなんだよ」
「もちろん、キョンシーらしさ満点の力です!! 皆さんを守れるような凄い力でですね、心に残るようなインパクトがあるとなお良しですっ」
なんつーか、お前らしい。
だったら、俺にできることは1つだ。
踵を返した俺から、慈しみのスマイルを送ろう。
「せいぜい頑張れよ、俺は遠くで見守ってっから。さっ、コスズ。かき氷でも食うか!」
「えっちょ、行かないでくださいよぉ!!」
残りのカボチャを回収し、目指すは海の家だ。
コスズが「良いの……?」と訴えかけてくるが、ここで引き返したら絶対ロクな目に遭わねぇ。
「郡……ザラメ、可哀想……」
「そうですよコスズちゃん! もっと言ってやってください!!」
「コスズ、今の俺は気分が良い。トッピングに練乳もかけてもらおうと思ってたんだが」
「バイバイザラメ……」
「コスズちゃん?!」
すっげぇ綺麗に裏切ったよこいつ。
名残惜しそうに手を振ってるが、多分練乳かき氷のことしか考えてねぇわ。
遠ざかる俺たちに、ザラメは手を伸ばす。
「うえええん置いていかないでぇええ!!」
駄々っ子みてぇなザラメの叫び声が、追いかけてくる。
「私はずぅ〜っと一緒だぞ、ザ・ラ・メ♡」
「抱きつこうとしないでくださいデウスさん! こうなったら自力で……ひゃうっ?!」
あ、滑った。
「うう。ザラメは負けません……! 待っててください、キョンシー力満点のザラメ!!」
ひっくり返り、ドロドロのデウスに抱きつかれてもなお、ザラメは健気に意気込むのだった。
特訓はまだまだ続きそうだ。