「どこに行っちゃったんでしょう……」
テーブルの下に潜って、ザラメとコスズがカボチャを探している。
「海に流されちゃったんでしょうか。もうここには居ないとか……?」
「さぁな」
鬱屈と腕を組みながら、俺はザラメを見下ろす。
ザラメはテーブルの下で四つん這いになったまま、不安そうな顔をしていた。
貰い物だからか、愛着があるからか。あのカボチャどもを諦めきれないらしい。
こいつ、スパっと切り替えられるように見えて、結構気にするタイプなんだよなぁ。
……旅行中ずっと言われそうで、気が滅入る。
「安心したまえ。カボチャは全てこの海水浴場の範囲内、あるいはその近辺にある」
「ホントですか?!」
「僅かにだが地脈を感じるのだよ。ザラメが使っているものと同じものをな」
落ち着いた様子で、デウスは告げる。
加えて、この程度の量ならさっきみたいに暴走する恐れが無いことも。
「だったら、そのカボチャどもをホイホイできねぇのか? デウス」
「神たる私をなんだと思っているのだ……。今はザラメの地脈コーティングを施されているからな、引き寄せることはできない」
肝心な時に限って役に立たねぇ神だ。
そう思っていると、ザラメが立ち上がった。
「ザラメ、探します!!」
勢い余ってテーブルに頭をぶつけたが、気にもならないようだ。
「私も手伝おう! フィアンセの困りごとだ、花婿たる私の魅せ場!!」
「ワタシも……」
「2人とも……ありがとうございます!」
嬉しそうに、それでいてあどけなく笑うザラメ。
「では、張り切って探しましょうっ」
「おー……」
コスズと一緒になって、小さく拳を揚げている。
その様子を見て満足げに頷いたデウスだったが、突然俺に向き直した。
腕を組み、試すように口角を上げながら。
「さて、青年はどうする?」
「は?」
「あの……今回はザラメの責任なんです。なので、郡さんは大丈夫です」
伏し目がちに、ザラメは言いやがった。
「お前なぁ」
自分の髪を乱雑に掻き、俺は続ける。
「さっきまで散々特訓に巻き込んどいて、今更気ぃ遣ってんのか? 遅すぎんだろ」
「ほぇ……?」
「……とっとと終わらせるぞ」
辛気臭いのは性に合わねぇ。こいつに遠慮されるなんて気が狂う。
踏ん切りをつけるように立ち上がった俺に、
「ありがとうございます、郡さん……!」
柄にも無く、ザラメが頭をペコリと下げた。
一瞬視線が逃げたのは、バカ真面目にお礼を言われたせいだ。
「どーせお前は探すの下手っぴだろ。大人しく待ってても良いんだぜ」
「下手っぴ?! 郡さんこそ、足引っ張らないでくださいよ!!」
「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ!!」
さっきまでしょげてたザラメが、元の調子に戻ってきた。
それを見ていたデウスが、思い立ったように割って入る。
「ではどうだろう。残り5体のうち、誰が一番多くカボチャを手に入れられるか競うというのは」
「名案、デウス様……」
たまには面白いことを言うじゃねぇか。
「だったら勝負です! どっちの方がカボチャを沢山集められるか!!」
「望むところだ!!」
「私も忘れてくれるなよ!」
「優勝する……」
各々が意気込む中、俺は拳に力を入れて叫んだ。
清々しいまでの威勢で。
入道雲広がる青い空まで、届くぐらいの勢いで。
「まっ、俺が負けるとは思えねぇけどな!!」
――なんて宣言した俺を、今はぶん殴りたい。
「捕獲です!」
ヤシの木に登った1体はザラメが、
「私も捕まえたぞ、しかも2体!」
パラソルの影で休まる2体はデウスが、
「1匹、ゲット……」
砂に潜った1体はコスズがそれぞれ回収し。
……俺勝ち目ねぇじゃん!!
途中で集まっても、俺だけ手ぶらなもんだから、
「あれあれ~? 郡さんのところには、カボチャが無いようでぇ」
したり顔で覗き込んでくるザラメがうぜぇ。
すっかり元気になって、今やこれだ。
こっちは動き回って脚が重いし、喉も乾いたってのに。
「ザラメの勝ちですねっ! 郡さんは指を咥えて見ておくといいです♪」
「クソがよ!」
一発ぎゃふんと言わせてぇ……。
独り言ちながら、俺は顎にまでダラダラと垂れる汗を腕で拭う。
「つーかザラメ。あと1体をお前が捕まえたとしても、デウスと引き分けにしかならねぇだろーが」
「ぐさっ」
ちょっと刺さったっぽい。
「ザラメと引き分け、すなわち比翼連理の運命共同体……ぐはっ!」
こいつにも刺さったっぽい。
「まだ……決まってない……」
「郡さんの負けは決まってますけどね」
「ぐっ」
下唇を噛みながら、勝ち組どもを睨む。
俺のカボチャは0なわけだから、引き分けにすら持ち込めない。ザラメの言う通り、負けが決まっちまってる。起死回生の一手があれば良いんだが。
そんな俺を見かねてか、デウスが1つ提案したのだった。
「だがそうだな、このままではつまらないだろう」
片手を顎にあてながら、前置きをする。
おおっ、この流れは?
「逆転劇も夢じゃない、特別ルールを追加しよう」
「おお~!!」
「デウス様……神」
「神だぞ私は」
特別ルールってもしや、バラエティ番組でよくあるボーナスのことか? 最後のカボチャには1億点つくとか、そんなやつだよな?!
待ってました、これで俺も一発逆転!!
「最後のカボチャを捕まえた者には、2ポイントを贈呈だ!」
「俺勝ち目ねぇじゃん!!!!」
俺の虚しい叫びが、さざ波の音に攫われていくだけだった。