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第40話 共同、炎天下のカボチャ探し

「どこに行っちゃったんでしょう……」


 テーブルの下に潜って、ザラメとコスズがカボチャを探している。


「海に流されちゃったんでしょうか。もうここには居ないとか……?」

「さぁな」


 鬱屈と腕を組みながら、俺はザラメを見下ろす。

 ザラメはテーブルの下で四つん這いになったまま、不安そうな顔をしていた。

 貰い物だからか、愛着があるからか。あのカボチャどもを諦めきれないらしい。

 こいつ、スパっと切り替えられるように見えて、結構気にするタイプなんだよなぁ。

 ……旅行中ずっと言われそうで、気が滅入る。


「安心したまえ。カボチャは全てこの海水浴場の範囲内、あるいはその近辺にある」

「ホントですか?!」

「僅かにだが地脈を感じるのだよ。ザラメが使っているものと同じものをな」


 落ち着いた様子で、デウスは告げる。

 加えて、この程度の量ならさっきみたいに暴走する恐れが無いことも。


「だったら、そのカボチャどもをホイホイできねぇのか? デウス」

「神たる私をなんだと思っているのだ……。今はザラメの地脈コーティングを施されているからな、引き寄せることはできない」


 肝心な時に限って役に立たねぇ神だ。

 そう思っていると、ザラメが立ち上がった。


「ザラメ、探します!!」


 勢い余ってテーブルに頭をぶつけたが、気にもならないようだ。


「私も手伝おう! フィアンセの困りごとだ、花婿たる私の魅せ場!!」

「ワタシも……」

「2人とも……ありがとうございます!」


 嬉しそうに、それでいてあどけなく笑うザラメ。


「では、張り切って探しましょうっ」

「おー……」


 コスズと一緒になって、小さく拳を揚げている。

 その様子を見て満足げに頷いたデウスだったが、突然俺に向き直した。

 腕を組み、試すように口角を上げながら。


「さて、青年はどうする?」

「は?」

「あの……今回はザラメの責任なんです。なので、郡さんは大丈夫です」


 伏し目がちに、ザラメは言いやがった。


「お前なぁ」


 自分の髪を乱雑に掻き、俺は続ける。


「さっきまで散々特訓に巻き込んどいて、今更気ぃ遣ってんのか? 遅すぎんだろ」

「ほぇ……?」

「……とっとと終わらせるぞ」


 辛気臭いのは性に合わねぇ。こいつに遠慮されるなんて気が狂う。

 踏ん切りをつけるように立ち上がった俺に、


「ありがとうございます、郡さん……!」


 柄にも無く、ザラメが頭をペコリと下げた。

 一瞬視線が逃げたのは、バカ真面目にお礼を言われたせいだ。


「どーせお前は探すの下手っぴだろ。大人しく待ってても良いんだぜ」

「下手っぴ?! 郡さんこそ、足引っ張らないでくださいよ!!」

「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ!!」


 さっきまでしょげてたザラメが、元の調子に戻ってきた。

 それを見ていたデウスが、思い立ったように割って入る。


「ではどうだろう。残り5体のうち、誰が一番多くカボチャを手に入れられるか競うというのは」

「名案、デウス様……」


 たまには面白いことを言うじゃねぇか。


「だったら勝負です! どっちの方がカボチャを沢山集められるか!!」

「望むところだ!!」

「私も忘れてくれるなよ!」

「優勝する……」


 各々が意気込む中、俺は拳に力を入れて叫んだ。

 清々しいまでの威勢で。

 入道雲広がる青い空まで、届くぐらいの勢いで。


「まっ、俺が負けるとは思えねぇけどな!!」




 ――なんて宣言した俺を、今はぶん殴りたい。


「捕獲です!」


 ヤシの木に登った1体はザラメが、


「私も捕まえたぞ、しかも2体!」


 パラソルの影で休まる2体はデウスが、


「1匹、ゲット……」


 砂に潜った1体はコスズがそれぞれ回収し。

 ……俺勝ち目ねぇじゃん!!


 途中で集まっても、俺だけ手ぶらなもんだから、


「あれあれ~? 郡さんのところには、カボチャが無いようでぇ」


 したり顔で覗き込んでくるザラメがうぜぇ。

 すっかり元気になって、今やこれだ。

 こっちは動き回って脚が重いし、喉も乾いたってのに。


「ザラメの勝ちですねっ! 郡さんは指を咥えて見ておくといいです♪」

「クソがよ!」


 一発ぎゃふんと言わせてぇ……。

 独り言ちながら、俺は顎にまでダラダラと垂れる汗を腕で拭う。


「つーかザラメ。あと1体をお前が捕まえたとしても、デウスと引き分けにしかならねぇだろーが」

「ぐさっ」


 ちょっと刺さったっぽい。


「ザラメと引き分け、すなわち比翼連理の運命共同体……ぐはっ!」


 こいつにも刺さったっぽい。


「まだ……決まってない……」

「郡さんの負けは決まってますけどね」

「ぐっ」


 下唇を噛みながら、勝ち組どもを睨む。

 俺のカボチャは0なわけだから、引き分けにすら持ち込めない。ザラメの言う通り、負けが決まっちまってる。起死回生の一手があれば良いんだが。

 そんな俺を見かねてか、デウスが1つ提案したのだった。


「だがそうだな、このままではつまらないだろう」


 片手を顎にあてながら、前置きをする。

 おおっ、この流れは?


「逆転劇も夢じゃない、特別ルールを追加しよう」

「おお~!!」

「デウス様……神」

「神だぞ私は」


 特別ルールってもしや、バラエティ番組でよくあるボーナスのことか? 最後のカボチャには1億点つくとか、そんなやつだよな?!

 待ってました、これで俺も一発逆転!!


「最後のカボチャを捕まえた者には、2ポイントを贈呈だ!」

「俺勝ち目ねぇじゃん!!!!」


 俺の虚しい叫びが、さざ波の音に攫われていくだけだった。

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