人間界と魔界は『ゲート』と呼ばれている門で繋がっている。
この門がいつから存在しているのか、誰が何の目的で作ったのか一切の記録がない。
過去にはゲートの破壊を試みた者もいたと言われている。
どうやら傷をつけることはできるものの、すぐに傷が塞がってしまうらしいのだ。
ゲートは生きている……そう語る者もいる。
「陛下、私の策はベルモントが魔界に戻り次第、ゲートを破壊するというものです。ゲートさえ無くなれば、人間界からの侵攻は完全に無くなります」
「ゲートを破壊!そんなことが可能だと考えているの?」
「これまでゲートを破壊できなかったのは、ダメージを蓄積させるよりも修復されてしまう速度が早かったためです。であれば、最大火力で一気に攻撃すれば破壊できる可能性があります。今まではその方法が分かりませんでしたが、陛下の輝翼閃がその唯一の方法ではないかと気づきました」
薄々気付いていてはいたけど、やっぱり私か。
最近、こういう展開ばかりじゃないかしら。
しかし、魔王としての責任を感じている私は、この状況を受け入れるしかない。
父上から受け継いだこの地位を守り、民を守るために、私がすべきことは明確だ。
「そうね。ならば、私の考えを話します。国とは、領土・民・主権です。今の魔界は戦争に敗れたこともあり、人間界の属国に近い状況となっています。今までは国のため耐えていきましたが、いつの日か自分たちの力だけで国を運営できるよう、自立をしなければなりません」
「陛下……国を再建するためとはいえ、不利な条件で降伏しなければならなかったこと、本当に申し訳ありませんでした。私の力不足です」
「いえ、スカーレット。あなたがいたから、この程度で済んだのです。それに人間界を利用して再建を行う策のおかげで、民は豊かになりつつあります。ゲートの破壊、悪くないかもしれませんね」
戦争に負けた国の王として即位した私。
民に笑顔が戻るまでは屈辱を我慢しようと思っていたけど、それももう終わりにしてもいいのかもしれない。
そのために、私たちは人間界との関係を断ち切る覚悟を持たなければならない。
魔界の独立と自立を目指すためには、今がその時なのだ。
「では、ゲートの破壊計画を進めます。ゲートが破壊されると人間界との行き来はできなくなりますから、両国の商人が取り残されないようにタイミングを図る必要があります」
「1つ疑問に思ったのだけど、ベルモント殿が戻るのを待つのではなく、先に破壊してしまえばベルモント殿は行ったり来たりする必要がないのでは?」
私が疑問を口にすると、ベルモント殿がすっと立ち上がった。
彼の顔は真剣そのもので、覚悟のようなものを感じた。
「それについては、私に説明させてください。私は人間界皇帝の家臣ですからけじめをつけなければなりません。きちんと終わらせることが次につながると考えています。陛下にしても、簡単に主君を変えるような者を家臣にしたいとは思わないでしょう」
「ベルモント殿、あなたの気持ちは分かりました。でも、必ず戻ってきてください。あなたが居るべき場所はここなのですから」
「我儘を聞いていただき、ありがとうございます。必ず戻りますので、ご安心ください」
そこまで言うのであれば大丈夫だろう。
ベルモント殿はこれまでも、これからも魔界に必要な人材だ。
スカーレットと結婚して魔界に残ってくれるのなら、これほど心強いことはない。
「スカーレット、ゲートを破壊する前にやっておくことは何かしら?」
「光魔法に関する情報と魔法書、それと様々な農作物の種を輸入しておくことです。多少値が高くても優先的に仕入れるよう、至急手配します」
こうして、父上が討たれたことで始まった私の戦いは、『ゲートの破壊』という目標に向かって進むこととなった。
人間界との断絶は不安も多いけど、私の心には熱い思いが湧き上がってくるのも感じていた。
これから先、どんな困難が待ち受けているのか分からない。
しかし、私たちには希望があり、未来への道を切り開く力がある。
魔界の民と共に、私たちは新たな時代を築くのだ。