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第61話 勇者パーティ

 私は謁見室で玉座に座っている。

 今日はカイル君が謁見のために登城することとなっている。

 武者修行の旅に出たいという要望が出ていたので、その回答のためだ。


 それにしても……王に即位してから何度か座ったことがあるものの、この仰々しい椅子には未だに落ち着かない。

 私の脳裏にある父上のイメージは玉座でふんぞり返っている姿なのだけど、こんな椅子でふんぞり返るなんてとんでもないというか、なんだか恐れ多い気がしてしまう。

 いつの日か、この玉座が似合う王になりたいものだ。


 そんなことを考えていると、ラッパの演奏が始まった。


「カイル殿、ゾルテス殿が参りました」


 兵士が扉を開けると、カイル君とゾルテスの2人が私の前でひざまずき、臣下の礼をとった。


「2人とも、遠路はるばるご苦労だった。また、マジェスティア防衛戦での働きは、まことに見事である」


「恐悦至極に存じます」


「さて、希望にあった武者修行の件だが、新たな任務を依頼したい。この任務は、魔界の未来を切り開くための重要なものである。魔界全土に広がる瘴気を取り除き、再び豊かな土地を取り戻すことが目的だ。アメリア、マーベリス、フェリックス、ベインズをここへ」


 私が指示をすると、4人がやってきた。

 マーベリスは士官学校の学生で、魔法に長けているのだそう。

 年齢はカイル君たちと同じ15歳と聞いている。

 人間界の冒険記に憧れているらしく、人間界の魔法使いが使用しているようなローブを着ているのが印象的だ。


 フェリックスとベインズは光属性を持つ魔法使いだ。

 光魔法は人間界から輸入したものを学ばせているが、スカーレットが言うには『輝翅輪舞』ほど強力なものではないらしい。

 また、戦闘訓練を受けている訳では無いので、戦いには向いていない。


「アメリア!なぜここへ?」


「カイルたちと旅をするよう、陛下に言われたのよ」


「なんと!陛下、それは本当でしょうか」


「具体的に説明しましょう。私の魔界改造計画は魔界の瘴気を取り除くものですが、王である私が魔界中を旅する訳にはいきません。そこで、フェリックスとベインズにその役目を任せることにしたいのです。ですが、彼らは戦闘訓練を受けていないので、そなたたちに護衛を依頼したいのです。アメリアは医療魔法を広めるため、マーベリスは各地の情報収集を行うためです」


 と、そう説明したのだけれど、私はカイル君とアメリアを引き離したくなかったというのが本当のところだ。

 ゾルトの計画に巻き込んでしまったことで、一時的に引き離してしまったのだけれど、やっぱり一緒にいたいと思うのよね。

 幸い、カイル君は大手柄を挙げてくれたし、今のアメリアには旅をする理由もできたことだしね。


「つまり、我々6人で陛下の魔界改造計画を担うということですね。なんという名誉……!」


「ゾルテスもそれでよいか」


「はい。もちろんです。必ずや目的を達成します!」


 ゾルテスの事は少々気にかけていた。

 父が勇者として選んだのが、息子の自分ではなくカイル君だと知ったとき、どんな思いだったのだろうかと。


 だが、彼は自らの意思でカイル君の盾となることを受け入れたのだという。

 カイル君とも仲が良いみたいだし、心配には及ばなかったようだ。

 きっと、レンナーラの育て方が良かったのだろう。


「よろしい。では、そなたたちは今から『勇者パーティ』とする。これはその証である」


 私は玉座を立つと6人の前に行き、それぞれの首に王家の紋章が入ったペンダントをかけた。

 ペンダントからは青白い光が放たれており、体力と魔力を強化する効果があるらしい。

 きっと、彼らを守ってくれることだろう。


 こうして彼らとの謁見は無事に終了した。


 ――


 謁見が終わった私は、執務室でスカーレットと今後の話をしている。


 執務室は重厚な家具と書物で満たされ、外の光が柔らかく差し込んでいる。

 ここで私たちは、国の未来について真剣に議論するのが常だ。


「マーベリスという娘、スカーレットの推薦と聞いているけど、その理由を聞かせてもらえる?」


 アメリアはともかくとして、マーベリスを選んだ理由がよく分からなかった。

 士官学校では成績が良いどころか、中の下だと聞いているからだ。

 スカーレットに限って私情を挟んでいるということはないだろうけど、一応聞いておくべきだろう。


「陛下は彼女の成績が良くないことを気にされていると思いますが、彼女はとても優秀ですよ。ただ、物事の考え方が理想主義すぎてうまくいかないことが多いのです」


「理想を追い求めることはいけないことなの?」


「程度にもよります。マーベリスの場合、理想が強すぎるために他人の考えを拒否してしまうことが多かったようです。また、現実的に不可能と考えられるような事象に対しても理想を貫くような結論を出す傾向があったようです」


「士官は冷静に現状を把握することが重要だものね。つまり、この旅は荒療治ということになるかしら」


「そうです。まだ若い6人ですから、うまくいかないことも多いでしょう。天候や治安によって作業が計画通りに進まないこともあるでしょうし、旅先で人助けをする必要もありましょう。現実を見ながら臨機応変に対応できることができれば、マーベリスは誰よりも優秀なのです」


 この旅が彼らにとって試練であることは間違いない。

 しかし、試練を乗り越えた先には、大きな成長と新たな発見が待っているはずだ。


「最初の目的地は北部地域よね?」


「はい。ソルステリアの南に国営農場を建設する予定です。支援物資の輸送は既に行っていますが、食料を自給自足できるようにする必要があります」


 農場を建設するのは食料の増産だけでなく、雇用の確保という目的もある。

 ソルステリアでは多くの物乞いを見かけたが、彼らが働ける場になれば幸いだ。


 翌朝、カイル君たち『勇者パーティ』は王都を発った。

 北部地区の復興は君たちに任せたよ。


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