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第33話 緑の地平線

 マジェスティアを出発した私たちはルナティカへと向かっている。

 ルナティカに近づくにつれ、緑の地面が広がり、新たな生命が息吹を吹き込んでいるように感じられた。

 以前は全く気にしない風景だったが、今ならその意味が分かる。


 この国を救う鍵が、もしかするとルナティカにあるのかもしれない。

 大魔道士ルナティカ……一体どんな人物だったのだろうか。


 村の門をくぐると、懐かしい顔が目に入った。

 ガイランドはいつも通りの堅苦しい様子で立っていたが、目には暖かい光が宿っている。


「殿下!いや、今は陛下でしたね。お待ちしておりました。早速で申し訳ないのですが、村長が待っておりますので向かっていただけますか」


「ガイランド、久しぶりね。エルリオンが待っているということは、スカーレットから事前に連絡があったということね」


「はい、スカーレット様から連絡をいただいておりまして、既に報告の準備ができております。それにしても陛下、なんだか見違えましたね」


「そう?そんな短期間で雰囲気が変わるわけないじゃない」


「そんなことないですよ。顔つきがすごく引き締まった感じに見えます」


 そういうものだろうか。

 自分では変わっていないと思っていたのだけど、色々と苦労したからかしら。


「そうかしら、ありがとう。でもね、ガイランド。女性を褒めるときは『綺麗になった』の方がいいと思うわよ」


 ガイランドはしまったという顔をしたが、すぐに真顔に戻り仕事へと戻った。


「陛下、セリアナの所にも行ってあげてくださいね」


 ガイランドの言葉に心が温まる一方で、私の中にはセリアナへの想いが溢れていた。

 彼女の墓への訪問は、ただの礼儀ではなく、私にとっての必要不可欠な儀式となっている。


「もちろんよ。むしろエルリオン(村長)よりも優先度が高いな」


 私は墓地へ行くと、セリアナの墓前に花を供えた。

 思えば何度も大変な目に合ったが、セリアナの鉢金を締めることで勇気と力をもらった気がする。

 でも本当は、生きて側にいてほしかった……。


「セリアナ殿はこの村の英雄だそうですね。彼女の勇気と犠牲を称えましょう」


 ゾルトが墓前に手を合わせながら、そう言った。

 武人として、何か思うところがあったのだろう。


「そうよ……。彼女は本当に強かった。でもね、ゾルト……人は死んでしまったら終わりなの。お前は絶対に死なないでね」


「拙者はこれまで自分が死んでも主君を守ることが武人のつとめと思っておりました。しかし、陛下と出会ってからは生きて守らねばと思うようになりました。陛下は本当に不思議なお方です」


 ゾルトの言葉は重く、彼の忠誠心が伝わってきた。

 私たちの間には、言葉以上の絆がある。それは戦いを共にし、互いの命を何度も救い合った経験から生まれたものだ。


「私は全ての家臣、国民を守って、素晴らしい世界を見せたいと思っているのです。ゾルトもレンナーラと共に、まだまだ働いてもらうわよ!」


 ――


「おお、陛下。こちらでしたか。娘の墓参りありがとうございます。娘も陛下が来てくれて喜んでいることでしょう」


 私たちがなかなか来ないので、エルリオンがしびれを切らして探しに来たようだ。

 エルリオンが現れたとき、彼の足音は静かな墓地に響き渡り、重々しい空気を一瞬で切り裂いた。


「遅くなってすまない。では、移動しながら話を聞かせてもらえるか」


 私たちは石畳の道を歩きながら、周囲の古い樹木がささやくような風の音に耳を傾けた。


「スカーレット様から大魔道士ルナティカについての調査を依頼されておりました。しかし、魔法書や日記は歴史の中で紛失してしまい、残念ながらお渡しできるものはありませんでした」


「そうか……。500年も前の話だからな、残っている方が不思議なのかもしれませんね」


「はい。ただ伝承ではルナティカは光属性の雨を降らせたと言われています。それについては少々心当たりがございます」


「心当たり?」


「はい。機密性の高い話ですので私の屋敷についてからお話します」


 屋敷の門をくぐると、そこは別世界のように静寂が支配しており、私たちの心にも落ち着きをもたらした。

 応接室の窓から差し込む月明かりが、部屋の中の家具を幽玄な影で彩っていた。


 その後、エルリオンが木箱を抱えて戻ってくると、私の前に箱を置きゆっくりと開けた。

 エルリオンが箱を開けた瞬間、箱の中にある3冊の魔法書から微かな光が漏れ、部屋に神秘的な雰囲気をもたらした。


 これは一体……。


「この魔法書はアイリーン様からお預かりしている光の魔法書です」


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