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第34話 輝く運命の翼

「母上の魔法書ですって!」


 その言葉を聞いた瞬間、私の心は驚きで満ち溢れた。


「はい。アイリーン様は、幼い陛下が光属性を持つことを見抜き、人間界の魔法工房に特注で魔法書を作らせたそうです」

「よって、ルナティカの魔法ではありませんが、陛下の適正に合わせて作られた陛下のための光魔法ということになります」


 なんということでしょう。

 母上が私のために魔法書を用意してくださっていたなんて、想像だにしなかった……。


「でも、そんな話……私は初めて聞きました。そんなものがあるのなら、どうしてもっと早く渡してくれなかったの?」


 エルリオンは静かに語り始めた。彼の声には、過去を思い出す哀愁が込められていた。


「特注品ゆえ、製作には相応の時間を要しました。出来上がった頃には人間界との戦争が始まっていたため、こちらには届きませんでした。しかし、最近の国交回復により、ようやく手元に届いたのです」


「そうだったのですね。では、国交回復をしていなければ私は入手できなかったのですね」


「そうなります。これは運命と呼べるようなものかもしれません」


 部屋の空気が一変し、静寂が支配した。

 私はためらいながらも、魔法書を手に取った。

 それぞれの魔法書には『煌輝羽衣』、『輝翼閃』、『輝翅輪舞』と名前が記されていた。


「アイリーン様がおっしゃっていたのは、幼少期の陛下は蝶が大変お好きだったこともあり、蝶の柄の着物を好んでいたとか」

「そこで、陛下18歳の誕生祝いのために、蝶を模した魔法書を3冊お作りになったのです」


 遠い記憶で母上が蝶の柄の着物を着ていた記憶があるのだが、その柄は私が好きだったからということか。

 私は母上が蝶を好きなのだとばかり思っていた。


「蝶を模した魔法ですか?」


「はい、では順に説明しましょう。まず『煌輝羽衣(こうきうい)』ですが、これは防御魔法となります。光の蝶が舞い、敵の攻撃と相殺することで陛下の身を守ります」

「次に『輝翼閃(きよくせん)』。これは攻撃魔法です。大量の蝶が敵に向かって飛んでいき、敵に触れると爆発してダメージを与えるという見た目と威力の差が大きい魔法です」

「最後に『輝翅輪舞(きしりんぶ)』。円舞曲のように蝶が舞い、翅から光の鱗粉が降り注ぐとされています。これこそ、ルナティカの光の雨と酷似した効果をもたらす可能性があります」


 驚異的……!

 これらは全て、今の私にとって不可欠なものばかりだ。

 私の中で何かが響き渡り、新たな力の覚醒を予感させた。


「まだ18歳にはなっていませんが、これらの魔法を使うことはできるのでしょうか?」


「はい、それは問題ありません。あくまでも渡すタイミングとして指示されていたのですが、今必要なのですから今使うべきです」


「分かりました。それでは、試してみましょう」


 私が魔法書を開いた瞬間、眩い光が周囲を包み込み、魔法書は跡形もなく消え去った。

 そして、私の中に新たな魔法の術式が流れ込んでくるのを感じた。


 私は3つの光魔法をマスターすることができたのだ!


「陛下、早速試し撃ちをしましょうか。私もお手伝いさせていただきます」


 ゾルトがワクワクしたような顔で提案をしてきた。

 エルリオンの説明だと、輝翼閃は爆発魔法とのことだったので、安全性の観点から一旦村を出て荒れ地に移動した。


 まずは輝翼閃だ。

 私がワンドを降ると大量の光るアゲハ蝶が現れ、目標の木へ向かっていった。

 アゲハ蝶が木に触れた瞬間、『ドーン』という爆音が響き、目標の木は木っ端微塵に砕け散っていた。


 こんな優雅な見た目なのに、恐ろしいほどの破壊力だった。

 唯一の弱点は、アゲハ蝶の飛行速度が遅いことくらいだ。


 次は煌輝羽衣を試してみる。

 私がワンドを振ると、輝翼閃と同じように大量の光るアゲハ蝶が現れて私の周りを飛び回っている。

 ゾルトが私に向かって矢を射ると一匹のアゲハ蝶が矢に向かって飛んでいき、当たるとともに両方とも消滅した。

 どうやら自動追尾となっているらしく、私が操作しなくても自動的に守ってくれるので輝翼閃と同時に使うことも可能だった。


 最後は本命の輝翅輪舞だ。

 ワンドを降ると大量の光るアゲハ蝶が現れるのは他の魔法同様だった。


 この魔法は私が操作をする必要があり、ワンドを向けた方向にアゲハ蝶の群れが飛んでいく。

 蝶は光る鱗粉を落としながら飛んでいるので、あたり一面がキラキラとした温かい光で包みこまれていた。


「なんと美しい……」


 魔界では見ることができない幻想的な景色を眺めながら、その美しさに全員が酔いしれていた。


 荒れ地の土は、黒から茶色へと徐々に変化を遂げていた。

 それはまるで、荒廃した大地に生命が戻るかのような光景だった。


 しかし、その喜びも束の間、私の視界は突如として真っ暗になった。


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