「チッ……」
一つの狭く薄暗い部屋で、小さく舌打ちが響いた。
その主は、くしゃくしゃのブルーの髪をそのままにじとりとしたゴールドの瞳をあちこちに動かし、サブモニタが大量についているデスクトップパソコンを使いこなして探し物をしているようだが、目的のものが見つからずに苛々としている要すが
――GK-8が失踪して、約一週間。GK-8を処分しろと彼に命令が下されてから、約一週間と一日。この部屋の主――TN-175は、焦りと怒りが隠せずに顔を歪めていた。
あの最強とも謳われたGK-8を簡単に処分することが出来るとは誰も思っていない。しかし、同時に脳筋とも揶揄された彼が、ここまで身を隠すことに特化しているとまでは、正直思っていなかった。それか彼が潜り込んだ店に誰か協力者がいるのか……。
この数日ほとんど眠りもせずに、姿を見せないGK-8のことを見張っていたが、海外に出国したという形跡はないし、そもそも『スターアロー』の人間は、それなりに地位を持った人間しか出国することを許されていないのだ。だからいくら最強といえど、たかだか一兵士が簡単に外に出られるはずもないのだ。
思考が纏まらないまま、モニタを眺めていると、背後にあるドアから控えめなノック音が聞こえた。機械的に返事をすると、そっと音も立てずに入ってきたのは、SG-563。TN-175の相棒である。強化された際に自分の名前どころか記憶が全て抜け落ち、ぽっかりと穴が空いたような、感情を持たない不思議な人物なのだが――、だからなのだろうか。TN-175に忠実な彼は、TN-175が組織の中でも最も信頼を置いている人物なのだ。
「おかえり。そんなところにいないでこっちにおいで」
「はい」
優しく微笑んだTN-175に対し、無表情のまま従うロボットのようなSG-563は、素直にTN-175の隣へと座る。
「……やっぱり駄目だった?」
「すみません」
「いいよ。責めてないから」
画面から目を離し、デスクに肘をついて、慈しむようにSG-563の目にかかった前髪を整えてやると、彼の変わらない表情の中からその成果を読み取り、そっとSG-563の手を取る。TN-175より少し大きく細い指は暖かく、一息入れている時見たいに安心する。彼はTN-175にとってそんな存在なのだ。
華奢で一見触れたらすぐに壊れてしまいそうな肩は、ふわふわとTN-175を夢見心地にさせて、張り詰めていた空気を脱力させるようにほっと息を吐いた。するとついさっきまで、体内に
――こんなことをしている場合ではないのに。
「TN-175?」
「ああ……ごめんね。少しだけ」
「はい。ベッドまで運びましょうか」
「一緒にいて」
寝惚けて噛み合わない会話を汲み取り、TN-175を抱え上げてベッドへ向かうSG-563。TN-175を布団に寝かせると、その隣に潜りこみ、子どものように擦り寄ってくるTN-175を抱き寄せる。こうすると彼がよく休んでくれることをSG-563は知っている。表情のないまま、TN-175のあどけない寝顔を眺めていると、SG-563も少し瞼が重くなってきた気がする。SG-563はゆっくり目を閉じる。どうかせめて、TN-175が夢のなかだけでも幸せであれますようにと願いながら。