目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

閑話休題.或る神域でのやり取り その1

「なんだ割とつまらない結果だったな。在り来りな愛憎劇とは」


「あら? 貴女はそう思うの? 素敵じゃなーい。愛した男を殺して自らも死ぬなんて、どれだけ愛に殉教しているのかしらね」


「ワタシには理解不能です」


「私もだ。しかし、これでいいのか? 何も解決していない気がするのだが」


「どういうことでしょう? 事件は白井という女が犯人で結論づいたはずですが?」


「いや、そもそもおかしくないか? なんでこの女はわざわざ外から『目張り』をして車内に戻ったのだ? 普通に男を自殺に見せかけて殺すだけではダメだったのか?」


「もーう! 恋愛ってのが貴女はわかってないわね! 愛した男が自分以外の女を選びそうになってるのよ! 自分だけのものだったのに取られそうになっちゃってるの! 永遠に自分だけのものにしたかったら殺して自分も死ぬしかないでしょ!」


「理解不能です」


「私にも理解できん……。殺すのはいい。自分を裏切ったのだからな。相手を殺して自分も死ぬのは……まあ、いいだろう。理解はできんがそういうこともあることにする。だが、やはり自殺に見せかけて死ぬのはわからん」


「普通に相手を刺殺するなりして、自分は別の方法で自死を選ぶという選択肢もありますね」


「もう! 二人ともわかってない! 死ぬ時は愛する人の腕の中で一緒に死にたいでしょ! なんでこの乙女心がわからないかなぁ! それに死に方も一緒のほうがなんか結ばれてる感じがするでしょ! あれよ! 断崖絶壁に二人して身を投げるのとかと同じ理屈よ! あと、あれよ! 一度でも愛した男の苦しむ顔は見たくないでしょ! だから安らかに一緒に死んであげるってことよ! わかりなさい!」


「理解不能です」


「右に同じく」


「もう! 貴女達恋愛したことないの? 熱く燃えるような暗くてドロドロした愛情を感じたことないの!」


「拒否権を発動します」


「……右に同じく。だが、まあわかった。そういうこともある、ということにするが、なんでこんな回りくどいやり方を取ったのだ? こんな所で死なないで自室ですればいいじゃないか? 屋外でわざわざこんな手の込んだやり方を取る必要性が感じられない」


「それは簡単に説明がつきます。この河川敷は男の不貞相手の女が職場へと通うために毎日通り道に使用していたようです。事件があれば自然とその女の耳にも入った事でしょう。その女に見せつけるためでもあったかと推測されます。あわよくば、その女に発見させるつもりがあったやもしれません」


「あー! いいわねいいわねそういうの! 不貞相手の女にこの人は自分のものだと思い知らせることができるわね! ああ、なんて素晴らしい愛憎劇かしら!」


「……理解できん。と言うかこれは本当に白井という女が犯人なのか?」


「どういうことでしょうか? 事件は白井という女が犯人で結論づいたはずですが?」


「同じ言葉を先程も聞いた気が……。いや、ふと思ってしまったのだが。これ、白井という女でなくても犯行は可能じゃないか? 例えばその不貞相手の女が犯人でも成り立たないか?」


「……確かに。その可能性は否定できません。いえ、その可能性の方が白井が犯人説より確率が高いはずです。何故白井が犯人と言うことで結論付けたのでしょう?」


「うーん……不貞相手の女が白井を殺すのはわからなくもないけど……。愛した男まで殺すかしらねぇ? 女さえ排除すれば男は自分のものになるんじゃない? 幸せいっぱいになれるのに自殺に見せかけて二人とも殺すのはちょっとわかんないわ」


「そう! そこだ! 引っかかってたのは! 白井にしろその女にしろ、不貞相手の女もしくは白井だけを殺せば男は自分のもとに帰ってくるじゃないか。わざわざ自殺する必要性がないはずだ」


「だーかーらー! あんたもわかんない女ねぇ! 乙女回路ついてないんじゃないの? 白井にしたら自分の元を一度でも離れてるんだから、相手の女殺しても戻ってくる保障はないわけよ! むしろ普通に自分が疑われて捕まって男と離れ離れになる可能性もあるじゃない! その女の場合はその逆よ! 殺すなら白井しか殺さないはずよ。だからその女が犯人の可能性は低いのよ」


「乙女回路……当機には搭載されておりませんが、何処へ行けば入手できるのでしょうか?」


「物の例えよ! た・と・え!」


「ややこしい例えを出すんじゃない。しかし、結局のところ真実は闇の中……ということか。なんとも歯痒いな」


「一応人間たちの機関での結論がついています。それが真実なのではないでしょうか」


「あーあれでしょ? けーさつ? ってのがそう判断したんでしょ? エリザベートも言ってたけど現世で結論づいた話をひっくり返して再検証なんて面倒なことあいつしないでしょ」


「真実はひとつだが真相は闇の中。複数可能性のある解答のどれが本当なのか……」


「そんなのどーでもいいわよ。どーせこっちじゃ想像するしかないんだから。自分に都合のいい好きな解答を選べばいいわよ。そもそも正解を出す必要性なんて最初からないんだから」


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?