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第21話 町のギルドへポーションを納品する

 今日は早起きして、私はギルドへ納品するポーションのチェックをして箱に並べていた。ルルシアはクッキーを大量に作っているようだった。


「ルルシア、ポーションを届けに行ってくるわね」 

出来上がったクッキーを、紙袋に入れていたルルシアに声をかけた。

 「アルシュ。このクッキーをギルドの人に売り込んできて」

 そう言って笑って、私にクッキーの入った紙袋を渡してきた。売り込んできてって……。ルルシアは商売が上手だ。


 「わかったわ。まかせて」

私はルルシアに預かった紙袋を、ポーションの入った箱の上に乗せてお店から出た。


 初級ポーション10本に、中級ポーションを5本。小瓶に入った回復薬ポーションなのでそんなには重くない。



 町のギルドが見えてきて近づいていくと、武器を持っている人や冒険者らしい服装の人達が建物の外までいた。……厳つい冒険者たちの間を通って、入り口から入っていった。

 覚悟をしていたけれど、ジロジロと見られて気分のいいものではなかった。


 「お姉さ――ん、ギルドここになんか用かい? 俺が案内するか――?」

数人のガラの悪い男性冒険者が、声をかけてくる。

 「登録しにここへ来たのかい? あんたに冒険者は無理だと思うけどな! へへっ」

 ハハハハ! と数人の冒険者に笑われた。暇なのか、しつこい。


 「おっと?」

 体を鍛えた、大男が私の行く方向に立ちふさがった。見上げて無表情で大男へ言った。

 「どいてくれます?」

 愛想良くなんてしない。ズイッ! と前に進むと大男は後ろへ下がった。


 「おいおい? なんで、おねぇーちゃんに怯んでるんだよ?」

 近くの椅子に座っていた、坊主の冒険者が大男に言った。面倒なことにならなければいいけど。

 「あ、いや。なんか……」

 大男はわけわからず……というような顔をしていた。


 私はルルシアと9年も旅をしてきた。途中、魔物に襲われたこともあったけど倒してきた。今はこの町でお店を開いて働いているけれど、場数は踏んでいる。

 何となく本能的に、私の方が強いと気が付いたのだろう。


 だけど、もめ事は勘弁したい。さて、どうするか……。


 「何をやっているの!? お前たち!」

 大男の向こう側から女性の怒鳴り声が聞こえた。ギルドの中にいる冒険者たちはざわざわと騒ぎ出した。


 私からは大男の体が壁になって、見えてなかった。

 「どきな!」

 「ハイ、すみません……」

 大男は首を後ろに向けて、ペコリと頭を下げた。いきなりおとなしくなった。


 見上げるくらいの大男がゆっくりと横へ移動すると、怒鳴り声を発した女性が見えた。

 赤毛のショートヘアーに、鍛えたメリハリのある体。眼光は鋭く、佇まいからは凄腕の冒険者と感じた。二十代後半から三十代半ばくらいだろうか。

 ギルドの制服らしい、キチンとした服装をしていた。


 「悪かったね。うちの冒険者たちが、不愉快な思いをさせたね」

 私のことを見てニコッと笑った。周りでは「アンナが笑ったぞ!」と騒いだ。


 「ところであなたは? ギルドうちに何か用?」

 さっきの大男の冒険者よりはだいぶ身長が低いけれど、私よりも背の大きな女性のギルド職員さんだった。

 「はい。薬屋です。ポーションの納品に来ました」

 目的のもののふたを開けてギルド職員さんへ見せてみた。


 「ああ! あなたがそうだったのね! 想像と違ったので驚いたわ」

 想像と違った? どんな想像していたのだろう。

 「あたしは、アンナ! ギルド職員よ」

 そう言って私からポーションの入った箱を受け取った。


 「はじめまして、アンナさん。私は薬屋のアルシュと申します。よろしくお願いします」

 「よろしく! ん? これは?」

 アンナさんは箱の上の紙袋に気が付いた。

 「紙袋に入っているのは、うちの店員が作ったクッキーです。皆さんで召し上がって下さい。薬屋と一緒にお菓子屋もやっていますので、よかったら来てくださいね」


 私がアンナさんへ説明すると、「ええ!? 薬屋さんとお菓子屋さんですって!?」と言い、箱をカウンターに置いて私の手を握ってきた。

 「あたし、お菓子大好きなの!」

 背中を丸めて、私の目線まで膝を曲げて言った。あまりの迫力に驚いた。


 「そう、なのですね。美味しいので、ぜひ来てください」

 私はキラキラと瞳を輝かせているアンナさんを見て微笑んだ。ルルシアもこんな感じに目を輝かせたことあったわね……と、思い出した。

 「ありがと! 一枚、先に食べさせてもらうわね……。んんっ!? 美味しいわ!」


 「ぜひお店へ行かせてもらう! ……いいかい、お前たち! アルシュさんのお店は、の行きつけのお店になるから、冷やかしになんて行ったらただじゃすまないからね!」

 「はいぃ――ぃい!!」

 横にどいた大男や、さっき声をかけてきた冒険者たちがアンナさんの一声で黙らせてくれた。


 「まったく……。可愛い子が来るとこれだから……。えっと、ポーションの納品だったね。こっちへ来て」

 「はい」

 私はアンナさんに、ギルドの奥の部屋へ案内されていった。


 トントンと扉を叩いて中にいる人へ声をかけた。

 「アンナです。今、よろしいですか?」

 「大丈夫だ」

 返事を聞いて奥の扉を開け、アンナさんは入った。

 「ポーションの納品に、薬屋さんのアルシュさんがいらっしゃいました」

 「入ってくれ」

 渋い声が聞こえてきた。アンナさんの上司だと思った。


 「失礼します。ポーションを持って来ました」

 中へ入ると、壁一面に手配書や地図、予定表などが貼られていた。客用の椅子とテーブルがあって、その奥に渋い声の男性が大きな机と椅子にゆったりと座っていた。

 「ご苦労。数どおりか? アンナ、見てくれ」

 「はい」


 客用のテーブルにポーションの入った箱が置かれた。

 「初級ポーション10本に、中級ポーションを5本。まちがいありません」

 アンナさんが数えて伝えた。


 「申し遅れたな。俺はこの町のギルドマスター ダガンだ。これからも注文すると思うので、よろしく頼む」

 黒い髭を生やして、前髪をあげて胸元のボタンを二つほど開けた、顔の頬に傷がある厳つい風貌のギルドマスターだった。この人も強そうだ。


 「薬屋とお菓子屋をやっています、アルシュと申します。こちらこそ、今後ともよろしくお願いします」

 人を見抜く目をしていた。私は負けないように、微笑んで挨拶をした。















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