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第22話 ギルマス ダガンとギルド職員のアンナさん


 「ほお……。お嬢さんは見かけより、肝が据わっているようだな」


 ギルマスはそう言って笑った。この人の方が私より、肝が据わっているだろうと思った。

 「お嬢さんではありません。アルシュと言います。ギルマス ダガンさん」

 私は自分の名前をもう一度、伝えた。

 「そうだな。すまなかった、アルシュさん」


 ギルマス ダガンさんは、ちゃんと訂正して名前を呼んでくれた。女性だと分かると、取引相手からバカにされたり、まともに扱ってくれなかったりしたことが多かった。値段がわからないと思って舐められたりして、安く買取されそうになったりと散々苦労してきた。


 でももうそれなりに取引をしてきたし、私の作るポーションの効果を知ってくれている人は今でもちゃんと、仕事相手としてお付き合いがある。

 この町でもいい関係を結べそうだ。


 「品質を保てるようにします。これからも納品させていただきますね」

 「よろしく頼む」


 私は礼をしてギルマスの部屋を出た。アンナさんも一緒に部屋から出てきた。

 「ギルマスへもらったクッキーを置いてきたよ。あれでも甘党だ。きっと喜ぶ」

 ギルマス ダガンさんは、甘党なのか……。人は見かけによらないというか。

 「ふふっ……」

 私は思わず笑ってしまった。あの厳つい顔で、小さなクッキーを喜んで食べてくれるかと思ったら嬉しくなった。


 「アルシュさんはギルドで、冒険者の登録はしないの?」

 アンナさんに聞かれてどうしようかと思ったけれど、いずれわかるなら話しておいた方がいい。

 「王都近くの町で、登録は済んでいます」

 「そうなのね! ちなみにランクを聞いていいかな?」


 ギルドに登録した冒険者は、その働きによってランクが決まる。冒険をする者ならば誰もが知っていることだ。

 一番下がF級で、簡単なお使い程度の依頼を受けて報酬を得る。私とルルシアはF級でもいいと思っていたけれど、質のいいものを納品してしまっていたらすぐにランクが上がってしまった。


 旅の途中、魔物に襲われたときには素材をギルドへ持って換金して資金にしていたら、またランクが上がった。

 「……A級です」

 「A級なの!?」


 部屋から出てきて注目を浴びているのに、アンナさんの声が大きくて私のランクが知られてしまった。

 ざわざわ……。

 「あ、しまった。ごめん!」

 変な人に絡まられなければ、いい。


 「あ――。この町はそんなに強いランクの冒険者がいないから、手出しされないと思うけど……。なんかあったら、あたしを呼びな?」

 アンナさんの力強い助けに感謝する。

 「ありがとう御座います。そうさせてもらいます」


 「あ、そうだわ。皆さんにも試食のクッキーがあるのでよかったら召し上がって下さい」

 私はギルドの中にあるテーブルの上へ、布を広げてクッキーを並べた。

 「うおおおお――! 試食のクッキーだと!?」

 「俺、食いたい!」「俺も――!」


 厳つい冒険者たちは、争うようにクッキーに群がった。そこへアンナさんが割って入って男たちに怒鳴りつけた。

 「順番ずつ、だよっ!」

 冒険者たちへ一枚ずつ、手渡ししてくれた。


 おとなしく一列に並んで一つずつ受け取る厳つい冒険者たちを見て、ルルシアのたくさん作ったクッキーを持ってきて良かったと思った。


 「ありがとうっス!」

 「美味しい!」「うまっ!」

 「俺、買いに行くわ!」

 好評で良かった。良い宣伝になったかしら。


 「では、私は帰りますね」

 アンナさんへ挨拶してから私は帰った。

 「アルシュさん、またね!」

 お互い、笑顔で別れた。良い取引先になりそうでよかった。



 家へ戻ると、ルルシアがお店の開店準備をしていた。私の姿に気が付くと手を振ってくれた。走ってこちらに来て、期待している瞳で私に聞いてきた。

 「ギルドの納品はどうだった? あと私の試食のクッキーは……」


 「ギルマスさんも、職員さんもいい方だったわ。これからいいお付き合いが出来そう。試食のクッキーはギルマスさんや職員さん、冒険者の方たちに大好評だったわよ!」

 「良かった――!」

 ルルシアが私に、子供のように抱きついてきた。私はつい、ルルシアの頭を撫でてしまった。

 子供扱いで嫌がるかなと思った。けれど「えへへ」と言って、嬉しそうにしていた。


 「もしかしたら、厳つい冒険者さん達が来るかもしれないわよ? 大丈夫?」

 私の胸で顔をうずめていたルルシアは、顔を上げてちょっと不安そうな顔をした。

 「……アルシュがいるなら、大丈夫」


 少しルルシアを心配した。気をつけてみていようと思う。私達は離れて、開店準備を一緒に始めた。


 町にギルドが出来れば、それだけ人がこの町へ来ることになる。お仕事的にはいいけれど、暮らしていくとまた新たな問題もできてくるだろう。


 何か私達に不都合な事が起こったら、また旅に出ようと思う。


 「アルシュ――! 花壇に咲いているお花を切って、お店に飾ってもいい?」

 ルルシアが花壇に咲いている花を切って飾っていいか聞いてきた。

 「いいわよ。まかせる」


 私とルルシアが花を育てていた花壇に、たくさんの花が咲いた。花壇だけじゃなく、裏庭に野菜も育てている。まだ収穫には早いけれど、実ればたくさんの野菜などが採れるだろう。


 ルルシアと試行錯誤しながら作って、時にご近所さんに手を借りながら生活をしていく。


 「まだ開店準備中かしら?」

 さっそくお客様がいらっしゃってくれた。


 「いえ、大丈夫です。どうぞ」

 先にお店へ入っているルルシアの後を追って、私はお店へ入った。ルルシアの摘んだ花が飾られていた。


 「いらっしゃいませ!」

 「いらっしゃいませ」


 お客様が次々とお店の中へ。老若男女、たくさんの方が来店してくださった。















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