私の薬屋さんで薬を受け取った後、ルルシアのお菓子を家族に買っていくお客様。反対にルルシアのお菓子屋さんでお菓子を買って、「そういえば風邪っぽいな」と言って私の薬屋さんで相談するお客さんが来る。
同じ一室で二つのお店をやるのは、相乗効果でいい感じだった。
「ルルシアちゃん。今日のお菓子のおすすめは、なんだい?」
ルルシアの作るお菓子のファンがいるらしい。甘すぎず、ハーブやナッツ類やドライフルーツなど使っているから子供からお年寄りまで好評だ。
「今日はアーモンドプードルクッキーがおすすめかな? サクッ、ほろっとして美味しいですよ!」
ニコニコしてルルシアが説明しているのは、ご近所さんのおばあちゃん。
孫とおばあちゃんみたいに仲がいい。おばあちゃんも、ルルシアのことが可愛いと思ってくれているようだ。
「そうかい。じゃあそれをくださいな。お友達とお茶するの」
「まあ! いいですね! 私のお菓子をお茶菓子にしていただけて、嬉しいです」
ルルシアちゃんのお菓子はお友達に評判良いのよ、と聞こえてきた。
ガラスケースの中の、お菓子の種類はだんだん増えてきている。日持ちのするのが多いけれど、最近ではケーキなど頼まれて作っている。
ルルシアは私と出会ったときから魔法を真面目に勉強していて、上級魔法まで習得してしまった。氷魔法は生ものを保存するのに、ちょうどいい……けれど。
上級魔法を使えれば、お城のお抱え魔法使いとして贅沢な暮らしを出来るし、貴族だったら王族と縁を結べるくらい貴重な才能なのだ。
人間でこれだけ魔法が使えれば一生、衣食住に困らない。
ある日、私はそのことをルルシアに伝えた。だけど……。
「貴族にお仕えしたり、王族と縁を結んだりするのは絶対にイヤ!」
ルルシアは「もうこの話はしないで!」と言われてしまった。まあ嫌ならいいけれど、他人に見つからないように気をつけねばならないのは大変だ。
「アルシュさん、傷薬をいただけないかね? 雑草を抜いていたら、切り傷だらけになってしまって」
よくケガをする、男性が傷薬を買いに来た。
「あら、手が傷だらけですね。せっけんできれいに洗ってから、傷薬をつけてくださいね」
私は傷薬を後ろの棚から取り出して、カウンターの上へ置いた。
「今度からは手袋をして、作業をするといいですよ」
「そうする。ありがとう!」
そう言って男性は傷薬を買っていった。
ポーションに比べて傷薬などの薬草は安く、日常的に使われている。ただ薬草やハーブなどは国から許可されなければ
しばらくしてお店にお客さんがいなくなった。お昼になる所だった。
「ん――! もうお昼ね! 休憩する?」
「そうね」
ルルシアは、
入口から外に出て、扉に『お昼休み』と書かれたプレートを下げた。
「お昼ご飯にしましょうか」
「うん」
今日のお昼ご飯はペンネ アラビアータと、ゆで卵とじゃがいもを乗せたサラダ。
簡単に作ってみた。
「美味しそう。お腹空いた……」
「そうね、お腹が空いたわね。お祈りをしましょうか」
食事前のお祈りをしてから食べる。
「ん! 美味しい!」
ルルシアは、好き嫌いなく食べてくれるから助かる。
「サラダにかけた、ドレッシングは作ったの?」
「そうよ。オリーブオイルと、塩と酢を混ぜて作るの。簡単よ」
「ふうん、そうなのね。今度作るね」と言った。気に入ったのか、ポケットからメモを取り出して材料を書いていた。
「美味しかった! ……そろそろお昼休みは終わりかしら?」
ルルシアは、ん――! と腕を伸ばした。時計を見ると、あと10分くらいでお昼休みが終わる所だった。
「そうね。午後も頑張りましょう」
お互い頷いて席を立った。片付けをしてからお店に戻った。
「あ、そうだ」
午後からの開店準備をルルシアとしていた。急にルルシアが、何かを思いついたように顔を上げた。
「なあに?」
私は棚へ売れた薬の補充などしていた。
「午後からケースに並べるゼリーの上に飾る、ミントを採ってくる」
「は――い」
裏庭に色々なハーブを育てている。お菓子の飾りなどにもなるのでいい。
ルルシアが、お店の中からプライベートへ続く扉を開いてハーブを採りにいった。私はその間に開店準備を終わらせた。
午後はそんなに忙しくないので、慌てて準備しなくてもいい。
「ミント、採ってきた」
ミントの葉を布に包んで片手に持ってきた。ミントのすっきりとした香りがした。
「ミントの香り、良いわね」
「ね!」
ルルシアはニコニコと笑って、新作ゼリーの上へミントの葉を飾った。
この間、試食で食べさせてもらった三色の層になったゼリー。一人用に作ってみせた。
「三色のゼリー、可愛いわね」
「でしょう? 一番上の、透明なゼリーの中のイチゴがポイントなの!」
透明なゼリーの中の、赤いイチゴが良い感じだ。
ルルシアはしゃがんで、ケースの中へゼリーを並べた。
「ねえ、そっちから見て変じゃない?」
私はケースの前まで行って、中の並び具合を確かめた。
「うん。大丈夫よ」
プルルン! と揺れる三色の層のゼリーは、見ただけでも美味しそうだった。