目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第23話 薬屋さんとお菓子屋さん

 私の薬屋さんで薬を受け取った後、ルルシアのお菓子を家族に買っていくお客様。反対にルルシアのお菓子屋さんでお菓子を買って、「そういえば風邪っぽいな」と言って私の薬屋さんで相談するお客さんが来る。


 同じ一室で二つのお店をやるのは、相乗効果でいい感じだった。

 「ルルシアちゃん。今日のお菓子のおすすめは、なんだい?」

 ルルシアの作るお菓子のファンがいるらしい。甘すぎず、ハーブやナッツ類やドライフルーツなど使っているから子供からお年寄りまで好評だ。


 「今日はアーモンドプードルクッキーがおすすめかな? サクッ、ほろっとして美味しいですよ!」

 ニコニコしてルルシアが説明しているのは、ご近所さんのおばあちゃん。

 孫とおばあちゃんみたいに仲がいい。おばあちゃんも、ルルシアのことが可愛いと思ってくれているようだ。


 「そうかい。じゃあそれをくださいな。お友達とお茶するの」

 「まあ! いいですね! 私のお菓子をお茶菓子にしていただけて、嬉しいです」

 ルルシアちゃんのお菓子はお友達に評判良いのよ、と聞こえてきた。


 ガラスケースの中の、お菓子の種類はだんだん増えてきている。日持ちのするのが多いけれど、最近ではケーキなど頼まれて作っている。


 ルルシアは私と出会ったときから魔法を真面目に勉強していて、上級魔法まで習得してしまった。氷魔法は生ものを保存するのに、ちょうどいい……けれど。


 上級魔法を使えれば、お城のお抱え魔法使いとして贅沢な暮らしを出来るし、貴族だったら王族と縁を結べるくらい貴重な才能なのだ。

 人間でこれだけ魔法が使えれば一生、衣食住に困らない。


 ある日、私はそのことをルルシアに伝えた。だけど……。

 「貴族にお仕えしたり、王族と縁を結んだりするのは絶対にイヤ!」

 ルルシアは「もうこの話はしないで!」と言われてしまった。まあ嫌ならいいけれど、他人に見つからないように気をつけねばならないのは大変だ。


 「アルシュさん、傷薬をいただけないかね? 雑草を抜いていたら、切り傷だらけになってしまって」

よくケガをする、男性が傷薬を買いに来た。

 「あら、手が傷だらけですね。せっけんできれいに洗ってから、傷薬をつけてくださいね」

 私は傷薬を後ろの棚から取り出して、カウンターの上へ置いた。

 「今度からは手袋をして、作業をするといいですよ」

 「そうする。ありがとう!」

そう言って男性は傷薬を買っていった。


 ポーションに比べて傷薬などの薬草は安く、日常的に使われている。ただ薬草やハーブなどは国から許可されなければ薬屋さんお店を開けない。私は旅で王都へ行ったときに資格を取得した。


 しばらくしてお店にお客さんがいなくなった。お昼になる所だった。

 「ん――! もうお昼ね! 休憩する?」

 「そうね」

 ルルシアは、をして私に声をかけた。


 入口から外に出て、扉に『お昼休み』と書かれたプレートを下げた。

 「お昼ご飯にしましょうか」

 「うん」


 今日のお昼ご飯はペンネ アラビアータと、ゆで卵とじゃがいもを乗せたサラダ。

 簡単に作ってみた。

 「美味しそう。お腹空いた……」

 「そうね、お腹が空いたわね。お祈りをしましょうか」


 食事前のお祈りをしてから食べる。

 「ん! 美味しい!」

 ルルシアは、好き嫌いなく食べてくれるから助かる。


 「サラダにかけた、ドレッシングは作ったの?」

 「そうよ。オリーブオイルと、塩と酢を混ぜて作るの。簡単よ」

 「ふうん、そうなのね。今度作るね」と言った。気に入ったのか、ポケットからメモを取り出して材料を書いていた。



 「美味しかった! ……そろそろお昼休みは終わりかしら?」

 ルルシアは、ん――! と腕を伸ばした。時計を見ると、あと10分くらいでお昼休みが終わる所だった。

 「そうね。午後も頑張りましょう」

 お互い頷いて席を立った。片付けをしてからお店に戻った。



 「あ、そうだ」

 午後からの開店準備をルルシアとしていた。急にルルシアが、何かを思いついたように顔を上げた。

 「なあに?」

 私は棚へ売れた薬の補充などしていた。


 「午後からケースに並べるゼリーの上に飾る、ミントを採ってくる」

 「は――い」


 裏庭に色々なハーブを育てている。お菓子の飾りなどにもなるのでいい。


 ルルシアが、お店の中からプライベートへ続く扉を開いてハーブを採りにいった。私はその間に開店準備を終わらせた。

 午後はそんなに忙しくないので、慌てて準備しなくてもいい。


 「ミント、採ってきた」

 ミントの葉を布に包んで片手に持ってきた。ミントのすっきりとした香りがした。

 「ミントの香り、良いわね」

 「ね!」


 ルルシアはニコニコと笑って、新作ゼリーの上へミントの葉を飾った。

この間、試食で食べさせてもらった三色の層になったゼリー。一人用に作ってみせた。

 「三色のゼリー、可愛いわね」

 「でしょう? 一番上の、透明なゼリーの中のイチゴがポイントなの!」

 透明なゼリーの中の、赤いイチゴが良い感じだ。


 ルルシアはしゃがんで、ケースの中へゼリーを並べた。

 「ねえ、そっちから見て変じゃない?」

 私はケースの前まで行って、中の並び具合を確かめた。

 「うん。大丈夫よ」


 プルルン! と揺れる三色の層のゼリーは、見ただけでも美味しそうだった。
























この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?