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第24話 冒険者たちが初来店

 「こんにちは――っす!」

 野太い声とともに、お店のドアから冒険者風の人達が入ってきた。あれはギルドにいた人たちなのだろうか? もしかして冷やかし、か……、嫌がらせに来たのだろうかと身構えてしまった。


 鍛えた男たちの中にいた弓を持った少年が、カウンターの中にいた私を見つけて近づいてきた。

 「こんにちは! さきほどギルドでいただいたクッキーが美味しくて、買いに来ちゃいました!」

 ニカッ! と笑う少年は冷やかしでも、嫌がらせに来たわけでもなさそうだった。


 「いらっしゃいませ! ありがとうございます。お菓子屋さんは隣になります」

 私は手のひらを、ルルシアのいるお菓子屋さんへ向けた。

 「わあ! 美味しそうなお菓子がいっぱいある!」

 嬉しそうにその少年は、ルルシアの方へ駆け寄っていった。


 「あのう……」

 遠慮がちに私に尋ねてきたのは、ムキムキの筋肉で上半身にトゲの装飾をつけているお兄さんだった。

 「はい、何でしょうか?」

 言いにくいのかモジモジしていた。そういう時はこちらから話せるきっかけをつくってみる。

 「私にわかることでしたら、何でも相談いたしますよ」

 そのための薬屋だ。


 「そ、そうか? 助かる! ……実は嫁が、眠れないらしくて。もともと気が弱いんだが、結婚したばかりで環境が変わって慣れてないのが原因と思う。何とか落ち着いて、眠れるようになって欲しいと思って、ここへ来てみた」

 人は見かけによるものじゃないと思った。奥さん思いの良い旦那さんだった。

 「リラックスできるように、ハーブなどいかかでしょうか?」

 「ハ、ハーブ? 俺はそんなの詳しくなくて!」


 「大丈夫ですよ。奥様は、苦手な植物や食べ物とかありますか?」

 私はお客さんの名前と奥様の名前を書いてもらって、それぞれ詳しく聞いた。


 私の所で薬やハーブを買ってくれたお客様には、名前や苦手なもの、体の調子などを書いてもらっている。買っていただいた物、その後の調子などを記録している。

 人によって体調や体質が違うため、記録してその人の体質&体調に合ったものを渡す。それが薬屋だ。


 「特に苦手なものや、食べられないものはないな」

 「ではリラックスして眠れるように、お風呂に入れて香りを楽しむハーブの入浴剤をブレンドしますね」

 私は小さな布袋にラベンダーその他のハーブなど、ブレンドして入浴剤をつくった。


 「これをバスに入れて、ゆっくりお湯へ浸かって下さい。良い香りがしますので、リラックスできると思います」

 「おお! ありがたい!」

 その男の人はゲインズと言った。奥さん思いの良い人だ。

 「苦手だったり湿疹など出たり、あまり効果がないようでしたらおっしゃってくださいね」


 「さっそく試してみるよ! ありがとう!」

 ゲインズさんは受けとるとお金を払って、お店を急ぎ足で出ていった。

「アイツ、新婚だからなあ……。でも良かった」

 一緒に来た冒険者の一人が、私に話しかけた。ゲインズさんの買ったものを記録していたが顔を上げた。


 「ちゃんと、厳つい俺らの話を聞いてくれて。他の大きな薬屋へ店に入っただけで『出ていってくれ」って言われたことがあったし……」

 冒険者のこの人たちに、そんなことが。

 「低級冒険者には、金がないだろうって。ムカついた」


 確かにポーションなどは高い。けれどお店に入っただけで、出ていけなんてひどい。

「うちのお店は低価格で高品質のものをそろえていますので、遠慮なくお店に来てくださいね」

 貴族相手なら高くてもいい。高いほうが、貴重価値が上がる。だけど庶民は違う。私は貴族相手より、庶民の味方でいたい。


「それは嬉しいな。昨日、魔物と戦ったときにぶつけたとこが痛くて。打ち身薬、あるかい?」

 男が右足を見せると、ぶつけたと言うところが青あざになっていた。

 「打ち身薬湿布をお出ししますね」

 エルフから伝わったという湿布は、だいぶ人間の世界でも拡がった。こうして私が堂々と出せるのはありがたい。


 「痛くて、な。これで痛みが引くといいけれど」

 「何日か、痛みがなくなるまで貼り付けてください。足りないようでしたら、また来てくださいね」

 ガーゼに薬草を潰したものを塗って、患部に貼り付けて包帯で取れないようにする。説明するとちゃんと聞いてくれた。

 「ありがとう。帰ったら貼ってみる」

 その人は痛い足を庇ってお店から出ていった。


 何人かの冒険者に症状を聞いてお薬を渡した。お医者さんへの連絡が必要な、重症のお客さんはいなかった。


 そういえばルルシアは大丈夫かしら。こちらが忙しくて気にしてあげられなかった。そっとルルシアの方へ視線を動かした。

毎日来てくれる常連のご近所さんに混ざって、厳つい冒険者さん達がお菓子のケースの中をジッと見ていた。

 「こんなに可愛くて美味しそうなお菓子って、あるのだなあ……」

 「そうだな……」


 ご近所の方達は、厳つい冒険者さん達の話し声を聞いて目をパチパチとしていた。

常連さん達は、そのお菓子をジッと見ていた冒険者さん達を見て、首を傾げながら先にお菓子を選んで帰っていった。

 明日にはたぶん噂になっているだろう。


 「おい、姉ちゃん!」

 厳つい男がルルシアに声をかけた。ルルシアはビクッとして怯えた顔をしていた。いけない、ここは私がビシッと言わなければ。


 「姉ちゃんじゃ、ありません! 『店員さん」と言いなさい! あと、『おい』じゃなく『すみません」と言いましょう!」

 私は腕組みして、冒険者たちに言ってやった。


 気が付くと、お店中のお客さんがポカン……と私を見ていた。











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