「あ……」
しまった。きつく言いすぎたかしら? 私は無言のまま皆を見ていた。
「ア――、ハハハハハハッ! すまなかった!」
冒険者の一人が、こらえきれず笑って謝ってきた。
「すまねえ! 普段、荒くれ者が多い冒険者たちと過ごしているから、つい!」
「だからモテないのだろう? 気をつけろよ、皆!」
ルルシアは後ろの壁に背をつけて、固まっていた。冒険者たちの陽気な話声に圧倒されているのか、私の威勢の良い声に驚いているのかわからない。
「厳つい俺たちに、ハッキリと注意できるのはアンナ姉さんと、薬屋さんのアルシュさんだけだな!」
「だな――!」
冒険者さん達はお互い頷いていた。アンナ姉さんってギルドで出会った方かしら? 光栄だけど……。
「すまなかったな。ええと、店員さん……」
冒険者の一人がルルシアへ話しかけた。私は二人を見守った。
「えっと……。私の名はルルシアです」
両手を胸の前でギュッと掴んで、厳つい冒険者に名乗った。
「ルルシアちゃん!? よろしく!」「よろしく!」
わらわらと冒険者たちは、ルルシアの前に群がった。
「コホン! お買い求めになるならば、お一人ずつ並んで注文なさって下さい」
私は厳つい冒険者たちに注意した。私はルルシアを守るため、厳つい冒険者にだってはっきりと言う。
「は――い」
「わかりましたぁ――!」「出禁になったら嫌だ」
意外と素直に従ってくれた。良かった。
「……何に、なさいますか?」
少し怯えながら、厳つい冒険者に話しかけた。私はそれを見て、『ルルシア偉い!』と心の中で叫んだ。
「ええと、このお菓子はどんなものなんだ?」
「それはですね……」
しばらくルルシアと、厳つい冒険者さんたちのやり取りを見ていたけれど、特にもめ事もなくたくさん買っていってくれたようだった。
「冒険者さん達、たくさん買っていってくれた……」
夕方になって、お店を閉める時間になった。お客さんもいなくなって片付けを始めていた。ルルシアのお菓子ケースを見てみると、ほとんどが売れて無くなっていた。
「良かったわね」
「うん」
見かけは厳ついけれど、この町のギルドの冒険者さん達は話せばいい人達みたいだ。ギルマスのダガンさんとアンナさんの存在が大きい。
「……ちょっと怖かったの」
ルルシアがケースを掃除しながら話しかけてきた。そういえばルルシアは、初めて会ったとき酷い状態だった。厳つい人達を見て、何かを思い出してしまったのだろうか?
「でもアルシュもいたし安心していたよ。頑張って冒険者さん達は話してみたら、大丈夫だった」
ちょっと無理やり笑っている感じだった。
「私がすぐそばにいるから。無理なときは言ってね?」
ルルシアへ顔を向けて言うと、みるみる笑顔になった。
「うん!」
年の割に大人びている所と幼い所があるルルシア。正確な年齢はわからないけれど、たぶん15、6歳位の人間の女の子だと思う。あの時のことを未だに話してはくれないけれど、思春期になる子が思い出すにはつらいことだろう。
私が支えなくては……と思っている。
「アルシュ、ありがとう」
「ん?」
考え込んでいたので、ルルシアがなんて話しかけたのかわからなかった。
「なんでもない」
ニコッと微笑んで、また掃除をやり始めた。
「あっ! 薬草が足りないかもしれない」
私も棚のお掃除をしていたら明日使う薬草が、足りないことに気が付いた。
「え? どうするの?」
森にあったはず。まだ夕方だから日は落ちてない。今から行けば間に合う。
「採ってくるわ」
私はカゴを持ってお店を出ようとした。
「待って、アルシュ! もうじき日が落ちるわ。日が昇った、早朝に行くのじゃダメなの?」
ルルシアが心配そうに話しかけてきた。確かに日が落ちると魔物が活動する時間になる。けれど私は大丈夫だ。
「すぐ戻って来るわ」
そう言ってお店を出てきた。ルルシアの呼ぶ声が聞こえたけれど、すぐに薬草を採って戻ってくればいい。
急ぎ足で私は少し離れた森へ向かった。
その森は広く奥まで入ったら出られないと言われている【迷いの森】だ。わざわざ人が入らない。通り道は一応あるのだけれど、魔物が出るのでよっぽど訓練した者しか通らない。
私が幼い頃エルフの村から逃げてきて、森を
人間がエルフの村へ入って来られないように、迷いのまじないをしていたはずだった。それがどうしてか、まじないは破られてしまった。なぜかはわからない。ただエルフの村は、滅ばされてしまった。
私が再び、まじないを施して入れないようにした。辛くて村の近くまでしか行ってない。きっと酷い状態だろう。それを私は、見る勇気はない。
ここに来ると辛いことを思い出してしまうけれど、ここにしかない薬草がたくさんあるので入り口近くまで薬草を採りに来ている。
「あったわ」
カゴに入れていた園芸用のスコップを取り出して、丁寧に薬草の根っこを傷つけないように掘った。
「よいしょ……と」
ポコッと根っこが抜けた。カゴに園芸用のスコップと、丁寧に土を払って薬草を袋に入れた。
「良かった、すぐに見つかって」
穴が空いた場所に土を戻して埋めた。カゴを持ってそこから立ち去ろうとした。
「アルシュ!」
「ルルシア!?」
呼ばれた相手はルルシア。ルルシアが私を追いかけて、ここまで来てしまったようだ。
「心配になって、お店を閉めて迎えに来たの」
「ルルシア……」
女の子が一人で危ない。叱ろうとしたけれど、私が出てきてしまったのがいけない。
「大丈夫だけど……、私が悪いわね。帰りましょうか」
「ええ!」
ルルシアと私も幼いころに、辛い目に合っている。それは、消えることはないけれど、こうして二人で寄り添っていければいい。
「……夜ご飯は、何を食べましょうか?」
私は二人で腕を組んで歩いている途中に、わざと明るくルルシアに話しかけた。
「え? う――ん、とね……」
だんだん暗くなっていき、家に着くころには夜になった。空の、夕焼けから夜へのグラデーションがきれいだった。
「あ、星が見えてきた」
ルルシアが指をさして、私に教えてくれた。あの星はなんて名前の星だったか。教えてもらった遠い昔の記憶を思い出した。