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第26話 ルルシア、お友達ができる


 「ねえ、ルルシア。身を守る魔法を教えてあげる」


 私はルルシアに、『身を守る魔法』を教えてあげることにした。これから私がギルドへ納品に出かけたり、ルルシアも町の人との交流があったりする。二人でいられないときが増えてくるので、一人でも大丈夫なように自信をつけてあげたい。


  「身を守る魔法?」

 ルルシアは、マドレーヌを作りながら私に返事をした。オーブンに入れてこれから焼くところだった。

 町の一般的な女性の服装、ブラウスとスカートの上に私が作ったフリルのエプロンを着けている。とても似合っているので満足している。頭にはバンダナを巻いて、両手にはオーブンミトン。キッチンはお菓子の良い香りがしている。


 「そうよ。何かあったらルルシアは、とっさに強力な魔法を使ってしまいそうだし……。加減はできるようになったから、有効的なもの攻撃・防護魔法を教えてあげる」

 気絶する程度の、攻撃魔法。ルルシアは可愛いから、きっと色々な人が好意を向けてくる。中には、よからぬ考えの者も近づいてくる。そんな時は攻撃魔法で……。

「アルシュ、なんだか楽しそうね!」

 「えっ? そうかしら? ……うん。ルルシアに魔法を教えるのは楽しいわよ」

 ふふっ! 二人で微笑んだ。


 ルルシアはオーブンでマドレーヌを焼き始めた。焼き時間は十分程度。そんなに時間がかからないので、すぐに出来上がるだろう。

 「マドレーヌが出来たら、試食してもいいかしら?」

 お客さんよりも、一番初めにルルシアが作ったものは私が食べたい。

 「もちろん!」

 ニコニコと微笑んでいるルルシアは可愛い。


 「いつ、魔法の練習をするの?」

 キッチンに窓から朝の光がまぶしい。今は二人とも髪の毛の色を変えてないので、ルルシアの金の髪が光っていてきれい。私だけの特権だ。

 「そうね……。お店が終わった後にしましょうか」

 ハーブティーを飲みながら私はルルシアに答えた。フルーツティーが美味しい。


  開店するとたくさんのお客様が来てくれた。馴染みの近所に住んでいるお客さんから、初めて来てくれたと思うお客様まで。

 「昨日、腰を痛めて……」

 子供の多いお母さんが、腰に手を当てて痛そうに話しかけてきた。

 「辛そうですね。湿布薬を痛い場所に貼ると楽になりますよ」

 私は湿布薬をカウンターの上へ置いて説明をした。

 「ああ、ありがとう。アルシュさん」

 湿布薬を受け取って返っていくお客様の痛みが和らぐといいなと、思った。


 ルルシアの方を見てみると、そちらもお客さんがたくさん並んでいて大変そうだった。でも丁寧に接客をしていて、みんな笑顔で順番を待っていた。

 「お待たせしました」

 若い男性がルルシアから会計済みのお菓子を受け取るとき、手を重ねてから品物を受け取っていた。

 「ありがとう!」

 「……っ!」


 何もない風にしていたけれど、あれはわざと、だわ。知らないふりをして帰ったけれど、顔を覚えておきましょう。ルルシアを見るとやっぱり固まっていた。

 「ルルシア……」


  「見たわよ! ルルシアちゃん、大丈夫!?」「私も見た! あいつ知っている! あとで兄さんに言って注意してもらうから!」

 声をかけようとしたら、同じくらいの町の女の子にルルシアは話しかけられた。

 「う、うん」

 固まっていたルルシアだったけれど、同じくらいの女の子たちと話しているうちに落ち着いたみたいだった。

 「許せないわ! 私達が守るからね? ルルシアちゃん!」

 「そうよ! 何人かの女の子、あの人に声をかけられているみたいだから気をつけようね!」


 「「ね!」」

 二人の女の子が、ルルシアに気をつけようといってくれた。

 「……ありがとう」

 ホッとしているルルシア。良かった。


 「あの、私達とお友達にならない? 前から言いたかったの!」

 「私も!」

 ルルシアにお友達が出来そうだった。私はにこやかに見守っていた。


 「いいの……?」

 初めてのお友達に戸惑っているみたいだけど、嬉しそう。

 「「もちろん!」」


 「じゃあ、よろしくお願いします」

 「「やった! よろしく!」」

 ルルシアに初めてのお友達が出来た。店内にいたお客さん達も、ほほえましくルルシアとお友達を見守っていた。


 同じ年頃の、女の子の友達は必要だ。これから色々なことが起こる。楽しいことも、悲しいことも。それを一緒に、分かち合える友達がいるというのは心強い。むしろルルシアにお友達ができるのは遅いくらいだった。


 「今度、お祭りがあるの。一緒に行かない?」

 「あ、そうそう! 一緒に行きましょう!」

 お友達に言われて、ルルシアは私の方を見た。行っていいか、私の確認が欲しいのだろう。

 「行ってらっしゃい」

 微笑んでルルシアに伝えた。

 「ありがとう、アルシュ!」

 お友達も、ルルシアも手を握って喜んでいた。




 「お友達ができちゃった……」

 閉店時間になって片付けをしていた時に、ルルシアは嬉しそうに私に話してくれた。

 「良かったわね」

 「うん……」


 嬉しそうなルルシアの横顔を見て、少し複雑な気持ちになった。

 「?」

 それはなにか、よく分からなかった。
















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