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第27話 ルルシアは魔法を教えてもらう


 「では。身を守る魔法を教えます」

 コホン! と咳払いをしてルルシアへ話しかけた。


 ここはお店がある自宅から離れた森の中。町の人は誰も来ない場所で魔法を教えることに決めた。私達とわからないように、髪の毛の色はもとに戻した。金色のルルシアのきれいな髪の毛が、ふわりと風に揺れてとてもいい。


 「よろしくお願いします!」

 ルルシアは気合いが入っていた。やる気があってよろしい。


 「ええっと。基本的な魔法は教えていたはずだから……。私がやって見せるから真似をしてね?」

 「うん」

 もう日が暮れて辺りは真っ暗だ。ほんの少し、光の魔法で自分たちの周りを明るくしている。


 森は広いはずだけど最小限の明かりだけ。その明かりの場所だけと、錯覚してしまいそうだった。暗闇はカーテン。子供の頃からそう言われていた。


 「『サンダー』!」

 片手を上にあげて雷を作り出した。ビリ! ビリ! と上空へ稲光がジグザグに登っていった。

 「ルルシア、見ていて」

 雷の魔法を上空まで出したまま、魔力をコントロールした。


 上空まであった雷が、徐々に小さくなっていって私の手にまとわりついた。

 「えっ!? 痛くないの!?」

 もっと魔力をコントロールして、指先だけに雷が集まった。ルルシアは私を心配してじっと見ていた。

 「痛くないわよ。魔力を体に鎧のようにまとえば、魔法も効かない」


 ルルシアは「へえ――! すごい!」と私を褒めていた。

 「ルルシアもできるようにするのよ」

 一瞬。え? と、いうような顔をしたけれど顔を引き締めて私に頷いた。


 「まずは『サンダー』の魔法を唱えて。できる?」

 「うん」

 ルルシアは胸の前で手を握り、目を閉じた。そして雷を呼び出す呪文を唱えた。

 「『雷鳴の光り……、私は……』」


 「雷よ! 私の元へ!」

 バッと腕を掲げた。ビリビリ、ビリ、ビリリ……! 

 「きゃっ!」

 ルルシアの周りが一瞬明るくなって、雷が落ちたのかと思った。それだけ強力なサンダーの魔法だった。


 「これでいい?」

 「え、ええ……」

 私より強力なサンダーの魔法。手加減したとはいえ、ルルシアの魔力の多さは変わってない。


 雷の魔法のせいで、ルルシアの髪の毛は電気を帯びてふわりと広がっている。

 「雷を維持したまま、魔力をコントロールして小さくしてみて」

 「わかった」

 子供の頃から基本的な魔法を教えてはきたけれど、応用的なものはまだだった。まずは魔力をコントロールする技を覚えてからだ。


 「う――ん!」

 ルルシアは、体に力を入れてコントロールしようとしていた。それではうまくコントロールできない。

 「ルルシア。体に力を入れていては、コントロールはできないわ。流れる水をイメージして、徐々に少なくなっていくイメージをしてごらんなさい」

 魔法はイメージ力が大切。


  「流れる水……」

 自分の腕から上空にビリビリと光る雷を、ルルシアは顔を上げて見た。

 「徐々に少なくなっていく、イメージ」

 私の言った言葉を何回か繰り返し、呟いた。

 「少なく……、少なくなっていく……」


 うん、いい感じだわ。何回か繰り返して呟きながら、ルルシアの作り出した雷は小さくなっていった。そして人差し指の先に、ピカピカと光る雷を維持させることが出来た。

 「やったわ! それでいいのよ、ルルシア!」

 「アルシュ! できた!」

 人差し指の先に光る雷。すぐにできたルルシアは天才かもしれない。


 「小さな雷それを手のひらへまとわせることが出来るかしら? こういう風に」

 私は手のひら側にだけ、威力の弱い雷をまとわせた。それをルルシアに見せた。

 「これが出来れば襲ってきた人、敵……は、いないけれど油断させてビリッ! と気絶させられるわ。ただし、本当に危ない時だけよ」

 そんなときが来ないことを祈る……けれど、覚えていて損はない。自分を守るために。


 「……もっと威力を抑えて、今日みたいにいきなり手を握られたりしたら、使っていい?」

 ルルシアは今日、いきなり知らない男性に勝手に手を握られたことを言った。

 「そうね。手を離すくらい、痛い目に合ってもいいかも」

 私は手を、パッと放すようなしぐさをした。


 「うん。今度から、そうする。大人しく触られたくないもん」

 ルルシアはビリッ! と雷の威力を強めた。

 「あっ! その強さはダメよ! 気絶どころじゃなくなるわ!」

 私が慌ててルルシアに注意すると、笑った。

 「ふふっ! うん! ちゃんとコントロールする!」


 「コントロールできたわね。これは他の魔法にも使えるものなので忘れないで覚えてね」

 「ありがとう、アルシュ」

 ルルシアが私に、ムギュッ! と抱きついてきた。ちょっと寒くなってきたので、ストールをルルシアの肩に被せてあげた。

 「帰りましょうか……」



 二人でくっついていると暖かい。抱き合ったまま、しばらくそのままでいた。


 「……本当はね、とても嫌だったの。急に触れられて、怖かった」

 やはり怖かったようだ。……それはそうだ。いきなり知らない人に触られるのなんて恐怖心を持つし、知っている人でもよほど気の許せる人じゃなきゃ嫌だ。同性でも異性でも。

 「そうよね、怖かったでしょう。大丈夫?」

 「うん……」

 私の胸に顔を埋めているので、表情はわからない。けれどこうして、嫌なことを自分以外の人に言えることは大事だ。


 「お友達にも『大丈夫?』と聞かれて嬉しかった」

 同じくらいのお友達に共感してもらって良かった。私は安堵した。この子は私以外にも、仲間は必要だ。友達が出来たことでまたルルシアの世界が広がるだろう。

 「そう。良かったわね……」


 私とルルシアは、ストールを二人で一緒に被って微笑みながら帰った。


















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