「では。身を守る魔法を教えます」
コホン! と咳払いをしてルルシアへ話しかけた。
ここはお店がある自宅から離れた森の中。町の人は誰も来ない場所で魔法を教えることに決めた。私達とわからないように、髪の毛の色はもとに戻した。金色のルルシアのきれいな髪の毛が、ふわりと風に揺れてとてもいい。
「よろしくお願いします!」
ルルシアは気合いが入っていた。やる気があってよろしい。
「ええっと。基本的な魔法は教えていたはずだから……。私がやって見せるから真似をしてね?」
「うん」
もう日が暮れて辺りは真っ暗だ。ほんの少し、光の魔法で自分たちの周りを明るくしている。
森は広いはずだけど最小限の明かりだけ。その明かりの場所だけと、錯覚してしまいそうだった。暗闇はカーテン。子供の頃からそう言われていた。
「『
片手を上にあげて雷を作り出した。ビリ! ビリ! と上空へ稲光がジグザグに登っていった。
「ルルシア、見ていて」
雷の魔法を上空まで出したまま、魔力をコントロールした。
上空まであった雷が、徐々に小さくなっていって私の手にまとわりついた。
「えっ!? 痛くないの!?」
もっと魔力をコントロールして、指先だけに雷が集まった。ルルシアは私を心配してじっと見ていた。
「痛くないわよ。魔力を体に鎧のようにまとえば、魔法も効かない」
ルルシアは「へえ――! すごい!」と私を褒めていた。
「
一瞬。え? と、いうような顔をしたけれど顔を引き締めて私に頷いた。
「まずは『
「うん」
ルルシアは胸の前で手を握り、目を閉じた。そして雷を呼び出す呪文を唱えた。
「『雷鳴の光り……、私は……』」
「雷よ! 私の元へ!」
バッと腕を掲げた。ビリビリ、ビリ、ビリリ……!
「きゃっ!」
ルルシアの周りが一瞬明るくなって、雷が落ちたのかと思った。それだけ強力な
「これでいい?」
「え、ええ……」
私より強力な
雷の魔法のせいで、ルルシアの髪の毛は電気を帯びてふわりと広がっている。
「雷を維持したまま、魔力をコントロールして小さくしてみて」
「わかった」
子供の頃から基本的な魔法を教えてはきたけれど、応用的なものはまだだった。まずは魔力をコントロールする技を覚えてからだ。
「う――ん!」
ルルシアは、体に力を入れてコントロールしようとしていた。それではうまくコントロールできない。
「ルルシア。体に力を入れていては、コントロールはできないわ。流れる水をイメージして、徐々に少なくなっていくイメージをしてごらんなさい」
魔法はイメージ力が大切。
「流れる水……」
自分の腕から上空にビリビリと光る雷を、ルルシアは顔を上げて見た。
「徐々に少なくなっていく、イメージ」
私の言った言葉を何回か繰り返し、呟いた。
「少なく……、少なくなっていく……」
うん、いい感じだわ。何回か繰り返して呟きながら、ルルシアの作り出した雷は小さくなっていった。そして人差し指の先に、ピカピカと光る雷を維持させることが出来た。
「やったわ! それでいいのよ、ルルシア!」
「アルシュ! できた!」
人差し指の先に光る雷。すぐにできたルルシアは天才かもしれない。
「
私は手のひら側にだけ、威力の弱い雷をまとわせた。それをルルシアに見せた。
「これが出来れば襲ってきた人、敵……は、いないけれど油断させてビリッ! と気絶させられるわ。ただし、本当に危ない時だけよ」
そんなときが来ないことを祈る……けれど、覚えていて損はない。自分を守るために。
「……もっと威力を抑えて、今日みたいにいきなり手を握られたりしたら、使っていい?」
ルルシアは今日、いきなり知らない男性に勝手に手を握られたことを言った。
「そうね。手を離すくらい、痛い目に合ってもいいかも」
私は手を、パッと放すようなしぐさをした。
「うん。今度から、そうする。大人しく触られたくないもん」
ルルシアはビリッ! と雷の威力を強めた。
「あっ! その強さはダメよ! 気絶どころじゃなくなるわ!」
私が慌ててルルシアに注意すると、笑った。
「ふふっ! うん! ちゃんとコントロールする!」
「コントロールできたわね。これは他の魔法にも使えるものなので忘れないで覚えてね」
「ありがとう、アルシュ」
ルルシアが私に、ムギュッ! と抱きついてきた。ちょっと寒くなってきたので、ストールをルルシアの肩に被せてあげた。
「帰りましょうか……」
二人でくっついていると暖かい。抱き合ったまま、しばらくそのままでいた。
「……本当はね、とても嫌だったの。急に触れられて、怖かった」
やはり怖かったようだ。……それはそうだ。いきなり知らない人に触られるのなんて恐怖心を持つし、知っている人でもよほど気の許せる人じゃなきゃ嫌だ。同性でも異性でも。
「そうよね、怖かったでしょう。大丈夫?」
「うん……」
私の胸に顔を埋めているので、表情はわからない。けれどこうして、嫌なことを自分以外の人に言えることは大事だ。
「お友達にも『大丈夫?』と聞かれて嬉しかった」
同じくらいのお友達に共感してもらって良かった。私は安堵した。この子は私以外にも、仲間は必要だ。友達が出来たことでまたルルシアの世界が広がるだろう。
「そう。良かったわね……」
私とルルシアは、ストールを二人で一緒に被って微笑みながら帰った。