「晴れたね」
昨日の夜は激しい雨が降っていた。地面は雨のせいでドロドロになっているけれど、この日差しならすぐに乾くだろう。
「夜は激しい雨だったけど、今日は晴れになりそうね。ルルシア」
お店の開店準備をルルシアと始めていた。お店の周りのお掃除をしたり、ハーブや野菜の手入れをしたりと動いていた。だんだん気温が暖かくなってきたので、草花が芽吹いてきた。私はハーブティー用のハーブを摘んでいた。
「さてと……」
ギルドの注文品を作らなければならない。ルルシアは、あまりギルドと関わって欲しくないみたいだけど……。
「アルシュ! ちょっと来て」
ルルシアがいるキッチンから呼ばれた。どうしたのだろう? 私は摘み取ったハーブをかごに入れてキッチンへ向かった。
裏庭からプライベートの方の入り口に入ってキッチンへ。いい香りがする。
「あっ! アルシュ、ごめんね。お友達に頼まれたバースデーケーキを作ってみたのだけれど、どうかしら?」
お友達のバースデーケーキ! それは見てみたい! 私はテーブルにカゴを置いて、ルルシアが作ったバースデーケーキを見せてもらった。
イチゴをたくさん使って並べて生クリームでフリルのように飾って、あまりこの辺では見ないような可愛いケーキが出来上がっていた。
「じょうずね……! これならお友達も喜んでくれるわよ!」
可愛いけれど、ただ可愛いだけじゃなく
「アルシュがそう言うなら大丈夫かな? けっこう頑張ったの」
えへへ……とルルシアは照れ笑いをした。私より早く起きて、一生懸命に作っていたものね。
「楽しみね」
「うん」
開店時間になってお客様がいらっしゃった。 午前中は常連のお客様が多い感じ。いつもの湿布薬、傷薬、頭痛薬のようなものが望まれる。ギルドへの納品は明日なので、お客様が途切れた時に作っている。
「ルルシアさん! こんにちは!」
「「こんにちは――!」」
お友達になった女の子の三人組が来店した。ルルシアは微笑んでお友達を迎えていた。
「いらっしゃいませ」
朝から予約品として飾っていたバースデーケーキは、他のお客様の目にとまっていた。今度のバースデーは、ルルシアの作ったバースデーケーキを「予約するわ!」という声がたくさんあった。
「えっ? もしかして……この可愛くて大人っぽいケーキが、私の頼んでいたバースデーケーキなの?」
「わあ――! 可愛い!」「えー、いいなあ! 私のバースデーの時に予約したい!」
女の子たちはルルシアの作ったバースデーケーキを気にいってくれたようだ。
「ルルシアさん。急で悪いけれど、今日の夜に私の家でバースデーパーティーを開くことにしたの。来てくれないかな?」
一人の女の子が、誕生日らしい。ルルシアは初めて誘われて慌てていた。
「えっ、いいのかしら?」
「もちろんよ! 大歓迎! あ、でもそんなに広くない家なので、普段着で楽しくやるつもりだから気兼ねなく来てくださいね」
カウンター越しに女の子四人で、仲良くお話をしている。微笑ましい。
ルルシアはチラッとこちらを見た。私はもちろん反対なんかしないので、にこっ、と笑って頷いた。
「では……、お伺いしますね!」
ルルシアが返事をすると黄色い声が聞こえた。
「わあ! 楽しみ!」
「私だけで、楽しくやりましょう!」「楽しみ――!」
四人で何かを話しているようだ。声を少し低くし相談をしているようで、私の所まで聞こえなかった。
「じゃあね! あとで迎えに来るから!」
「またね!」
「あとでね――! ルルシアさん!」
三人は注文のバースデーケーキをルルシアから買ってお店から出ていった。ルルシアは小さく手を振って、お友達を見送っていた。
誕生会なら……、必要な物もあるのでは? と私は思った。私の方のお客様が帰ったのでルルシアの方へ近づいた。
「あ、アルシュ。今日の夜、お誕生日会に呼ばれたから行ってくるわね」
ルルシアはニコニコと笑っていた。
「ルルシア。お誕生日会なら、プレゼントを渡さないといけないのを忘れてない?」
私とルルシアの誕生日にお祝いして、お互いにプレゼントを渡している。でもお友達のプレゼントを用意している様子がなかった。
「あっ……!」
やっぱり……。バースデーケーキはお友達が注文したから作って持っていけないし、どうしようかしら。
「どうしよう、アルシュ! 私、パーティーをやるなんて聞いてなかったから……」
お友達も絶対にプレゼントをもらいたいって感じじゃなくて、パーティーを皆で楽しみたいという感じだったから、持っていかなくても大丈夫そうだけど、でも……。
「町へ買いに行きましょう!」
私とルルシアは、お店を午後から臨時のお休みにして町へバースデープレゼントを買いにやって来た。
「ごめんね、アルシュ。お仕事があったのに……」
ルルシアは八の字の眉になった。
「いいのよ。どんなのがいいかしらね……?」
人間の女の子の好みや流行があまりわからないので、ルルシアに選んでもらう。同じくらいの年齢の子だから選びやすいだろう。
もし悩んだり決められなかったりしたら、花束を渡せば間違いないでしょう。でもそれは最終的に選ぶとして取っておく。
「まだお友達になったばかりだから好みとかわからないけれど、自分の好きなものを送ってもいいよね?」
ルルシアは私に相談をしてきたので頷いた。
「普段使えるものか、自分であまり買わないものをプレゼントするか悩む……」
ルルシアは悩んでいたけれど、お友達のプレゼントを選ぶために悩むなんて成長したのね……と、思った。