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第33話 お友達のバースデーパーティー


  「晴れたね」

 昨日の夜は激しい雨が降っていた。地面は雨のせいでドロドロになっているけれど、この日差しならすぐに乾くだろう。

 「夜は激しい雨だったけど、今日は晴れになりそうね。ルルシア」


 お店の開店準備をルルシアと始めていた。お店の周りのお掃除をしたり、ハーブや野菜の手入れをしたりと動いていた。だんだん気温が暖かくなってきたので、草花が芽吹いてきた。私はハーブティー用のハーブを摘んでいた。


 「さてと……」

 ギルドの注文品を作らなければならない。ルルシアは、あまりギルドと関わって欲しくないみたいだけど……。

 「アルシュ! ちょっと来て」

 ルルシアがいるキッチンから呼ばれた。どうしたのだろう? 私は摘み取ったハーブをかごに入れてキッチンへ向かった。


  裏庭からプライベートの方の入り口に入ってキッチンへ。いい香りがする。

 「あっ! アルシュ、ごめんね。お友達に頼まれたバースデーケーキを作ってみたのだけれど、どうかしら?」

 お友達のバースデーケーキ! それは見てみたい! 私はテーブルにカゴを置いて、ルルシアが作ったバースデーケーキを見せてもらった。


  イチゴをたくさん使って並べて生クリームでフリルのように飾って、あまりこの辺では見ないような可愛いケーキが出来上がっていた。

 「じょうずね……! これならお友達も喜んでくれるわよ!」

 可愛いけれど、ただ可愛いだけじゃなくアラザン銀色の粒を飾って少し大人っぽさも演出している。


 「アルシュがそう言うなら大丈夫かな? けっこう頑張ったの」

 えへへ……とルルシアは照れ笑いをした。私より早く起きて、一生懸命に作っていたものね。

 「楽しみね」

 「うん」


 開店時間になってお客様がいらっしゃった。 午前中は常連のお客様が多い感じ。いつもの湿布薬、傷薬、頭痛薬のようなものが望まれる。ギルドへの納品は明日なので、お客様が途切れた時に作っている。


 「ルルシアさん! こんにちは!」

 「「こんにちは――!」」

 お友達になった女の子の三人組が来店した。ルルシアは微笑んでお友達を迎えていた。

 「いらっしゃいませ」


 朝から予約品として飾っていたバースデーケーキは、他のお客様の目にとまっていた。今度のバースデーは、ルルシアの作ったバースデーケーキを「予約するわ!」という声がたくさんあった。


 「えっ? もしかして……この可愛くて大人っぽいケーキが、私の頼んでいたバースデーケーキなの?」

 「わあ――! 可愛い!」「えー、いいなあ! 私のバースデーの時に予約したい!」

 女の子たちはルルシアの作ったバースデーケーキを気にいってくれたようだ。


 「ルルシアさん。急で悪いけれど、今日の夜に私の家でバースデーパーティーを開くことにしたの。来てくれないかな?」

 一人の女の子が、誕生日らしい。ルルシアは初めて誘われて慌てていた。

 「えっ、いいのかしら?」

 「もちろんよ! 大歓迎! あ、でもそんなに広くない家なので、普段着で楽しくやるつもりだから気兼ねなく来てくださいね」

 カウンター越しに女の子四人で、仲良くお話をしている。微笑ましい。


 ルルシアはチラッとこちらを見た。私はもちろん反対なんかしないので、にこっ、と笑って頷いた。

 「では……、お伺いしますね!」

 ルルシアが返事をすると黄色い声が聞こえた。

 「わあ! 楽しみ!」

 「私だけで、楽しくやりましょう!」「楽しみ――!」

 四人で何かを話しているようだ。声を少し低くし相談をしているようで、私の所まで聞こえなかった。


 「じゃあね! あとで迎えに来るから!」

 「またね!」

 「あとでね――! ルルシアさん!」

 三人は注文のバースデーケーキをルルシアから買ってお店から出ていった。ルルシアは小さく手を振って、お友達を見送っていた。


  誕生会なら……、必要な物もあるのでは? と私は思った。私の方のお客様が帰ったのでルルシアの方へ近づいた。

 「あ、アルシュ。今日の夜、お誕生日会に呼ばれたから行ってくるわね」

 ルルシアはニコニコと笑っていた。

 「ルルシア。お誕生日会なら、プレゼントを渡さないといけないのを忘れてない?」

 私とルルシアの誕生日にお祝いして、お互いにプレゼントを渡している。でもお友達のプレゼントを用意している様子がなかった。


 「あっ……!」

 やっぱり……。バースデーケーキはお友達が注文したから作って持っていけないし、どうしようかしら。

 「どうしよう、アルシュ! 私、パーティーをやるなんて聞いてなかったから……」

 お友達も絶対にプレゼントをもらいたいって感じじゃなくて、パーティーを皆で楽しみたいという感じだったから、持っていかなくても大丈夫そうだけど、でも……。

 「町へ買いに行きましょう!」


 私とルルシアは、お店を午後から臨時のお休みにして町へバースデープレゼントを買いにやって来た。


 「ごめんね、アルシュ。お仕事があったのに……」

 ルルシアは八の字の眉になった。

 「いいのよ。どんなのがいいかしらね……?」

 人間の女の子の好みや流行があまりわからないので、ルルシアに選んでもらう。同じくらいの年齢の子だから選びやすいだろう。


 もし悩んだり決められなかったりしたら、花束を渡せば間違いないでしょう。でもそれは最終的に選ぶとして取っておく。

 「まだお友達になったばかりだから好みとかわからないけれど、自分の好きなものを送ってもいいよね?」

 ルルシアは私に相談をしてきたので頷いた。

 「普段使えるものか、自分であまり買わないものをプレゼントするか悩む……」


 ルルシアは悩んでいたけれど、お友達のプレゼントを選ぶために悩むなんて成長したのね……と、思った。










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