「え、どうして?」
ルルシアは私がギルドの人達と、あまり関わって欲しくないようだ。理由はわからない。
「だって……。ギルドの人達、アルシュを利用する……」
ルルシアの声がだんだん小さくなっていった。私を利用する?
「どういうこと?」
「……」
お店の中を見ると、お客様はいない。
「少し早いけれど、もうお店を閉めましょうか? 雨が降りそうだし」
ルルシアは頷いた。
私達は片付けをして、お店を閉めようとしていたらポツ、ポツ、と雨が降ってきた。
「降ってきたわ。もうお客様は来ないと思うから、早めに閉めてよかった」
「うん」
ルルシアのお店のお菓子が並んでいる透明なケースを見ると、めずらしく数個のお菓子が残っていた。
「めずらしいわね。残ったお菓子は、私達でいただきましょうか?」
ルルシアは残ったお菓子を見て、頷いた。
入り口の照明を消して、カギをかけた。それぞれお店のお掃除を終えて、窓のカギをしっかりと閉めた。
「閉め忘れている所はないわね?」
「大丈夫」
雨はだんだん激しく降ってきているようだ。窓にあたる雨の音が大きくなった。お店の明かりを消してプライベートな場所へ移動した。
「今日はこれだけ残ったわ」
ルルシアはトレーにお菓子を乗せて持ってきた。リビングのテーブルにトレーを置いてお茶を淹れようとしていた。
「アップルパイと、シュークリーム二つに、ミルフィーユ。どれを食べていいかしら?」
どれも美味しそうなので選べない。
「シュークリームは一つずつ。作るのに時間がかかったから、私はミルフィーユが食べたいな」
確かに……。
「じゃあ、私はアップルパイをもらうわね」
「うん」
リンゴがゴロゴロ入っていて美味しそうだ。
コポコポ……と、紅茶を淹れる音が心地よく聞こえてくる。
ルルシアはお茶を淹れるのが上手になった。以前はお茶が濃くて飲めないくらいだったけれど、今は美味しいお茶を淹れてくれる。
「紅茶で良かったかしら?」
「ええ」
テーブルに置いたティーカップの中の紅茶は良い香りがした。ルルシアがお茶を淹れている間に、私はお皿にシュークリームとそれぞれ選んだケーキを乗せた。ルルシアの前に、ケーキとシュークリームを乗せたお皿を置いた。
「いただきます」
「いただきます!」
アップルパイを口に入れると、甘いカスタードクリームとリンゴの甘酸っぱさが口の中へ広がった。パイ生地もサクサクとしていて美味しい。
「このアップルパイ、サクサク生地に甘酸っぱいリンゴが合って美味しいわ」
そう言って、またアップルパイを口に入れた。
「アルシュにそう言ってもらうと、自信がつくわ」
ルルシアはミルフィーユを、まるで観察するように見ていた。
「どうしたの?」
まだ食べずにお皿をまわしながら見ていた。
「あ……。作ってからお客様が買いに来て、そのあとのケーキって大丈夫かな……と思って」
確かに品物が売れた後の商品は、見ることがないから気になるわね……。
「もちろん色々気をつけているけれど。こうやって見て、参考にしたいの」
「なるほど……」
私はティーカップを持って紅茶を飲んだ。アップルパイと紅茶の組み合わせ、私は好きだ。
「うん。形は崩れてないし、乾燥もしてないようだし、味はどうかしら……?」
パクッと、ミルフィーユをフォークで食べたルルシアは、「うん」と頷いた。
「美味しいでしょう?」
私が言うと、ニコッと笑った。甘さ控えめ、ルルシアが試行錯誤して作ったお菓子たちは美味しい。ケーキを食べ終わり、シュークリームにかぶりついた。
「ん――! このカスタードと生クリームのなめらかさが、たまらない!」
大き目のシュー皮が、まだベチャとしてない。
「ふふっ! アルシュは本当にお菓子、好きよね」
ルルシアもシュークリームを食べた。
「違うわよ。ルルシアの作る、お菓子が好きなの!」
そう言うとルルシアは、「ありがとう」と言ってにっこりと笑った。
「……ギルドの、町の防犯組織に入ってどうするの?」
不意打ちのようにルルシアは私に聞いてきた。紅茶を吹きこぼさなくて良かった。
「町の安全のお手伝いをしたくて……」
ルルシアからきれいな布を渡された。それで口のまわりを拭いた。
「ありがとう」
ルルシアは私をジッと見ている。でも私の本当の目的は知らない方がいいだろう。
「噂って怖いのよ。正しい情報を耳に入れるのは必要で、皆で情報を共有して町の安全を守りたいの」
嘘ではない。……ないけど、ルルシアが納得してくれるか。
「そうね。町の安全は皆で守らなきゃ」
パクッとシュークリームを、口に入れたルルシア。納得してくれたかしら?
「それだけじゃ、ないような気がするけどね……」
ルルシアは小声で何か言ったので聞こえなかった。
「え? 何か言ったかしら?」
私が聞き返すと、別に何も言ってないと返事をした。
リビングの窓に雨が音を立てて降っている。まだ止まないようだ。カーテンを閉めているけれど、音が聞こえる。
「ルルシア、明日の用事は何かある?」
先に食べ終えたルルシアはお皿を洗っていた。振り向かず、お皿を洗ったまま答えた。
「いつものように、お菓子を作るわ。……あ、でもお友達がお菓子を買いに来るって」
ルルシアにできた友達が来るのか……。
「そう……」
「私はギルドに納品するものを詰めながら、お店に立つ予定」
「うん」
雨は明日には止むだろうか。そんなことを考えて、残りのぬるくなった紅茶を飲んだ。