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第32話 お店を閉めてからティータイム


  「え、どうして?」

 ルルシアは私がギルドの人達と、あまり関わって欲しくないようだ。理由はわからない。


 「だって……。ギルドの人達、アルシュを利用する……」

 ルルシアの声がだんだん小さくなっていった。私を利用する?

 「どういうこと?」

 「……」


 お店の中を見ると、お客様はいない。

 「少し早いけれど、もうお店を閉めましょうか? 雨が降りそうだし」

 ルルシアは頷いた。


  私達は片付けをして、お店を閉めようとしていたらポツ、ポツ、と雨が降ってきた。

 「降ってきたわ。もうお客様は来ないと思うから、早めに閉めてよかった」

 「うん」


 ルルシアのお店のお菓子が並んでいる透明なケースを見ると、めずらしく数個のお菓子が残っていた。

 「めずらしいわね。残ったお菓子は、私達でいただきましょうか?」

 ルルシアは残ったお菓子を見て、頷いた。


  入り口の照明を消して、カギをかけた。それぞれお店のお掃除を終えて、窓のカギをしっかりと閉めた。

 「閉め忘れている所はないわね?」

 「大丈夫」


 雨はだんだん激しく降ってきているようだ。窓にあたる雨の音が大きくなった。お店の明かりを消してプライベートな場所へ移動した。


 「今日はこれだけ残ったわ」

 ルルシアはトレーにお菓子を乗せて持ってきた。リビングのテーブルにトレーを置いてお茶を淹れようとしていた。

 「アップルパイと、シュークリーム二つに、ミルフィーユ。どれを食べていいかしら?」

 どれも美味しそうなので選べない。


 「シュークリームは一つずつ。作るのに時間がかかったから、私はミルフィーユが食べたいな」

 確かに……。

 「じゃあ、私はアップルパイをもらうわね」

 「うん」

 リンゴがゴロゴロ入っていて美味しそうだ。


  コポコポ……と、紅茶を淹れる音が心地よく聞こえてくる。

 ルルシアはお茶を淹れるのが上手になった。以前はお茶が濃くて飲めないくらいだったけれど、今は美味しいお茶を淹れてくれる。


  「紅茶で良かったかしら?」

 「ええ」

 テーブルに置いたティーカップの中の紅茶は良い香りがした。ルルシアがお茶を淹れている間に、私はお皿にシュークリームとそれぞれ選んだケーキを乗せた。ルルシアの前に、ケーキとシュークリームを乗せたお皿を置いた。

  「いただきます」

 「いただきます!」


 アップルパイを口に入れると、甘いカスタードクリームとリンゴの甘酸っぱさが口の中へ広がった。パイ生地もサクサクとしていて美味しい。

 「このアップルパイ、サクサク生地に甘酸っぱいリンゴが合って美味しいわ」

 そう言って、またアップルパイを口に入れた。


 「アルシュにそう言ってもらうと、自信がつくわ」

 ルルシアはミルフィーユを、まるで観察するように見ていた。

 「どうしたの?」

 まだ食べずにお皿をまわしながら見ていた。


  「あ……。作ってからお客様が買いに来て、そのあとのケーキって大丈夫かな……と思って」

 確かに品物が売れた後の商品は、見ることがないから気になるわね……。

 「もちろん色々気をつけているけれど。こうやって見て、参考にしたいの」

 「なるほど……」


 私はティーカップを持って紅茶を飲んだ。アップルパイと紅茶の組み合わせ、私は好きだ。

 「うん。形は崩れてないし、乾燥もしてないようだし、味はどうかしら……?」

 パクッと、ミルフィーユをフォークで食べたルルシアは、「うん」と頷いた。


 「美味しいでしょう?」

 私が言うと、ニコッと笑った。甘さ控えめ、ルルシアが試行錯誤して作ったお菓子たちは美味しい。ケーキを食べ終わり、シュークリームにかぶりついた。

 「ん――! このカスタードと生クリームのなめらかさが、たまらない!」

 大き目のシュー皮が、まだベチャとしてない。


 「ふふっ! アルシュは本当にお菓子、好きよね」

 ルルシアもシュークリームを食べた。

 「違うわよ。ルルシアの作る、お菓子が好きなの!」

 そう言うとルルシアは、「ありがとう」と言ってにっこりと笑った。


  「……ギルドの、町の防犯組織に入ってどうするの?」

 不意打ちのようにルルシアは私に聞いてきた。紅茶を吹きこぼさなくて良かった。

 「町の安全のお手伝いをしたくて……」

 ルルシアからきれいな布を渡された。それで口のまわりを拭いた。


 「ありがとう」

ルルシアは私をジッと見ている。でも私の本当の目的は知らない方がいいだろう。

 「噂って怖いのよ。正しい情報を耳に入れるのは必要で、皆で情報を共有して町の安全を守りたいの」

 嘘ではない。……ないけど、ルルシアが納得してくれるか。


  「そうね。町の安全は皆で守らなきゃ」

 パクッとシュークリームを、口に入れたルルシア。納得してくれたかしら?

 「それだけじゃ、ないような気がするけどね……」

 ルルシアは小声で何か言ったので聞こえなかった。

 「え? 何か言ったかしら?」

 私が聞き返すと、別に何も言ってないと返事をした。


  リビングの窓に雨が音を立てて降っている。まだ止まないようだ。カーテンを閉めているけれど、音が聞こえる。

 「ルルシア、明日の用事は何かある?」

 先に食べ終えたルルシアはお皿を洗っていた。振り向かず、お皿を洗ったまま答えた。

 「いつものように、お菓子を作るわ。……あ、でもお友達がお菓子を買いに来るって」

 ルルシアにできた友達が来るのか……。

 「そう……」


 「私はギルドに納品するものを詰めながら、お店に立つ予定」

 「うん」

 雨は明日には止むだろうか。そんなことを考えて、残りのぬるくなった紅茶を飲んだ。






















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