なぜ何も言ってないのにわかったのだろう。私は黙ってギルマスを見ていた。
「そう警戒するな。町で噂になっているのだろう? このギルドでは、すでにその噂を知っていた」
ギルマスが不敵な笑みをして私に言った。
「で? アルシュさんは、その噂を聞いてどうしてここに来た?」
私は冷静に、ギルマスへ説明をした。
「この町に、悪いことをした者を取り締まる
ギルマスと私は、なぜか睨み合っていた。
「なるほど。さすがA級の冒険者だけあるな」
ギルマスはアンナさんが淹れてくれたお茶を飲んだ。視線が外れたので私もお茶をいただいた。
「ギルドで、なにかお考えはありますか?」
「……ああ。ギルドからではなく、国から要請があった」
「そうですか……」
国から要請があったなら、すぐに取り締まってくれるような機関ができるだろう。
「そこで。A級冒険者のアルシュさんにも、手伝ってもらえないかと。せっかくギルドへ来てくれたのだから、協力していただきたい」
ギルマスは、アンナさんに何かを持ってくるように頼んだ。
「協力、ですか?」
そこまでは想定してなかった。協力、か……。でも色々な情報が入ってくるかもしれない。
「わかりました。ただ私はお店をやっていますので、いつでも……とは言えませんが、よろしいでしょうか?」
こういう場合はハッキリと、断っておかないといけない。
「もちろんだ。詳しくは、この紙に書いてあることを読んでくれ」
ギルマスからアンナさんへ、一枚の紙が渡された。
「どうぞ」
私に渡された紙を読んでみると、噂のあった『人さらい、および人探しをしている不審な人物』について書いてあった。私がもしかしたら……、と
でもギルドと協力していれば、私の知りたい情報が聞けるかもしれない。
「……私だけじゃないですよね?」
「もちろんだ。冒険者で腕の立つ者を、この町の防犯組織へスカウトする」
「私もその一員よ」
アンナさんも町の防犯組織の一員なのね。だったら安心……かしら?
「アルシュさんにやっていただきたいのは、町の皆へ注意喚起・不審者がいないか話を聞く・防犯組織の皆と見回りだ」
ギルマスは立ち上がって、私にもう一枚の紙を渡してくれた。
「危ないことは争いごとに慣れた連中を行かせる。アルシュさんは身の安全を守ることが一番だ」
「それなら私でも、できそうですね。……わかりました。ご近所さんと情報交換しますわ」
「たのむ」
私はギルマスに頭を下げられたので、慌てた。何か言えない裏のことがあるのか。
「ではこちらの防犯組織のバッチをつけてください。しるしになりますから」
バッチに、何かのマークが書かれていた。鳥だ。
「それは、ここのギルドのマークです。
バッチをアンナさんから受け取った。
「ではこれで……」
立ち上がってギルマスに挨拶をして、ギルドから帰った。
あまり深く関わりたくなかったけれど、私は
ルルシアと一緒に旅をしていた時も、仲間を探していた。――いつか会いたいと、願いながら。だけどエルフは人間から隠れて住んだり、姿を変えたりするからなかなか情報は集まらなかった。
「アルシュ、お帰り!」
考え事をしていたら、いつの間にかお店に戻っていた。ルルシアの笑顔にホッとした。
「ただいま」
「アルシュさんお帰りなさい」
「何もなかったわよ」
ご近所さん達が交代で、私が戻るのをお店で待っていてくれたらしい。
「ありがとうございます!」
ルルシアはご近所さんに守られていた。皆に好かれて可愛がられているので嬉しい。私は笑顔で皆にお礼を言った。
「アルシュ、ギルドに何の用だったの?」
ルルシアが心配そうに話しかけてきた。……話をしていた方がいいわね。ご近所様もいらっしゃるし。
「ギルマスさんとお話をして、町の防犯組織に入ったわ。……と言っても、皆さんのお話を聞いたり怪しい人がいないか見回りをしたりする、危険はない役割ですけれど」
ニッコリと微笑んだ。
「まあ! そうなの! それは皆で協力して町の安全を守りましょう!」
「守りましょう!」
ご近所の方々がすぐに団結してくれた。
「では、そろそろ私達は帰るわ! 皆に町の防犯組織ができたって広めておくわね」
「よろしくお願いします」
頼りになるご近所さんたちへ、来週発売予定のハーブティーのティーバッグをお礼に渡したら喜んでくれた。
見送ってお店の中へ入ったら、ルルシアがプクッと頬を膨らませていた。
「ギルドへ行ったと思ったら、町の防犯組織に入ったと言うのだもの。どういうこと?」
腕組みもしていた。怒っているようだ。
「人さらいの話が人探しの話に変わっていたわ。町の皆さんと気をつけたほうがいいと思って。それに私達、A級じゃない? ギルマスさんに協力してくれって言われてしまったし、……ね?」
「もお! ギルドの人達と、あまり付き合わないでよ!」
ルルシアが、プ――ッと、頬をまた膨らませた。