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第31話 町の防犯組織 


 なぜ何も言ってないのにわかったのだろう。私は黙ってギルマスを見ていた。

「そう警戒するな。町で噂になっているのだろう? このギルドでは、すでにその噂を知っていた」

 ギルマスが不敵な笑みをして私に言った。


 「で? アルシュさんは、その噂を聞いてどうしてここに来た?」

  私は冷静に、ギルマスへ説明をした。

 「この町に、悪いことをした者を取り締まるがないです。住人みんな、不安になっています。この町も大きくなってきたので必要かと思います」

 ギルマスと私は、なぜか睨み合っていた。


  「なるほど。さすがA級の冒険者だけあるな」

 ギルマスはアンナさんが淹れてくれたお茶を飲んだ。視線が外れたので私もお茶をいただいた。

 「ギルドで、なにかお考えはありますか?」


  「……ああ。ギルドからではなく、国から要請があった」

 「そうですか……」

 国から要請があったなら、すぐに取り締まってくれるような機関ができるだろう。


 「そこで。A級冒険者のアルシュさんにも、手伝ってもらえないかと。せっかくギルドへ来てくれたのだから、協力していただきたい」

 ギルマスは、アンナさんに何かを持ってくるように頼んだ。

 「協力、ですか?」

 そこまでは想定してなかった。協力、か……。でも色々な情報が入ってくるかもしれない。


 「わかりました。ただ私はお店をやっていますので、いつでも……とは言えませんが、よろしいでしょうか?」

 こういう場合はハッキリと、断っておかないといけない。

 「もちろんだ。詳しくは、この紙に書いてあることを読んでくれ」

 ギルマスからアンナさんへ、一枚の紙が渡された。


 「どうぞ」

 私に渡された紙を読んでみると、噂のあった『人さらい、および人探しをしている不審な人物』について書いてあった。私がもしかしたら……、とと違うようだった。


 でもギルドと協力していれば、私の知りたい情報が聞けるかもしれない。

 「……私だけじゃないですよね?」

 「もちろんだ。冒険者で腕の立つ者を、この町の防犯組織へスカウトする」


 「私もその一員よ」

 アンナさんも町の防犯組織の一員なのね。だったら安心……かしら?

 「アルシュさんにやっていただきたいのは、町の皆へ注意喚起・不審者がいないか話を聞く・防犯組織の皆と見回りだ」

 ギルマスは立ち上がって、私にもう一枚の紙を渡してくれた。

 「危ないことは争いごとに慣れた連中を行かせる。アルシュさんは身の安全を守ることが一番だ」


 「それなら私でも、できそうですね。……わかりました。ご近所さんと情報交換しますわ」

 「たのむ」

 私はギルマスに頭を下げられたので、慌てた。何か言えない裏のことがあるのか。


  「ではこちらの防犯組織のバッチをつけてください。しるしになりますから」

 バッチに、何かのマークが書かれていた。鳥だ。

 「それは、ここのギルドのマークです。ワシイーグルのイラストがトレードマークになります」

 バッチをアンナさんから受け取った。


 「ではこれで……」

 立ち上がってギルマスに挨拶をして、ギルドから帰った。



  あまり深く関わりたくなかったけれど、私はエルフの仲間生き延びた仲間の情報が欲しかった。いつか仲間と再会したい。まだ皆が生きて無事に会えることを願っていた。


 ルルシアと一緒に旅をしていた時も、仲間を探していた。――いつか会いたいと、願いながら。だけどエルフは人間から隠れて住んだり、姿を変えたりするからなかなか情報は集まらなかった。



 「アルシュ、お帰り!」

 考え事をしていたら、いつの間にかお店に戻っていた。ルルシアの笑顔にホッとした。

 「ただいま」


 「アルシュさんお帰りなさい」

 「何もなかったわよ」

 ご近所さん達が交代で、私が戻るのをお店で待っていてくれたらしい。

 「ありがとうございます!」

 ルルシアはご近所さんに守られていた。皆に好かれて可愛がられているので嬉しい。私は笑顔で皆にお礼を言った。


 「アルシュ、ギルドに何の用だったの?」

 ルルシアが心配そうに話しかけてきた。……話をしていた方がいいわね。ご近所様もいらっしゃるし。

 「ギルマスさんとお話をして、町の防犯組織に入ったわ。……と言っても、皆さんのお話を聞いたり怪しい人がいないか見回りをしたりする、危険はない役割ですけれど」

 ニッコリと微笑んだ。


 「まあ! そうなの! それは皆で協力して町の安全を守りましょう!」

 「守りましょう!」

 ご近所の方々がすぐに団結してくれた。


 「では、そろそろ私達は帰るわ! 皆に町の防犯組織ができたって広めておくわね」

 「よろしくお願いします」

 頼りになるご近所さんたちへ、来週発売予定のハーブティーのティーバッグをお礼に渡したら喜んでくれた。


  見送ってお店の中へ入ったら、ルルシアがプクッと頬を膨らませていた。

 「ギルドへ行ったと思ったら、町の防犯組織に入ったと言うのだもの。どういうこと?」

 腕組みもしていた。怒っているようだ。

 「人さらいの話が人探しの話に変わっていたわ。町の皆さんと気をつけたほうがいいと思って。それに私達、A級じゃない? ギルマスさんに協力してくれって言われてしまったし、……ね?」


 「もお! ギルドの人達と、あまり付き合わないでよ!」

 ルルシアが、プ――ッと、頬をまた膨らませた。



















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