私のお茶会は、地域の人々との交流会というものになった。
ギルドの建物の隣にある、この地区の領主の所有する建物を借りられた。町長さんに相談したら、領主の奥様が町の皆さんと交流したいとおっしゃってくれて、交流会が開催されることになった。
「『町の人々との交流と情報交換を目的』の交流会です。町の防犯組織の方達も参加していただいて情報交換をしていきたいと思います」
領主の奥様が主催者となって、会を進めてもらえることになった。
「私は主催を務めさせていただきます、領主の妻のナターシャといいます。よろしくお願いいたします」
奥様も名前はナターシャさん。お辞儀をし、笑顔で皆を見た。ほっそりとした感じの方だ。集まった皆がナターシャさんに拍手をした。
集まったのは町でお店を開いている方や、ご近所の奥様方、ギルドからはアンナさん。町の防犯組織から私とアンナさん以外は二人の冒険者が来ていた。
「堅苦しい会にしたくないので、お茶をゆっくり飲みながらお話していきましょう。お茶菓子提供はアルシュさんのお店、ルルシアさんの手作りのお菓子になります」
ナターシャさんがルルシアのお菓子を紹介すると、わあ! と歓声が上がった。どうやらルルシアのお菓子は、町の人達に知られているらしい。集まって人達は嬉しそうにしていた。
ナターシャさんが椅子に座って皆へ話しかけた。
「先日、この町で誘拐未遂事件が起きました。町のお知らせにも載せました。幸いなことに未遂でしたが、町の防犯に注意していきたいですね」
ルルシアの事件のことだ。名前を伏せてくれて良かった。
「そうですわね、皆で気をつけなければいけませんね」
怖いですね……と、皆が話し合っている。
あの時は私が側にいて、ご近所の方達とギルドの人達が助けてくれたので無事だったけれど……。他の人だったらどうなっていたか。
「今はギルドの方達と協力して、町の見回りをしてくださっています。怪しい人や何か違和感などありましたら、教えて下さいね」
ナターシャさんが皆に問いかけた。私は皆さんへ、ルルシアの作ったクッキーやラスクを配っていた。
「そういえば、違和感といえば……」
この町に何軒か貸し部屋を持っている、ルルシアのお友達のメリーさんのお母さんが手をあげて発言した。メリーさんはお母さんにどことなく似ていた。
「何でしょうか?」
皆、クッキーやラスクを食べながら和やかに話をしていた。メリーさんのお母さんの話に注目した。
「時々、見かけない人が町中を何か探して歩いているみたいで……。買い物に来たのかなと思っていたのですが、買い物はしてないみたいだし。でも身なりは普通で……」
メリーさんのお母さんは「あ、でも……勘違いだったらごめんなさい」と付け加えた。
これは人探しの方だろうか? そう思っていたらアンナさんが私の耳に小声で話しかけてきた。
「人探しかな?」
アンナさんもそう思ったのだろう。私は頷いた。
「その人は、どんな感じの人ですか?」
私は穏やかにメリーさんのお母さんへ聞いた。
「えっと、たしか長身の男性でした。武器は見た所持ってなくて、顔は普通の人で……」
私は
「そうですか。防犯組織の方、すみませんが、そのような方がいらしたら気をつけて下さいませんか?」
ナターシャさんがアンナさんと防犯組織の冒険者へお願いをした。
「わかりました! 気を付けて見回りしますね」
アンナさんは防犯組織の冒険者へ頷いた。
「どうしても村や町が発展していくと、色々な方がいらっしゃいます。お互いに気をつけて暮らしたいものですね」
ナターシャさんの言葉に皆が頷いた。……気になるけれど長身の男性だけじゃわからないし、ただの買い物客かもしれない。疑うのはいけないけれど、気を付けないといけない。
見回りを増やす、戸締りの強化、ご近所で声掛けをする……などが決まった。
「お茶のお代わりは、いかがですか? ルルシアさんの作ったお菓子、美味しいですわね。個人的に購入したいわ」
ナターシャさんが気に入ってくれて、お店に来てくれるそうだ。他の参加者からもお店に行くと言ってもらえた。
「ありがとう御座います」
ルルシアのお菓子は甘さ控えめで美味しい。皆が気に入ってくれて私も嬉しくなった。
一回目の交流会は、お茶やお菓子を食べながら穏やかに終わった。
「また来たいわね」
「今度はお友達を誘ってきましょう」という声が多かった。こうして顔なじみが増えていけば、何かあったときに助け合えるだろう。もっと小さいお子さんのいるお母さんたちが、来てくれる方法も考えなくてはならない。
今日は関係者とご近所の方が来てくれたけれど、もっと入れ替わりで来てほしいと思った。
「ギルドへ寄っていかない?」
「ええ」
アンナさんに誘われたので、そのままギルドへ寄らせてもらった。もし、簡単な依頼があったら受けようかと依頼書を見たかったからだ。
すぐ隣のギルドへ、アンナさんと中へ入った。冒険者たちが何か良い依頼がないか、壁に貼られた依頼書を見ていたりギルド職員に尋ねたりしていた。
「あ、アンナさん! アルシュさん、こんにちは!」
「こんにちは」
「こんにちは!」
「こんにちは」
強面の冒険者たちが私に挨拶してくれている。今じゃ顔なじみになって、お店に来てくれたり防犯組織の仲間になってくれたりしている。
「私は依頼書を見せてもらいますね」
「ええ。またね!」
アンナさんへ話しかけて別れた。
壁の掲示板に貼られた、たくさんの依頼書を見てみる。簡単なものは、お手伝い程度のお庭の雑草取りから薬草採取など、冒険を始めたばかりの人にもある。
私は自分の薬草を採るついでに、依頼を受けようとした。
「あら?」
端の方にあまり目立っていない依頼書があった。大きな掲示板の下の方に貼ってあった。その依頼書は【『
『雷草』というものは、滅多に見つけられないもので知っている
私がこの『雷草』知っているのは、エルフだからだ。エルフが薬を作るときに使う植物。
それに……。この依頼書には『雷草』の絵がない。知っている者しか採ってこられない。私は依頼書を掲示板から剥がして、ギルド職員がいるカウンターへこの依頼書のことを聞きに行った。
「ああ! その依頼書ですか? 最近、王都から届いたものなのですが……。誰もその『雷草』を知らないので、ずっと残っているらしい」
男性ギルド職員の方が教えてくれた。報酬は、見つけたら一か月は働かなくてもいいくらいの金額だった。
「期限は……、見つかるまで? 期限なしの依頼なんて、めずらしいわね」
私が独り言のように言うとギルド職員さんが笑いながら言った。
「そうですね! まるで、見つけられるのなら見つけてみろ……って言っているみたいですよね」
私は男性のギルド職員の言葉に、ハッ! とした。
「アルシュさん、どうしました?」
「あ、いいえ。他の依頼を探してみるわね」
そう言って、カウンターから離れて掲示板へ戻ってきた。
隣には、冒険者たちがお得な依頼書を探していた。仲間を探している冒険者もいた。元の位置に依頼書を張り付けた。
「まさか……」
小声で私は呟いた。賑やかな冒険者ギルドの中で、私の小さなつぶやきなんか聞こえない。
「仲間が……?」
だけどそれを確かめるには、まだ私にはできなかった。