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第44話 私のバカ

 リセは一人、公園のブランコに座っていた。 空は夕闇に包まれ始め、赤く染まっていた。


「バカ、私のバカ」


 リセはブランコをゆっくりと揺らしながら、零れ落ちる涙を拭った。


「ヒロが選んだのは水原先輩、私じゃない……」


 携帯が鳴り、見ると川崎からの着信だった。リセは受けずに切った。もう話す気力も残っていなかった。


 そこへ再び電話が鳴った。今度は別の人物からだ。


「もしもし?」


「宮坂さん? 白野です」


 リセは息を呑んだ。


「どうして、また」


「君の様子を見てたんだ。随分落ち込んでるみたいだね」


「見てたって、あなたストーカーなんですか?」


「そんな言い方しないでよ。僕はただ心配してただけさ」


 白野の声には奇妙な優しさが感じられた。


「資料を見せて、君を傷つけたことは謝るよ。でも、本当のことを知ってもらいたかった」


「……」


「しおりは本当に川崎のことが好きなんだ。でも、それは純粋な気持ちじゃない。彼女なりの執着さ」


「それが何ですか? ヒロは水原先輩を選びました」


「本当にそれで満足?」


 白野の声が低くなる。


「君は川崎のことをずっと想ってきたのに、簡単に諦めちゃうの?」


「でも」


「宮坂さん、会って話さないか?」


 リセは迷った。白野は明らかに怪しかったが、今の自分には誰かと話さないと心が持たない気がした。


「どこで?」


「君の近くのカフェでいいよ。今から行ける?」


「わかりました」


 ★


 カフェでの会話は、リセの心に複雑な感情を残した。


 白野は水原の過去の行動、川崎への執着の証拠を次々と見せた。そのどれもが決定的な証拠ではなかったが、リセの不安と疑念を増幅させるには十分だった。


「彼女は川崎を自分のものにするために、どんな手段も使う」


 白野は静かに言った。


「初めて見た時から彼に執着し、学校にも忍び込み、そして今回の借金の話、全て計画的なんだ」


「でも」


「しかも、彼女が借金を肩代わりしたお金、知ってる? それはね」


 白野の言葉に、リセは息を呑んだ。


「そんな」


 帰り道、リセの頭は混乱していた。白野の言葉は信用できないと思いながらも、その内容は心に引っかかる。 もし本当なら、ヒロは完全に騙されている。


 そして何より、一つの考えが彼女の心を離れなかった。 ヒロを救わなければ。

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