リセは一人、公園のブランコに座っていた。 空は夕闇に包まれ始め、赤く染まっていた。
「バカ、私のバカ」
リセはブランコをゆっくりと揺らしながら、零れ落ちる涙を拭った。
「ヒロが選んだのは水原先輩、私じゃない……」
携帯が鳴り、見ると川崎からの着信だった。リセは受けずに切った。もう話す気力も残っていなかった。
そこへ再び電話が鳴った。今度は別の人物からだ。
「もしもし?」
「宮坂さん? 白野です」
リセは息を呑んだ。
「どうして、また」
「君の様子を見てたんだ。随分落ち込んでるみたいだね」
「見てたって、あなたストーカーなんですか?」
「そんな言い方しないでよ。僕はただ心配してただけさ」
白野の声には奇妙な優しさが感じられた。
「資料を見せて、君を傷つけたことは謝るよ。でも、本当のことを知ってもらいたかった」
「……」
「しおりは本当に川崎のことが好きなんだ。でも、それは純粋な気持ちじゃない。彼女なりの執着さ」
「それが何ですか? ヒロは水原先輩を選びました」
「本当にそれで満足?」
白野の声が低くなる。
「君は川崎のことをずっと想ってきたのに、簡単に諦めちゃうの?」
「でも」
「宮坂さん、会って話さないか?」
リセは迷った。白野は明らかに怪しかったが、今の自分には誰かと話さないと心が持たない気がした。
「どこで?」
「君の近くのカフェでいいよ。今から行ける?」
「わかりました」
★
カフェでの会話は、リセの心に複雑な感情を残した。
白野は水原の過去の行動、川崎への執着の証拠を次々と見せた。そのどれもが決定的な証拠ではなかったが、リセの不安と疑念を増幅させるには十分だった。
「彼女は川崎を自分のものにするために、どんな手段も使う」
白野は静かに言った。
「初めて見た時から彼に執着し、学校にも忍び込み、そして今回の借金の話、全て計画的なんだ」
「でも」
「しかも、彼女が借金を肩代わりしたお金、知ってる? それはね」
白野の言葉に、リセは息を呑んだ。
「そんな」
帰り道、リセの頭は混乱していた。白野の言葉は信用できないと思いながらも、その内容は心に引っかかる。 もし本当なら、ヒロは完全に騙されている。
そして何より、一つの考えが彼女の心を離れなかった。 ヒロを救わなければ。